待ちに待った食事会
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「折角一段落したのじゃ。お主らだけでゆっくりと昔話に興じるとよい」
ザクスンでの一件から数日。ヒルダの屋敷で7人だけの食事会をする日になった。
前々から言われていたとおり、アリシアとシスティー以外はこれから札幌のジンギスカン専門店に夕飯を食べに行く。
お店に連れて行けないアマツは夕飯に行っている間だけ、お向かいのラッキー君のいる家に預かって貰うことになっている。
「ネコちゃんは、ワンちゃんとの一時を楽しんできてね」
「にゃーん」
雪が降ってくると寒くてお向かいの家であってもラッキー君の所に遊びに行くことが出来ないので、アマツもご機嫌だ。
今日はアリシアが作りたい料理を持っていくので、調理はやどりぎ館でやってある。後はそれらを持っていくだけ。
「冷蔵箱と冷凍箱と温蔵箱を作っておいてよかった」
鍋を入れられない煮物はともかく、焼き物と揚げ物は温かいまま保管出来るし、デザートも冷えた状態で持って行ける。
「魔女を破った英雄7人で、楽しく過ごしてきなさい」
「もー、破ったとかそういうのじゃないじゃん」
エリアスも自分の行為に絡めて冗談が言えるようになった。
「小僧と星の欠片には悪いが、我らは札幌グルメを楽しんでこようではないか。のう小娘らよ」
「フィーネさん、またドレスで行くんですか?」
今日も黒いドレス状の服を着て出掛けるようだ。一応この上にコートは着るようだが、店内では脱ぐだろう。
常々占い師としてのキャラ作りを口にしているけれど、プライベート着くらいは持っていてもいいのではないだろうか。
「良いではないか。そもそも我の大地でもこうであったであろう?」
「まあそうなんですけど」
何でこの女神様は普通の服が無いのだろうか。以前に手編みしたてあげたセーターは着ている事があるけれど、気楽な感じのラフな服は持っていない。
ポリシーなのか、女神特有の人間離れした感性によるものなのか。
「ではマスター、私はそろそろ2人を回収しに行きますのでお先に」
転移の出来ないハルキスとライアはシスティーが連れてくることになっている。
「はーい。じゃあボクもそろそろ行くかなー」
台車に料理を入れたおか持ちや各種の箱を乗せて、アリシアもモートレルに移動を始めた。
* * *
ローストビーフに数種類のピザに各種の天ぷらに、炒飯にハンバーガーにフライドチキン、ロールキャベツにおでんに何種類かの自家製ソーセージ、フライドポテトに小籠包にエビチリに、ケバブに焼き豚にラザニア、焼売にカツサンドに焼きラーメン、シュークームにチーズケーキにプリン、杏仁豆腐にオレンジシャーベットと二種類のアイスクリームと、バラバラな食べ物がテーブルに並べられていく。
「よくこれだけ作ったわね」
「つまみやすいのを作ってきたよ」
大食いもそうでもないのもいるけれど、小分けにして、好きなモノを食べて貰えばいい。
「これって全部こっちで作れるもの?」
当然ライアも気にしている。
「どうかなー、結構いけると思うけどね。おでんは無理かな…」
「改めて思うが、ウチの大将はすげえな」
「システィーも手伝ってるんでしょ?」
「こいつのカレーも美味いんだぜ」
「システィーも変わったわね」
料理が並び、お酒も配られて、7人だけの宴会が始まった。
「とにかくアーちゃんが異世界の料理をひっさげて帰ってきたのが一番良かったわ」
早速ヒルダが色んな皿からバンバン料理を取り始めた。
「リバヒルの王子が劇場に食べに来て、アリシアが来るなら手続きも税もいらずにベルメーンに入れろと、許可して来たわ」
ライアはピザとカツサンドに狙いをつけた。酒を飲みながらの軽食的な料理もいい。
「この天ぷらとかいうのはオレの町でも出来るのか?」
エビと魚と鶏肉と野菜の天ぷら。土地柄エビは無理そうだけれど、川魚と鶏肉と野菜はどうとでもなる。ただ、天つゆが作れないので、塩で食べるか、衣に味をつけるかしないとダメだろう。
「野菜の天ぷらは神殿でも悪く無さそうね」
神殿でも、衣を纏わせて揚げれば天ぷらになるので、なんとでもなりそうだ。
「ラザニアが家で食べたいゾ」
ピザは今度教えて貰うとして、ミートソースとホワイトソースとチーズが重なっているのが特徴のラザニアも家で食べたいルビィだ。
「まだまだこっちに持てきて欲しいモノね」
「あとあれよね、あの箱。デザートだからまだ食べないけど、あの凍らせる箱は欲しいわね」
「今作ってる最中だから」
「なんだよ、オレも気になるじゃねえか」
まずは料理の話から始まり、お互いにいなかった時期の話に移っていく。
「ライアが一番苦労したわね」
「旅が終わってオレらは元の生活に戻っただけだからなあ。だがこいつは生活環境の作り直しからだからな」
魔女戦争を終わらせた、大陸にその名をとどろかせるフラム王国の英雄の一人なのに、お隣のリバヒル王国に移住すると言いだして、王家は引き留めにかかった。
とはいってもフラム王国にはリバヒル王国ほど芸術分野が発展していないので、結局どうしようも無かった。
そしてベルメーンに移住して、劇場は手に入れたけれど、演劇分野ではあまり名前が売れていないライアに、最初お客はなかなかついてくれなかった。
それでもお金はあったので、芸術学院の短期コースで学んだり、一人芝居を続けたり、元凄腕冒険者としてベルメーンの騎士団に教官として協力したりと、地道に町に溶け込む活動を続け、徐々にお客もつくようになり、劇団を立ち上げて、利益が出るようになって、長い時間をかけて軌道に乗るようになった。
こっちにいない間にいろいろあったんだなー、と思う。
「まあお前はあっちの世界に閉じこもってたとはいえ、結局オレらはそれぞれバラバラな生活だったんだよな」
住んでいる場所もバラバラだし、人を纏める責任を持っている立場の人間がいるので、なかなか会う機会は無かった。
「ルビィは転移が出来るからちょこちょこ回ってたみたいだけど、ハルキスと私は年に1、2回くらいしか会ってないしね」
「ヒルダも何だかんだ、あのオヤジさんに領主を押しつけられて気苦労も多かったわね」
「マスターはやっぱり軍へ協力したり、エリアスさんのケアで大変でしたね。この星の神様4人に変なこと言っちゃいましたから仕方ない話ですが」
「システィー、あなたは何してたのよ」
「私はしばらく寝てましたよ。地球にいる星雫の剣と知り合いにはなりましたけど、2年前からようやくこうやって動き出した感じですかね」
「よく家事を覚えたもんだナ」
「出番が欲しいですからね。あとエリアスさんはやっぱり家事が苦手ですから、マスターのサポートにはやや非力で」
「そういうもんカ」
女神の力があるから何でも出来てしまいそうだけれど、そこを黙っている入居者もいるから、力の行使は控えている。そうなると何も出来無い。
「それにしてもアリシアが帰ってきてから、全員が揃わないなりに、会う機会が増えたわね」
「要因としてはカサラ先生が大きいナ。口は乱暴だがあの人は好きだゾ」
「そうね、大体あの人がいるわね」
「いやー、あの先生は頼りになるな。単純な強さで言えばサカキだが、先生の剣も面白い」
「サカキさんが加わっていいわね。アーちゃん、いつでも来なさいと言っておきなさい」
「そうだねー。もう何日かしたらウチの館に住むようになるから、運動がてら来るかもね」
「オレも呼べよ。なあシスティー、運んでくれよ」
「連絡下さいね」
それぞれの話をして、料理の話をして、そしてデザートを食べようとなった時、全員が冷凍箱を希望してきた。
「これはまずいな、ヤバすぎる」
凍っているデザート。これはまずい。みんな食べたくなる。
「劇場で出したら王様に箱を持って行かれるかもしれないけど、出すわ」
「教皇様に持って行かれないようにしないと」
「出来上がったら順番に持っていくから」
「アイスの作り方も教えろよ」
「あーい」
二つの世界でとりあえずのトラブルは解決した。とはいえ何も解決していないとも言えるので、また事件は起きるのだろう。でも平穏な年越しにはなりそうだ。
まあ、それはともかく冬季休暇は始まったばかりでまだ続くので、今のうちにやるべき事をやろう。
読んで頂きありがとうございます。
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