アリシアは何を作っている? -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
学院用の飛行船が飛行実験で順調に飛び回っている事もあって、王族用の同型の飛行船も急ピッチで製造が進んでいるようで、その前にキャビンの設備を充実させよと、王様は各方面に相談している状況だ。
内装は造船部門の方でお屋敷専門のデザイナーさんを雇って作っていっている最中なので、それはいいとして、もう少しマシな台所設備を欲している。
頻繁ではないにせよ、フラム王国内を見回りに行く事もあるので、その移動中に、国の王様とある程度身分の高い家臣が乗る事もあって、以前のような冷めたお弁当と鍋、というかスープという食事状況を改善したいと思っているようだ。
「王様ってのは、ある程度我が儘なもんなんだな」
霞沙羅と吉祥院の事を考えて、今回の会議はアリシアの提案通りにモートレルの分校の講堂を借りて、学院のタウ達数名とルビィとアリシアと霞沙羅と吉祥院が集まった。
「王が使う施設は他国の目にも触れるモノなのじゃ。飛行船はザクスンやリバヒルも建造中で、再び同盟国間を外交で行き来する日も近いじゃろう。そこで飛行船においても少しでも他国と差をつけようというのは、当然の流れでのう」
「まあウチの国も、サミットなんかで他国の元首が来ればいい飯を食わせたり観光名所を見せたりするしな」
勿論宿泊場所も、日本の趣を感じられる超高級旅館を借り切ったりと、新旧こだわらずお国自慢をPRする。
どこの国も同じだ。それは世界が違っても、他よりちょっとでも良い部分を誇りたい。
そして今のフラム王国には異世界住まいのアリシアがいるから、ラシーン大陸には無い感性や知識を活かして欲しいと考えるのは当然。
「リバヒルの船は外装も綺麗なんですよねー」
「そういう事なのじゃ。ところでお二方はどのような目的で?」
「ウチの方は軍の前線でっていうのもあるんですが、災害対策専門の部署がありましてね、例えば水害なんかが起きた時とか、人の日常生活が崩壊した場所に派遣されて人命救助や簡易的な復旧などをやるんですよ」
「そのような専門部隊が、ほほう」
ラスタルというかアシルステラの方は、領内で災害があった時は治安維持も含めて騎士団の選抜メンバーが行く。騎士団の人間にはある程度の土木経験は積ませてはあるけれど、そればかりやっている専門家はいない。
「それもあって、現地に食料を持ち込む場合に、出来るだけ多く持っていって、それを保管するのに、アリシアの冷蔵箱が大小実用化されてて、助かっているんですが、料理がね…、調理がなかなか難しい場面がありまして」
携帯型ガスコンロだったり、プロパンガスを持ち込んだり、キャンプ的な竈を作ったりで対処はしているけれど、災害ではガスも電気も使えなくなる場合も多く、一時をしのげる代用品が何かあれば欲しいと、上から言われている。
タウ達には説明がし辛いけれど、電気やガスに通信などが張り巡らされて便利な世の中ではあっても、そんな社会インフラがやられてしまうと、文明社会に生きる人間はやっぱり弱い。
「じゃあ説明しますよ。冷蔵箱と冷凍箱はいらないですね?」
一応持って来てはいるけれど、もう解っているので割愛対象になった。
「船に温蔵箱を乗せたいんですよねー」
「弁当を温めておいたり、形は違うがコンビニのレジ横にあるやつだよな?」
「そうです。あまり長いことは入れておけないですけど」
アリシアは中に入れていたピザパンを配って説明した。
「なるほど、お前の言いたいことは解る。効果を見る為に一度船に乗せて飛んでみようではないか」
しばらく置きっぱなしにしていた箱の中からは暖かくて、上に乗ったチーズもまだ柔らかい食べ物を食べて、タウ達は納得した。
作りたての温かさとは違う。けれど温かい、たったこれだけでも、食べる側としては嬉しい。
「これも訊いておくか」
実物は電気が無いと動かない代物なので、被災地で使えるのではないか? 別にパン類でなくても、スープなどを作って入れておいてもいい気がする。
現場に持ち込むなら電子レンジもあるけれど、電気がないのでは動かない物だし、被災地では少しでも温かい物を口にする方が避難者のストレスにもなりにくいだろう。
「それとこの…」
アリシアが一枚の板を出してきて、霞沙羅と吉祥院が「その手があったか」と説明をする前からそれの有用性を理解した。
「まだ安全な上限温度が確認出来てませんが、調理盤です」
IH調理器の魔工具版だ。
「やりやがったな」
何で今までこれが無かったんだろうかと、炎の魔剣も作れる霞沙羅は苦笑いした。
「構造的には上に置いた金属のフライパンとか鍋に熱を移動させる道具なんですけどね。火は出ないので炙ったりは出来ませんが、フライパンならお肉を焼くことも出来ます。完成すれば木造のキャビンに置いても火事にならないので安心かと」
「やっぱりそこに行きつくでありんすな」
片面からしか熱伝導は起きないけれど、板の方もどうしても熱を持ってしまうので、あまり温度を上げすぎると火事に発展しかねない。なので今は反対側の面にその対策をしている所。
「なんだ、あれはそんなにすごいモノなのカ?」
「いや、日本じゃ普通に売ってる調理器具を元にしたものだぜ。アリシアが言ったとおりの道具で、確かに火事にはなりにくくて安全だから、ある程度家庭や飲食店にも普及している」
「コンロというか竈はそちらの世界にもありますでしょうが、一般売りの機材で問題なのは、災害が起きると動力の供給がなくなって、動かなくなる所でありんす」
「ではあれハ?」
「火系の熱の魔術で動いているから、どこでも使える」
「野外でも安全に料理が出来るのでござる」
「炎が出ない炎の魔剣と言えばいいか?」
「そうですねー」
勿論温度調整も出来る。今の所熱量的には携帯型ガスコンロ程度を想定している。居酒屋で出るような鍋料理が出来るくらい。
何となく、港町ブルックスから魚を買って帰っている最中に「ちょっとお鍋でも」という船内を想像して作ってみた。
携帯用だし日常的に使うモノでもないので、そう大層な料理を作る気は無い。
「まあ、アシルステラ用なんですけど」
「いやいや、アリシア君には安全に使えるように、日本向けにもやって欲しいでござるよ。それ、滅茶苦茶軽いよね?」
厚さとしてはノート一冊くらい。試作品としての大きさはB5サイズ。素材は火災を気にして陶器に樹脂っぽいコーティングがされている。
重量としては機械が入っているわけでは無いので、軽い。
そしてこのコーティングは熱が机に伝導する事を防いでいて、今はこれをちょっとずつ改良をしている。
「それを使ったことはあるのか?」
「分校の、ここの部屋でお湯を沸かしてますけど」
温度的には水が沸騰する100度くらいまでにしている。次の段階は200度くらいまではいきたいのが目標。
火系はある程度までなら簡単に火力が出せるけれど、低出力で維持しようとするのはちょっとコツが必要になってくる。
「では研究を続けるがよい。耐火の素材で訊きたいことがあれば声をかけよ」
「解りました」
木造の船に搭載するには火が出ないのはいい。最近のアリシアは冷蔵箱などで温度調整の巧みさが皆に知られているので、タウは第一候補としてこのまま続けよと依頼した。
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