ひとまずの落ち着いた日々に -5-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「アリシア君は恐ろしいでありんすな」
霞沙羅は今日も先日のバングル事件で集まった魔工具類の研究で、吉祥院と共に横浜にある兵器研究施設に来ている。
お昼ご飯について、いつ食べられるか解らないので、伽里奈にお弁当を作って貰っていた。
ステンレス製の、3つで1セットの弁当箱と1枚の紙が入っていた。その紙は食べる前に、下二つの弁当箱をそこに置いてくれと言われた。
勿論2人は一目見てそれがどういうモノなのかわかったし、どうやって動いているのか解った上で、弁当箱を温めている。
恐ろしいのは、同じ術かと思っていたら、吉祥院の弁当の方が大きいので、やや温め時間が長くなる調整がされている。
中に入っているのはライスとカレーとトンカツ。トンカツはミルフィーユタイプ。
「暖かいのを食べて貰いたいのは解るが」
火が出るわけでは無く、熱伝導を使って、魔術で作られた熱を弁当箱に伝わせて温めている。温度もそこまで高くなるわけでは無いので、火が出るどころか机が焦げたりするようなことはない。
「いい匂いなのは解るが」
「相変わらず魔術とは何なのか、考えさせられるで候」
しばらくして温めが終わったので、2人は食べ始めた。
しかして適温まで暖かくなったカツカレーはとてもよかった。薄切りの豚肉を何層にも重ねたトンカツもよかったし、そのカツを楽しんで欲しかったのか、目立った肉の姿が無かったカレーは、それでもちゃんと肉の気配がする。
「くそっ、美味いんだよな」
「軍の食堂では間違いなく出ないタイプのカレーでありんした。我がばあちゃんのお店で出ても良さそうだっちゃ」
それにしてもこの温める紙は他の何かに使えないだろうか。やろうと思えばもっと高い温度が出せるのだろうが、実に平和な使い方をしている。
温度もそこまで熱くならないし、この状態ならどこで使っても火事の心配も無い。
紙だから持ち運びも簡単で、戦場だけでなく被災地でも使えそうだ。
「レンジャー部門の方から何か使えそうなのは無いかと聞かれている最中でがんすから、これも含めてまたアリシア君にいいのはないかと訊いてみて欲しいでやんす」
今年も台風による高潮や水害、地滑りが起きた地域への派遣でレンジャー部門を初めとした軍隊の活躍があったから、現場の人間にしか解らない、現地で欲しいモノもあったようだ。
「最近は向こうの世界向けに色々と作っているようだから訊いてみるか」
他人が撃った効果範囲の広い魔法を散らさないために、ターゲットごと結界で閉じ込めるとか、かなり残酷な魔法を使ったり、元冒険者の目線で便利道具を作るし、と鍛冶をやる霞沙羅の目から見ても、相も変わらずアリシアの感性は面白い。
「重力波利用の詳細を訊くのを忘れていたな」
「アリシア君はしばらく学校も休みのようだし、ちょっと時間をとって質問の機会が欲しいで候」
こういう機会はなかなか無いので、今のうちに時間をとらせて貰った方がいいだろう。
* * *
翌日になって、アリシアはまた朝からお城に出向いていって、ロビン達に面倒を見て貰っていたビーフシチューの出来を確認した。
さすがに王の料理を作る厨房だから、少しも焦げることも無くしっかりと夜まで煮込んで貰って、一晩寝かせて、朝からもう煮込みを始めて貰って、シチュー部分だけで無く具材もいい具合に仕上がっている。
「楽しみだな」
勿論厨房の人達も、今後も作るわけなのでしっかり味見をする量も確保されている。
ランチ用のパンは厨房で作っている。この辺にもいつか手を出してみたいなと思う。
あとは付け合わせに麵、というかパスタを用意し、サラダも用意した。
「じゃあ後はアイスクリームですね」
とうとう量産型第一号の冷凍箱を厨房に納品した。
今日は最初なので、単純なバニラアイスクリーム。用意して貰った材料を混ぜて、容器に入れて冷蔵箱に入れた。
「次回はシャーベットにしたいんですが、いずれ別の味のアイスもいいと思います」
「なかなか面白そうな食べ物だ。であれば我々でも考えられる範囲で味を試してみたい」
「単体じゃなくて他のデザートに添えてもいいですよ」
今回の冷凍箱は魚介や肉の運搬用途ではなくなったので、急に本来の用途で使い始めて匂い移りがするような事は無いだろう。
最初は物珍しさから頻繁に使うだろうけれど、冷たいモノを食べ過ぎてお腹を壊さないようには注意して欲しい。
「これはこれとして、もっと遠くの町に魚を運びたいという考えは曲げないでくれよ」
「モートレルまで持って行くのが目標ですからねー」
さすがに陸上輸送は無理だけれど、今後は国内を定期的に回る運搬専用の飛行船が出来れば、毎日は無理だけれど、週に一回くらいはフラム王国内に広く魚介類が供給出来るようになるかな、という淡い期待をしているので、早めに大きいサイズにしていきたいところだ。
「じゃああっちを見てきますね」
順調そうなビーフシチューはロビン料理長達に任せて、アリシアは今日も騎士団にやって来た。
今日の昼食には3種類のサンドを作る。
ホットドッグと唐揚げサンドとコロッケサンド。ソースはケチャップとウスターソースを作る。ホットドッグはともかく、唐揚げとコロッケが作れるようになればこの後色々と派生的な料理を作っていけるから、今日は結構大事だ。
「昨日のは両方とも好評だったよ」
「それはよかったです」
ヒルダの所でも好評だけれど、大人数に対して提供するにはいい料理だと思う。
「今日作る唐揚げというのはアリシア殿の実家で出ている料理じゃないのかい?」
「ええ、あれですよ」
「噂になっているからオレも食べにいったよ。団員も気になっていてね、それがここでも作れるようになるとはね」
そもそもモートレルの食堂ではとっくに出ているし、実家の食堂で出るようになってからそれなりに時間が経っているので、もういいだろうと思っている。
それにしてもこの国は米食がマイナーなのが惜しいとつくづく思う。皆がちゃんとお米を食べていたら唐揚げもコロッケも定食に出来るのに残念だ。
まあそういう文化が無いのは仕方が無い。ならばパンに挟んであげるしかない。
「チキン系のバーガーもこっちに持ってこないと」
バーガー用のパンはモートレルでも騎士団が指定しているパン屋さんにパンの作り方を伝えに行ったりと、準備も必要だった。
とにかくしばらくは唐揚げを作って、その内フライドチキンに移行して貰おう。
今日はこれとは別に普通に出しているスープを作って貰って、今日もアリシア発のサンド3種がお昼ご飯。
「じゃあ三班に分けて始めましょう」
ホットドッグのソーセージはボイルすることにした。それについてはケチャップが終わってから始めて貰う。
「コロッケを作ると言うから来てみたが、中身が違うようだが」
今日も将軍達がやって来た。
コロッケは、晩餐会の時にクリームコロッケを作ったから、あれを作るのかと見に来た人もいたけれど、さすがにそうではなく、ポテトを使ったコロッケだ。
「あれは予算的に無理です」
だったらどう違うのか、とても気になる将軍達は、やはりこの後味見に来ると言って、持ち場に帰っていった。
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