アリシアは何を作っている? -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
会議は引き続いて、折角集まったのだからと、お互いの世界にある宝物庫のセキュリティーについて、軽く意見交換となった。
構造や術式についての細かい話はまたいつかとして、設備に対する発想の元やその方針について話し合いが始まった。
「例の2人組が問題というだけでなく、宝物庫は常に盗難の危険にさらされておるからのう」
王者の錫杖だけで無く、使い方次第では大きな被害を出しかねない魔工具もまだまだ保管されているので、今出来る万全を尽くすしか盗難を防ぐ方法は無い。
機械文明のセキュリティーシステムを導入するのはフラム王国では無理だけれど、どういう事をやっているのか、を聞けたのは収穫だ。
それをどう魔術で模倣するかが新しい課題となって、タウ達も設備の更新に乗り気になってきた。
こればかりはアリシアの専門外なので、設備に強い魔術師の領域で、冒険から帰ってきてからは設備の研究もしているルビィにもいい時間になった。
「魔術中心のセキュリティー設備については、こちらの世界からすれば色々と参考になったでござる。もう少し魔術設備にも力を入れたいであります」
収穫になったというのは吉祥院も同じだ。
アリシアが調理盤で湧かしたお湯からのお茶を飲みながら、雑談は終了した。
「アーちゃん、そういえばあの新しい探知機の話が抜けているゾ」
「あれは軍でも注目されているだっちゃよ」
「じゃあ借りてきますよ、ここはモートレルですから」
ヒルダの所に3個あって、全部出払っているわけでもないので、1つだけだけ借りてきた。
「これはこれは、ヒルダ殿」
ついでにヒルダもやってきた。魔術は基本のみの習得だけれど、妙な機能が隠されているようなので、その説明を聞きに来たのだ。
「つけたのはいいけど、今の騎士団じゃ使えないから」
「とにかく説明して貰える?」
アリシアの魔物探知機は飛行船に積んで検証したくらいには話題になったけれど基本は古いモノ。新しい探知機は割と最近作り直したモノなので、形も小さくなっていて、タウ達は驚いた。
「騎士団の周辺パトロール用なので、効果範囲はかなり狭くなってますが、収集出来る情報量は増えてます」
前回はある集団を一つの形として、その数とか魔力量を判定するのみだったけれど、範囲が狭くなったのでその分精度が上がって、正しい数が解るようになった。
それとターゲットの方向が解ったら、探知をそちらの方向に集中させれば、距離を伸ばすだけでなく範囲内にある障害物や地形も判定出来るようにもなった。
「それと、専用の重力系魔術を使用すると対象の形も解るようになってます」
だからまあ、姿が解っていれば何の魔物なのかを遭遇前に知ることが出来るようになった。
この重力系というのが基本魔術では無いので、騎士団では使えないと判断して、今は機能を止めてある。
「まあ確かに、そうよね」
重力系は魔術師の資格試験では範囲外なので、正規の魔術師でも習得している人は殆どいない。
「ライアが得意なやつだナ」
「あいつがか?」
軽業師というか暗殺者というか、忍者のようなアクロバティックな動きをするのがライアの戦い方。身体能力もバランス能力も高いけれど、そこに重力系を利用するので、技術と道具だけではどうにもならない想像を超えた動きをする事で恐れられた。
「重力系で垂直の壁を歩いたり、天井に逆さに張り付いたりするんですよ。出力を調整して飛んだりもしますね」
「それはいいから、一度触らせるのだ」
話し合いも終わったというのに、また新しい道具が出てきたので、タウ達は興味津々。
残念ながら魔物は今周辺にいないので、擬似的な魔力の塊、ゴーレムを作ってその性能を確かめることにした。
騎士団に魔法学院の重鎮達が数名やって来たので、たまたま来ていたルハードも恐縮する中、機能の説明が始まった。
「ずいぶんと弱々しいゴーレムを作るな」
魔物の代わりにアリシアが土を使って10体ほどのゴーレムを作成した。例の騎士型の小さいゴーレムだ。
「これの性能テストなので数が必要ですから」
吉祥院がいるので、この弱いゴーレムの目的は黙っていないといけない。
ああまあそういう事、と一同納得して、ゴーレムは少し離れた所に移動させた。
「しかしヒルダよ、この程度の探知範囲で問題はないのカ?」
「基本的には町の探知機で見ているから、問題無いわよ。それに突発的に飛んできた魔物がいたら現場判断にしてるし」
これのおかげで何も見えないのにいきなり飛来して襲われる心配は無くなった。少なくともある程度の準備時間は作ることが出来る。それに今回の探知機は数もハッキリ解るから、今いる人数で無理そうなら、接触前に撤退をするなりして、応援を呼べばいい。
「敢えて範囲を絞ったわけじゃな」
「取捨選択でやんすなあ」
なかなか探知の反応も良いようで、離れた所にいるゴーレムの数もあっている。
吉祥院にしてみれば先日のガーディアンの数もあっていたので、今日は再びその精度の再確認が出来た。
しかもこれ、スマホやタブレットPCのように画面に映る範囲を拡縮出来る優れものだ。
「では重力波といこう」
対応する術はアリシアから教わって、タウが代表して重力波を使用して、ゴーレムの形をスキャンする。
「おお、多少形はぼやけるが、大きな差異はなさそうじゃな」
「離れていくとちょっと、もう少しぼやけますけど」
ある程度個体同士が近寄ると表示される形が合体してしまうけれど、まあそれは仕方が無い。
「王都の騎士団にも持たせてやりたいのう」
「船にも積みましょう」
「日本向けのはあるのか?」
「まだヒーちゃんに売った3個しか無いです。地球向けには設計は終わってますけど」
アンナマリーの安全の為にモートレル用のものを優先して作ったので、余分の探知機は存在しない。
だから魔法学院が「貸せ」と言っても貸し出せるモノはない。
「「とりあえず予備を作れ」」
「ええー」
フラム王国と日本の代表両方から「作れ」と言われてしまった。
こんなこともあろうかと、と作っているだけなのでとにかく資材が無い。フラム王国側は学院もあって入手は出来るけれど、日本側は軍の資材を自由に使えるわけではないので、先代のも使えそうなパーツをかき集めただけだ。
「私の家のパーツを使っていいから作れ」
「解りましたー」
「じゃあアーちゃん、重力波を使える人材を何人か育てましょう」
「まあ探知機用の魔法だけに絞れば、何とかなるかもしれないけど」
結局また忙しくなってしまった。
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