その後のアシルステラでは -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日は遂にモートレルの飲食店にカレーの作り方を教える日だ。
予めカレーを作りたいお店に手をあげて貰って、その中から抽選して当たった3店舗が集まって、厨房で今日の騎士団のお昼として作って貰って、そのレシピを伝える。
今回当たらなかった店舗には、また次回抽選して何種か作るパスタを一つづつ教える予定だ。
とにかく、各店舗で料理が被らないようにメニューを増やして、それぞれ別の種類を作って貰って、お客さん達には色々なお店に通って貰って、新しい料理のある町を演出していく方針だ。
「それじゃあよろしくお願いします」
「はい、あのアリシア殿に教えて貰えることになるとは」
「いやあ、旅人の噂になるといいなあ」
カレーはやっぱりナンで食べて貰う。そのナンは皆で同じ物を作って、もう慣れている厨房の人にも手伝って貰って、今日のお昼ご飯は3種類のカレーを皆で作る。
厨房の担当者にも、今一度アリシアの味との確認作業でもある。
作るのは日本的なカレー、バターチキンカレー、キーマカレーの3種類。
料理にかかる原価はそれぞれのカレーで多少変わるかもしれないけれど、味も見た目もかなり違うので、商売上は喧嘩にはならないと思う。
「それじゃあ始めましょうねー」
今や子爵となったアリシアは、やっぱり以前と比べても態度が変わっていないので、集まった店長さん達も必要以上の緊張は無しに調理を始めた。
* * *
厨房でのカレー作りとは別の目的があって、それは騎士団。今日はまたイリーナが来ているので、彼女の治癒魔法をアテにして小型ゴーレムを多数作ってのグループ戦をやって貰う。
隊員同士では常に模擬戦をやっているけれど、多数のゴーレムを相手にするという訓練はこれまで無かった。今後の新しい訓練の形になるかもと、外の町からルハードが一つの隊を連れてきている。
アリシアは厨房のある2階の廊下の窓からから、ゴーレムを作って自動で動くのを補正しながら、カレー作りの指導も行う。
「アリシア君と一度剣を合わせてみたいという者もいるが、それはそれとして、これが私の求める日常の訓練だな」
ルビィに連れられて、ランセル将軍がまたやって来ている。
この町で起きた占領事件もまだ古い話じゃ無いし、先日ようやく終わった隣国ザクスンでの騒動もあるから、国同士の戦いは久しいけれど何が起こるか解らない。そうなるとやはり、日頃からの鍛錬で鍛え、不測の事態への準備を怠るわけにはいかない。
「アーちゃん自身が剣士だから、人型に限ると学院の誰よりもあのタイプのゴーレムは上手く作れるナ」
「安全に実戦を経験させるには、片方の怪我を考えなくていいのはありがたいな」
このところの日本の状況もあって、霞沙羅も見に来ている。
自分の部署は基本的には幻想獣を相手にするので、相手は人型に限られないのだが、アリシアが言うにはゴーレムは別に人型に限られていない。
見たことがない動きを作るのは難しいけれど、レアな幻想獣でも映像があれば何とかなるんじゃないかとのこと。なので自分の部下達を育成する参考にするためにやって来た。
人間同士でやるのは訓練として間違っていないが、もう少し気楽に戦いの経験を積ませるのも間違いじゃない。
アリシアが学校でやりたいのは、学生達の将来に備える準備だから、これとは別の話。ただゴーレムのフォーマットは対象者別に幾つも揃えておきたい。
「じゃあ始めますからね」
想定しているのは、他国からの侵略や盗賊、敵対的な結社など。敵は全て人間。
果たして10対10の戦いが始まった。
作ったゴーレムは前回アンナマリー達に協力して貰って強さを調整したもの。このモートレル騎士団の平均値より少し上くらい。
土のゴーレムではあっても、魔力を纏っているのでやっぱり硬い。例え団員達の剣が当たってもそうそう壊れることはない。
「ターゲットとしてはいいんじゃないのか?」
ゴーレムはかなり善戦している。それに実力の低い団員に当たったゴーレムは押しているよう見える。
「皆同じ性能なのは良くないですかねえ?」
行動にはランダム性を入れているので、動きにはムラがある。でも実力差の調整にはあまり影響していない。
「少し難易度バランス調整するべきじゃねえか?」
「強いのと弱いのは混ぜた方がいいな。多少ばらつきがあるからこそあの中にいる指揮を執る者にも戦略という事が意識出来るのではないだろうか?」
あいつが強い、あいつが弱いという要素があれば、弱い団員にも出番が出てくる。それに皆同じ性能のゴーレムから一方的に弱い団員が攻められてしまうと、それのフォローで手一杯になりかねない。
「ゴーレムが団員を蹴散らすのが目的じゃあないからな。まあ負けるのもいい経験だが、その機会を与えるのは上の人間の役目だろう」
管理職の人達から意見を貰って、まだ調整が必要なんだな、とアリシアは調整用のメモをとった。
「とはいえこれは魔術士には酷だな」
魔導士の下のランクとなる魔術士。一般的な、大半の魔術師が位置する階位。
アリシアのメモは中級程度の魔術士であっても見たら頭を抱えそうなくらいのパラメーターが書かれている。これを一個一個調整して、魔術基盤に落とし込んでいる。腕力、速度、反応速度、重量、各関節の可動範囲、そのパワーバランス。
人間の関節ってのは幾つあったっけなと、考え直してしまう。それぞれが持つ柔軟性まで考慮に入れて、そのくらいにアリシアは剣士としての技術をつぎ込んでいる。
独自の魔術基盤には思考パターンも膨大に設定出来るようになっている。
霞沙羅が見ると興味をそそるが、そう思える人間がどれだけいるのだろうか。決まったら、術式も簡素化して規格として纏めて渡すしかない。
改めて、地球では今や廃れてしまったゴーレムに手を出してみようと思う霞沙羅だった。
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