ひとまずの落ち着いた日々に -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「それじゃあ年末年始の予定を確認するよー」
地球の事情に関係するのは3人だけだけれど、食事の予定に関係してくるので、この一週間ほどの各自の予定を直前にもう一度確認する事にした。
「私はこっちでいう1月1日は休みだ」
アンナマリーは普通にやどりぎ館にいる。
ただ、鎮魂の儀についての打ち合わせがあるので、どこかで一度実家に行く予定がある。
「私は2日から5日までロンドンに帰るわ」
シャーロットは年始という事もあるし、レポートの提出状況の確認と、後日のディスカッションに関する話もあるので、実家に帰る予定になっている。
時差があるので、また調整が必要だけれど、学校が休みなので、それはどうとでもなる。
「私は3日と4日が休みだ」
軍での先日の事件処理で研究がある霞沙羅は普通に出勤。その代わり時期をずらして代休を取ることになっている。
それから研究の合間を縫って、横浜の大聖堂で新年祝賀のための市民向けイベントがあって、横浜出身の英雄として一曲、弾くことにもなっている。
さすがに軍も市民の前に出る大きな行事には霞沙羅を貸し出すのもやぶさかではない。なんといってもアイドルだから。
「我は4日まで仕事をする気は無い」
フィーネは自営業なので、今日から休業にしている。ただちょっとプライベートで人と会うそうだ。あとは自分の世界をちょっと見に行くくらい。
「事務所はお休みね」
この時期は仕事も無いので、所属モデル3人はお休み。吾妻社長は個人的にやることがあるそうだけれど、それはタレント業とは関係ない。
「榊さんは正月明けまで来ない、住民じゃないけど吉祥院さんは家の行事があってこない」
他に宿泊希望者もいないので、こんな所だ。シャーロットが3日ほどいないという状態。
「シャロは久しぶりに自宅で家族とゆっくりしてくるのか」
「結構頻繁に会っているような気がするけど、久しぶりにロンドンを見てくるわ」
時間的には短いけれど、服や本の交換のために裏口から実家に行ったりしているので、何というか、日本から飛行機であっても何時間もかかる程遠く離れたロンドンの実家に帰省する、という意識がちょっと希薄になっている。
モートレルから馬車で一週間程度かかるという遠く離れたラスタルに、伽里奈の転移魔術のせいで一瞬で行けてしまうことに拍子抜けしているアンナマリーの気持ちも解る。
魔術というモノは便利ではあるけれど、ある意味残酷だ。
「何か家に作って持って行きたいわ」
「いいのがあったら手伝うからねー」
「お前は変わったよな」
シャーロットは普通に「料理を作ろう」と言い出すようになった。ここに来た時は単なる食べるのが好きなだけの人間だと思ったけれど、作る側に行くとは、と霞沙羅はある意味羨ましく思う。
「年始にはおせちとか食べるの?」
「おせちは…、作らないかなー。日本の人がこの家に住むっていうのもあんまり無いからねー」
「我もここに何年と住んでおるが、おせちを食べたことはないのう」
余所の世界の人間が多いので、純凪さんもその前の管理人もおせちは作る事は無かったそう。
「元々は料理を休むためという意味があったし、私の母親が子供の頃は、年末年始になると店が軒並み休みになるから、保存の利く食いもんとして日本中で食ってたそうだが、今は普通にコンビニもファミレスもスーパーも開いてるからなあ」
そっちの業界の人は正月は尚更大変かもしれないけれど、普通の人は料理を手抜きしようと思えば外食するとかありものを買ってくるとか、デリバリーを頼めばいい。
「伽里奈は料理を休む気とかないの?」
「そういうのは無いかなー」
「う、うーん、そういう事を言われちゃうと」
「年越し蕎麦とかお雑煮とかは、希望者には作ってるけどねー。なんだったら、1月1日のお昼ご飯はおせち風のお弁当にする?」
「先代が弁当風の食事を出す時に使っておった容器があるはずじゃよ」
「そんなのありましたね。探してみますね。やるんだったら洋風のおせちになっちゃうんですかねー。黒豆とか数の子とか煮物とか食べる?」
古式日本のおせちとなると当然、完全な和の食事になってしまう。霞沙羅とか、日本が長いフィーネはいいかもしれないが、アンナマリーにはオススメ出来ない。
「最近流行の通販おせちを参考にしたらどうだ?」
「そうしてみますね」
結構な無茶振りにも応えてくれるのが、伽里奈だ。まだまだ知らない料理も多いので、道を作ってくれるととても助かる。
明日はお城に行かないとダメだけれど、色々考えながら決めていこう。
「それとそれと、初詣っていうのには行くの?」
「ああいうのは東洋だけだったか? 年越ししてすぐ行く奴もいるが、私は翌日も仕事だからなあ」
「行くと言うのであれば、元旦のどこかの時間に全員で行ってもよいぞ」
異世界の神であるフィーネが初詣に行く必要は全く無いのだけれど、行く人間がいればこちらの文化に従って付き合っている。
「折角この国にいるんだから行きたいわ」
寺院は館から歩いて10分くらいの所にあるので、いつもははそこに行っている。
「なんなんだ、そのハツモウデというのは。何かの施設に行くか?」
「年が明けたから、神様に挨拶っていうか、今年一年の無事とか、願いとかそういうのを寺院に祈りに行く文化なんだけど」
アンナマリーは神様が違うし、時々モートレルのギャバン教神殿に行っているし、あまり館から外に出ることも無いので、そういう宗教儀式は関係無い。
「行く奴がいるんなら、こっちの文化を体験しに行ってもいいと思う」
同じように女神だけれど。ここの管理側の立場としてエリアスも行っているから
「私は館で待ってますね」
システィーは興味が無いので、いつもついてこない。この辺は本人のポリシーに任せるとして、結局初詣は5人で行くことになった。
「それでさー、伽里奈、袴を貸してくれない? 着たいの、折角だし」
「袴を着て初詣に行く人って、あんまりいないけど」
「和服が着たいんだろ、お前が着る気が無いなら貸してやれよ。丈もまあ…、お前も背が低いし、何とかなるだろ」
「まあ、その、シャーロットなら身長は大きく変わらないですけど」
和服はそこまできっちり作られているわけではないから、霞沙羅の袴はさすがに無理でも、とシャーロットなら問題は無いだろう。
「じゃあ明日にでも、ちょっと着てみてサイズの確認する?」
「するする」
「わ、私も着てみたい」
アンナマリーもおずおずと手をあげた。
「アンナマリーも?」
「2着あるのであれば、貸してやればよいであろう? 男であれば、ケチケチするでない」
「ボクの服だけどいいの?」
「そんなに着てないんだろ? 私が来てから着ているのを見たことがないぞ」
「まああんまり着ていく場所が無いのもあるんだけど」
「寒いだろうから、元旦用に実家から防寒用のショールだのを借りてきてやるよ」
伽里奈は単に撮影用に使ったものを貰ったので、そんなに着てはいない。
「わーやったー」
「履き物はどうするんだ?」
「ブーツでいいぜ。お前らはそっちの方が履き慣れてるし、寒いしな」
「ちゃんとしたのがいい。なんかあの吉祥院さんが履いてるサンダルみたいなの」
「お前ら、この前私が着たのを見てなかったか。ブーツも正しい」
「あれはこの国に西洋文化が入っていった頃に一般女子も着るようになった服だから、ブーツでもいいんだよ」
「そ、それなら」
「折角だし私も久しぶりに着ようかしら」
エリアスも袴姿で初詣に行くことに決めた。
「いーなー、もう」
「お前用に羽織袴を借りてきてやろうか?」
「いらないです、あれは」
まあ2人の思い出になるだろうし、仕方ないかと伽里奈は機会を譲ることにした。そもそも着る予定は無かったけれど、着る人が出てくると着てみたくなるモノだ。
いやでも、本当は久しぶりに着たかった…。
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