ひとまずの落ち着いた日々に -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
報告会が終わったところで騎士団の食堂に行き、厨房責任者に明日の料理に必要な食材を伝え、次に王宮の厨房に行き、料理長のロビンに事情を話すと、気持ちよくシチュー作りを引き受けてくれた。
何と言ってもランセル将軍とその娘のアンナマリーが気に入っているという料理だ。それは作り甲斐がある。
「材料はこの通りなのだな。これなら問題無く揃うだろう。しかし丸一日煮込むのか」
「夜間は火を止めて普通に寝て下さい。ただ出来るだけ、長く面倒をみて欲しいです」
「なかなか難儀そうな料理ではあるが、面白い」
「このシチューに使うデミグラスソースが作れるようになると。他のお肉料理にも使えるようになりますので」
「それは面白い」
ロビンは前回の晩餐会からアリシアに心を開いているので、今回は態度がまるで違うし、他の厨房スタッフも新しい料理作りの話しを興味深そうに聞いている。
「それと、お前はマーロン様から聞いてはおらぬようだが、エバンスの屋敷で食べたなんとかいう麺料理は作れないかと、聞いてきたことがあった。行程が少ないのであれば出来ればそちらも同時に教えて貰えないか?」
「カルボナーラですか? あれは時間がかかりませんから、シチューを煮込む所まで行けば同時進行出来ますよ」
「そうか、それはお願いしたい。何が必要だ?」
「麵と卵とチーズとベーコンと胡椒です。ニンニクとか他の調味料は、普通にありそうですし。人によっては牛乳とか生クリームを加える人もいますけど、今回は基本にするのでそれはいらないと思いますよ」
「では基本の方でいこう。しかし食事となると、これには他に何をつければいいのだ?」
「パンとサラダくらいですか? 後はピザとか」
「ピザとは?」
「ピザはまた、その、細かい話になってくるので、今回は割愛します」
ピザが一応どういう料理かは、画像で見せた。
「これも基本を一つ作れるようになると、後は自由にアレンジすればいいんですけどね」
「それもまた頼むぞ。それと学院に出入りしているお前なら知っていると思うが、また飛行船を作っているのだが、もう少し料理が出来る設備を乗せたいと、相談があった」
「帆船と同じで木造だから強い火が使えないですからね」
「お前の冷蔵箱は乗せる予定だそうだ」
「そうですか」
「魔術師としていい案があれば、タウ殿にでも言うがいい。船に乗り込むであろう我々もその方が面白い」
「はは、そうですね」
とりあえず明日のために食材を揃えて貰うお願いをして、アリシアはラスタルの町に出た。
* * *
また王都ラスタル周辺の状況確認をする為に冒険者ギルドを見て回ったり、用も無くに町を歩いていると、見たことのある一団が音を出しながら賑やかにやって来た。
「ようやくここについたんだねー」
以前にモートレルで出会った、偽アリシアに仕立てあげられてしまったマリナの所属している移動劇団だ。
劇をやりながらの移動だから、色々な町を経由して来たのだろう。それがようやく王都ラスタルにたどり着いて、数日後から公演が始まるような事を言っている。
やってきたといっても、公演の宣伝をするために、各役者達がそれぞれの役の衣装を着て宣伝をしながら練り歩いている。
モートレルの時もそうだったけれど、評判の劇団なので、久しぶりにやって来た彼らの姿を見に、市民が集まってきている。
劇の内容はまたアリシア達6人の話だ。話はどうも、ご令嬢の護衛の話のようだ。
アンナマリーも見たと言っているくらいには公演しているのだけれど、根強い人気があるエピソードらしく、これまで何度かやっているにもかかわらず、期待する声があがっている。
貴族を乗せた馬車も立ち止まって、劇団が通り過ぎるのを待ってくれているくらいにその人気が見て取れる。
「お、来た来た」
アリシアが主役の話だからか、マリナが先頭で歩いて声をかけている。久しぶりの大都会での公演だからか随分と力が入っていて注目の的。
だから集まった人の中にアリシアが混ざっている事に、気が付かなかった。
「あ、あれ? まあ、仕事中だしね」
宣伝活動の最中だし、声をかけなかったんだろうとマリナが通り抜けていくのをアリシアが見守っていると
「アー兄、何でそんな服着てるの?」
仕立てた服を納品先に持って行く途中の妹が声をかけてきた。さすがに妹だけあって、今のアリシアでも解ってしまう。
アリシアの服は以前に買ったコスプレ用のスーツ姿だ。確かにこれはどこかの家の使用人のようで解りにくい。その上に周囲は劇団に夢中なこともあって、オリジナルがいる事に気が付いていない。
「王様のところに行ってたからさー」
「えーだってさ、今あの劇団でやろうとしてる演目の時の服ってそんな感じでしょ?」
「まあちょっとデザインは違うけど」
「アー兄だってちゃんとした服を着れば格好いいじゃん。こう見るとやっぱ向こうは女の子って感じだね」
マリナも劇で使うスーツ姿だ。いつも通りいいセンいっているけれど、身内からするとやっぱりちょっと違うようだ。
その内、団員の一人がアリシアがいる事に気が付いた。服はちゃんとしているけれど、髪型は相変わらず長い髪を後ろでツインテールにしているから、よく顔を見れば解る。
「あ、アリシア様じゃないですか?」
「え、ええそうですが」
「モートレルではうちのマリナが世話になりました」
見覚えがあると思ったら、おじさんの正体はこの劇団の団長さんだ。
「その服は?」
「ええまあ、王様に用があったもので」
「そういえば今は子爵様でしたな。おめでとうございます」
モートレル事件の時は単なる「英雄」だったけれど、今やもう貴族様。
あれだけのことをやっているから解っていたことだけれど、いつの間にか遠い所に行ってしまった。
「わ、アリシア様」
そして先頭にいたマリナが気が付いてこっちにやって来た。
「ふ、普通に格好いいんですね。貴族のお嬢様が惚れちゃうの解ります」
「そうかなあ、ボクはあんまりこれ好きじゃ無いんだけど」
アンナマリーとかシャーロットもこっちの方がいいとか言っていたけれど、アリシアとしては可愛くないのであんまり好きじゃない。
実際、高校の制服も女子の方がいい。でも冬は寒そうだ。
「いつもは自信があるんですけど、これについてはやっぱり本物がいいですね」
「そんな事無いけど」
周りにいる人達も、5年くらい前まではずっと普通にこの辺を歩き回っていた、一種の名物市民だったアリシアだから、見違えたと言いたいような目で見ている。
中には「あのアリシアちゃんがまともになって」という声も聞こえてくる。
いやいや、まともにはなってないです、と言いたい。むしろ向こうの世界の方が着る服のバリエーションがあって、気軽に買えるので、悪化している。
「とにかく、モートレルでは結局ダメだったけど、今度こそ見に行くからね」
「は、はい、待ってますから」
なんだか地元市民の沢山の目があって恥ずかしいので、話しを早々に打ち切って、アリシアはやどりぎ館に帰っていった。
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