アリシアは何を作っている? -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
夕食が終わって、元旦に向けて伽里奈用の袴がアンナマリーとシャーロットに着れるかどうかを確認するために、部屋から二着を出してきた。
一着目は薄いピンク色の着物と濃い赤の袴のセット、もう一着が淡い黄緑色と青い袴。
「身長はお前の方が高いが、それもそこまで差がない」
シャーロットとアンナマリーの身長は伽里奈とそんなに変わらなくて、その差は許容範囲。
体格も胸の膨らみがあるかないかくらいで、みんな標準的な体格だし、作りからして多少の調整は効く。
さすが元呉服屋の生まれ。着付けは霞沙羅がやってくれるという。
「わー、すごい」
ザ☆和服。
それでも吉祥院の服とは違う。向こうは白の無地だけれど、こちらは花の模様があしらわれていてオシャレだ。
「す、すごいな。どうなってるんだ」
アンナマリーもドレスを幾つも持っているけれど、クオリティーが違う。ものすごい精巧な技術でもって生地が作られている。
「まあ着てみろ」
霞沙羅は2人を2階の二人部屋に連れていって、着付けを始めた。
「あーあ、ボクの服なのにー」
まあ正月に着る予定は無いけれど。
「小僧は執事姿でよいでないか」
「家で着ると仕事が出来なくなりますからねー。フィーネさんも家の中ではもうちょっとくつろげる服にしません?」
フィーネは今日も黒いドレスを着て、雑誌を読んでいる。当然ドレスは何着も持っているので、毎回違う。それでも全部黒なので同じ服を着ているようにも見えてしまう。
通常は入浴後にはバスローブを着るけれど、大体はすぐに部屋に引っ込んでしまい、ネグリジェ姿になっている。
そのネグリジェも黒。
伽里奈はフィーネの服を洗濯しているので、彼女の服はよく解る。下着も黒だ。
本来の姿が全身黒い龍なのもあって、肌も褐色だけれど、髪だけは金髪だ。
宝石のついたアクセサリーを多数つけているので、不吉そうな真っ黒なイメージでは無いけれど、黒だけはどうかと思う。
「霞沙羅さんの実家から白い服のモデルをやって、貰ってませんでしたっけ?」
「あれは仕舞い込んである」
「そうなんですか? 勿体ないなあ」
黒にこだわるのもいいけれど、たまには別の、白とか赤とかでもいいんじゃないかと思う。あと普通にセーターとパンツルックとか。
「なんじゃ、小僧は我に別の服を着よと意見するのか?」
「意見とかって訳じゃないですけど、もうちょっとくつろいでもいいような気が」
「これでも我はくつろいでおる。小僧が心配するような話ではない」
「わかりました」
まあ本人の自由だし、これ以上はツッコまない方がいいだろう。
そんな事をしていると、2階から着替えを終えた2人が降りてきた。
アンナマリーがピンクの方、シャーロットが黄緑の方を選んだようだ。
「霞沙羅って器用なのね」
「実家の仕事だぞ」
あまり家庭的な要素が無い霞沙羅の着付けは、育った家も関係していて見事な腕前だ。
やどりぎ館では和服を着ることは無いけれど、実家と軍絡みで年に何回か着ることはあるので、手際はいいし、きっちりと着付けられている。
霞沙羅にしては家庭的な面が…、とは思えないのが悲しいところで、どちらかというと着付けの職人という感じしかしない。
「いいじゃないこれ、ねえ伽里奈、写真撮ってよ」
それでも気に入ってくれて何よりだ。袴を着てご機嫌なシャーロットはスマホを手渡してきたので、伽里奈は何枚も写真を撮ってあげた。
「家にも送っちゃお」
「か、伽里奈、わ、私も」
「それは私がやるわよ」
エリアスがカメラを持ってやって来たので、アンナマリーは任せることにした。
2人とも日本人とは違う姿をしていて、観光で服をレンタルしました、という感じではあるけれど、そんな事は気にせずに、大きな姿見も出してきて、自分で確認しても喜んでいる。
「これにブーツが合うの?」
前に履き物はブーツでいいと言われたけれど、洋服とはあまりにもかけ離れているので、実際に着てみて不安になっている。
「ほれ、こうなるわけだ。それに草履は慣れてないと足が痛くなるし、この雪の北海道を歩くには草履は無理だ」
霞沙羅は実家HPの着付けの例を見せた。
ちなみに吉祥院はちゃんと自力で対策を立てて草履を履いている。ただ、戦いとなると動きにくいので白いブーツに履き替えている。
「解ったわ」
そもそも伽里奈も草履を持っていないので、履きたいと言われても貸すことは出来ない。
「当日はエリアスも着ましょうよ。持ってるんでしょ?」
「久しぶりに着ていいかもね」
「霞沙羅は…、元旦は仕事じゃったな」
「うう、これでロンドンを歩きたい」
ロンドンの町をこれで歩いたらさぞかし注目の的になるだろう。さすがの日本人もこんな服装で観光することは、まず無い。
となるとロンドンではシャーロットだけが着ている服装という事になる。
「私もこれでラスタルを馬車で移動したいところだ」
「やっぱりお前は徒歩移動はしないんだな」
「貴族でも地位が下がってくると歩きも多いんですけどねー」
ラスタルに14年いたけれど、エバンス家の人間が徒歩移動したという話は聞いたことがない。お兄さん達だって出兵する時は、その姿は馬上にある。
モートレルでは徒歩のアンナマリーも、ラスタルを歩くとなれば馬車という考えは変わっていない。
「今何時? ちょっと自宅に行ってくるわ」
今の時間は午後8時ちょっと前。ならロンドンは午前11時ちょっと前。よしよし、とシャーロットはブーツを履いて裏の扉から出て行ってしまった。
「はしゃいでるな」
まあ日本人でも、各地で卒業式や成人式に着ては大はしゃぎしているくらいだから、仕方ないかもしれない。
この綺麗な見た目で普段使いが出来る服なので、やっぱりなかなか類を見ない非現実感が味わえる服ではある。
「ラスタルは…」
「もう真っ暗だよ。貴族が外をウロウロする時間じゃないよ」
いつもと違って時差が無いことがアンナマリーには残念な結果になってしまった。
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