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ひとまずの落ち着いた日々に -4-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 騎士団向け食堂の班長さんは、ラドックさんという、この人もラスタルにある宿出身の、アリシアと同じように家の次男という境遇で、継ぐ家が無いので騎士団に入り、ある段階でその腕前を買われて食事係になったという人。


 年齢的にはアリシアの親と祖父の間くらい。働いている部門の関係から、料理の腕に関してはロビンさんより格が落ちるというか、普通の町の食堂の料理人という感じだ。


それだけに最初からアリシアに対する態度は悪くない。


「魔女戦争の時に何度か現場で会っているんだよ」


 がっはっは、と笑うラドックさん。


 食事係に転属になってから20年くらいというベテランさんだけれど、現役の騎士かというくらいに体格がいい。


 日々大人数に対する料理を作っているからだろう。


そんなわけで、ラスタルよりも人数の多い王都の騎士団の料理を作る上で、大変心強い。


 今日は予め言っているあるとおり、スパゲティーのミートソースとホワイトシチューを二班に分けて作って貰う。


 ビーフシチューはこっちの料理が終わったらすぐに始める事になっている。


「ホワイトシチューが作れれば、いつかクラムチャウダーにする事も出来るかなー」


 今は軽量で大きな冷凍箱を作成中だから、その日も遠くないだろう。


「ホワイトシチューってのはセネルムントでも出ているやつだろう? 有り難いよな」

「次にはカレーをいきますからね」

「それもセネルムントで出てるいい匂いのするやつだろ。やっとこっちに来るのか」


 厨房のスタッフもモートレルより多い。当然、手間のかかる料理を持ってくる気は無いので、人海戦術で沢山作っていこう。


「じゃあアリシア君、ああいや、アリシア殿、よろしく頼むよ」


まずは持ってきたレシピを全員に配布して、説明を行う。


 そしてミートソース班とホワイトシチュー班に分けて調理を始め、麵を茹でるのはそれが終わった後。


 食材を切って、コンソメスープを作り、ベシャメルソースを作り、複数の大きな鍋でそれぞれの食材炒め、をやっていると、ランセルなどの騎士団関係者がちょくちょくやってきた。


「食材調達担当としては、今日のこの2つの料理は今後もやっていけそうかね?」


 確認に来たランセルも、先日モートレルに行った時にヒルダから、アリシアから提案された料理で実際にそのまま採用された料理について聞いている。


 ただ一応、土地による食材の流通問題もあるから、確認はしておかないといけない。


「アリシア殿がもともとこの町の出身ですからね。しばらくいなかったとはいえその辺りは…、この町で何が売られているかは承知していますよ」


「そうだったな」

「季節によるとも言っていましたし、彼の実家は私と同じで食堂ですから」


 モートレルでは初期は苦労していたと言っていたけれど、出身者なら強い。


 ラドックと話が会うのも、同じ町で同じ境遇だったから。


騎士団の食事とは言え、どちらかというと庶民食だ。それでもミートソースは美味しそうに見えるし挽肉と野菜がボリューミーだ。ホワイトシチューはセネルムントで巡礼者向けの料理になっているというが、まろやかそうで美味しそうだ。


厨房に漂っている料理の匂いもなかなかいい。


「これはいいな」


 ヒルダがアリシアに頼むのも解るな、と安心して、ランセルだけでなく、他の見学者も安心して持ち場に戻っていった。


  * * *


 今日のお昼ご飯はアリシアの料理、ということで期待している騎士達が並ぶ光景はモートレルと同じ感じ。


 モートレルの騎士団にミートソースが出るようになったのはいつだっただろう?


 スパゲティーの上にかけられたミートソース、その上に粉チーズ。横にホワイトシチュー。物珍しそうにテーブルに持っていき、全員が美味しそうに食べ始めて、勿論ランセル達も味見程度で食べている。


「好評みたいだな」


 作った方も反応が嬉しいようだ。今までが悪かった訳では無いけれど、いつもより笑顔があるのがいい。


「まだ何回か来ますからね」


騎士達の反応を見たアリシアはすぐにロビン料理長達が待つお城の厨房に移動した。


「じゃあ始めましょう」


 王族へのランチはもう作り終えていて、今まさに運ばれている途中だった。


「おお、よろしく頼むぞ」


 今回もまたアリシアが調理をするのではなく、教える側。でもこれはもういい。王族への料理だから、アリシアはあまり触らない方がいい。


 それにあまり来ることが出来無いのだから。覚えて貰うには最初から最後までここの人達で作り上げて貰った方が話が早い。


 人が集まったところで、先程と同じくレシピを配って説明を始めた。


「工程の殆どが煮込みなのだな。それだけに丁寧な手間のかかる料理なのが解るな」

「面倒かもしれませんけど」

「そんな事は無い。他の料理にも使えるのかも考えておこう」


 早速準備して貰った食材を指示通りに切ってもらい、デミグラスソースを作り始めて貰う。


「しかしどこかで見たな」

「前回ハンバーグで使ったソースですよ」

「あれか。あれは美味しかったな。なるほど、それなら期待出来るな」

「昨日も言いましたけど、今回はシチューとして食べますけど、他のお肉料理に使えますからね」

「うむ、これは覚えておかないとな」


 スタッフだけでなく料理長のロビンもちゃんと調理に参加して、全員で覚える気満々だ。


「ある程度仕上がったら、こっちの食材を入れて、そこから弱火で煮込んだり、一度火を落としたりを繰り返して下さいね。焦がさないように定期的に混ぜて下さいね」


 王様達のランチが終わり、食器が戻ってきて、しばらくした頃に、切って軽く火にかけた具材を投入し、長い長い煮込みの段階に入った。


 夜は当然、ちゃんと寝て貰って、ビーフシチューは一晩寝かせて貰って、翌朝からまた煮込みをして貰って、そしてランチに出して貰う。


 そこにマーロン王がやって来て、料理の進捗を訊いてきた。


「行程としてはこのまま煮込み続けるだけです」

「それはそれで大変なのだな」

「この状況でも食べようと思えば食べられますけど、味が足りないんですよね」

「それならば仕方が無い。ところであの冷凍箱はどうなった?」

「明日持ってきますよ。まずはアイスクリームを教えてから置いていきます」

「先日の晩餐会で出てきた、あの冷たい食べ物か。明日にはまた食べられるのは楽しみだな」


 不本意ながら量産することになった小さな冷凍箱は、まず王様のところに渡してから、仲間に渡す流れになっている。


「以前にエバンス家のお屋敷で作ったシャーベットは次に来た時にまた教えていきます。何日か後にまた来ますから」


 この次は王族のランチ用の食事であって、ビーフシチューのような手間をかける事は無い。


「アリシアよ、お前の仕事はもう終わりか? ランセルの所で出てきた、あのなんといったか、クリーミーな麵料理を作れるか?」


「今回はもう煮るだけなので、ロビンさんに教えて帰るつもりです」


 カルボナーラは騎士団を優先したのこともあって、ランチには間に合わないから今日は厨房に教えて、王様達には後日に作って貰おうかと思っていたけれど、目の前で作ってくれと言うのであれば


「じゃあやりましょうか」


 これは案外時間が勝負な料理なので、最初の一つはサンプルとしてアリシアが作り、後はロビン達に作って貰おう。


 お皿を出して貰っている間に、練習用も含めて多めに麵を茹でて、食材を切って


「あのソースは煮込まないのか?」

「材料はフライパンの上でしか火にかけませんよ。麵もここで茹でちゃう人もいますけどね。あ、麵の煮汁は捨てないで下さいね」


 煮るというかなんというか。


「じゃあやりまーす」


 ベーコンをカリカリに炒め、オイルにちょっとのゆで汁とチーズに卵と順番に投入していき、麵を絡ませて、ざっと皿に移して胡椒をかけて終わった。


「これ、誰が食べます?」


これで終わりなの? と誰もが見る中、まずは料理長であるロビンが食べる事にした。

「お、お、これは、上品で濃厚な味」


 食べたことのあるマーロンも、こんなんだったの? と驚いていた。でも確かに、エバンスの屋敷で食べた時に、一人分ずつ出すと言われたけれど、割と早いペースで出てきた。


 アリシアが作るのに慣れているのもあるけれど、結構スピーディーながら、あんな味が出せるのかと感心した。


「ロビンよ、これはここで出来そうか?」

「そ、そうですね」

「出来た後はなるべく早めに食べて下さいね。冷めるとこのソースが固まっちゃいますから」

「そうだったな、あの時も」


 エバンスの屋敷では先に出されて一番早く食べてしまったので、ランセル達が食べている間に、自分のお皿にちょっと残ったソースがカチカチになった。


他のスタッフも味見をしている間に、早速ロビンがやることになった。


 その横では、今はマーロン王にはアリシアが作ったモノをお出しした方がいいと、一緒に作る事になった。


「じゃあやりましょうか」


 しっかりとアリシアの作り方を見ていたロビンは、指示を受けつつやや手間取りながらも、カルボナーラを一人前、作り上げた。


「さすが、いいと思いますよ」


 アリシアの方は、温かい内にさっさとマーロンが食べ始めて、ロビンのはまた皆で味を確認した。


「ふむ、練習も兼ねて他の者にもやらせた方がいいな」


 マーロン王自身が気に入った料理だけに、これから作って貰うにはやはりこだわりがある。基本は出来たようなので、後はどこまでアリシアの料理に近づけることが出来るかだ。


「じゃあこの作り方のメモを置いていきますね」

「ああ、助かる。しかし、美味いな」


ええー、これだけなの? という材料の料理だった。王宮の料理というと材料も手間もかかるのに、たったこれだけで美味しい。


「料理ってのは奥が深いんだな」

「あっちのシチューは牛肉を多く使って高いですし、手間がかかりますけどね」


 コトコト煮込まれているビーフシチューは材料費が高いし、これから夜間を除いて明日の昼食まで面倒を見なければいけない。


 かたや数分、かたや丸一日という対比が面白い。それでも両方美味しい。


「それではまた明日来ますね」

「ああ、よろしく頼むぞ」


 満足そうなマーロンに送られてアリシアは帰っていった。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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