戦士へ贈る勝利の曲 -5-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「王子様でござったか、失礼しやした」
アーガス王子は40代前半。この国の王族だけあって歴戦の勇士で、表情もやや厳しめなので、貫禄がある。
知らない人は王様だと思うのも当然という見た目をしている。
「なんというか、魔族を素手で掴むとは、相当の方とお見受けする」
「あの王子様、あの人は魔術師です」
「なんと」
アリシアに説明されてアーガス王子は驚いた。
まあ普通の人と体格差がすごすぎるし、ひょろっとしているわけでもないので、武人に見られる事もあり得なくは無い。
事件の方はというと、司令塔でもあったエルナークと魔族が死んでしまったので、ガーディアンや魔物も統率を失ってしまい、動きが鈍くなったところを一気に殲滅されてしまった。
そして町中に流れていた曲も終わり、拍手喝采の中、神殿からは霞沙羅とエリアスが出てきた。
「一曲で終わって良かったな」
「霞沙羅は格好良いわね」
どさくさに紛れて演奏中の写真を撮りまくっていたエリアスはご機嫌だ。
「今の曲は其方の仕業か?」
「霞沙羅、この国の第一王子でありんす」
以前に合ったことのあるゼーラント王の息子だと理解した霞沙羅は
「ええそうです。オルガンを無理に借りてしまいましたが、神殿の許可はとっています」
その答えに王子だけでなく騎士団の人間も「おおっ」とどよめいた。
「素晴らしい! 其方の奏でた曲にはギャバン神が宿っていた。それがここにいる我らだけで無く、多くの兵達にどれだけの勇気と力を与えたことか」
戦いが終わり、あの曲の正体を聞こうと、続々と騎士達が神殿に集まってきている。
そういえば馬から降りて地面に立っている王子を見下ろす位置にいるのは失礼だと、霞沙羅は神殿の階段を降りてきた。
「其方の名は?」
「新城霞沙羅です。以前にプリシラ王女やゼーラント王にお会いしている者です」
「その名前、我が父からも聞いている。其方は確か鎮魂の儀に、ギャバン神から推薦された者でもあるな?」
「ええそうですね。ただ私はこの世界の人間では無いので、この大地で戦った戦士の魂を鎮める鎮魂の儀式には失礼かと、答えを保留していますが」
「しかしこの状態では、それも杞憂というもの。教団とは別に、このアーガスからも鎮魂の儀での演奏を願いたいところだ。どうだ、お前達は?」
「はい、私達も王子と同じ考えです」
「大変素晴らしい曲でした」
騎士達からも期待する声が聞こえてくる。
そこにキール達のドラゴンも降りてきた。
「アリシア、今の曲は何だったんだ?」
「あの霞沙羅さんが弾いた曲にギャバン神が応えて、曲を聴く人に力を貸してくれてたんだよ」
「え、あの人間がそんな事を?」
レミリアもそれを聞いて、霞沙羅を見る目が変わった。
とても素晴らしい曲だった。そしてそんな魔法があったなんて知らない。
そんなやり取りの中、町の平和が取り戻されたので、神殿に避難していた市民達が家に帰っていく。そして口々に霞沙羅への賞賛の声をかけていく。
「霞沙羅、私の気持ちの分も曲に乗せてくれないかしら」
「お前の気持ちは重いんだよな」
エリアスの気持ち。神とはいえ人間達へ行った仕打ちの結果、多く命を奪ってしまった事への謝罪という事だ。
しかしまあ、管理人として世話になっているし、知り合いからの依頼だ。仕方ない。
「異世界人の私で良ければいいよ」
「少なくとも二度、この町に力を貸してくれたのだ。其方はこの国の客人だ」
鎮魂の儀に関する連絡については、神殿とアリシアを通して伝えることになった。
その際は自由にギランドルとサイアンを訪れても良いと、王族からのお墨付きも貰った。
これで鎮魂の儀は無事に、予定通り開催出来る。神殿から各国へ使いを出して、国としては、やって来る客人達の安全を確保する事になるので、また忙しくなるがそれはいつもの事。
明日には教皇と王の共同名義で命令が下るだろう。
「それでこの流れに乗っかるようですみませんけど、学院に手を回して貰って、この石とこの腕輪の解析に、この2人を立ち会わせて欲しいんですけど」
学院の関係者が輪の外にいて近寄れていないので、アリシアが手にしている腕輪と金属のレラの目がついた石、これの情報を霞沙羅と吉祥院も得る事が出来ないかと、知り合いでもあるアリシアが願い出た。
「多分これ、この2人の知識が無いと、この世界の魔術師では解析出来ません」
触ったから解るけれど、また術式が誤魔化されている。
「解った。私から学院に話しを通しておこう」
「よろしくお願いします」
他国の魔術学院なので、いくら有名なアリシアでも入り込みにくい。今日の件と、運営者である王族の声があれば断ることは無いだろう。
* * *
「何だお前は、得意の掌返しカ?」
その後また簡単な報告会に出席して、状況が落ち着いてから、霞沙羅に対してレミリアから声がかかった。
「得意じゃないわよ」
落ち着いて話をしてみると、レミリアにとっても霞沙羅は格好良いと認められる人物だった。そして美人。
日焼けしていてやや筋肉質なところはあるけれど、スタイルは抜群だし。強そうで格好いい。
エルフの美的センスとは少し外れているけれど、これも「美」である。
「しかしカサラさんの世界にはエルフはいないのだろう?」
キールも霞沙羅がエルフの事を知っていることが気になった。
「物語とかおとぎ話の中にはいるんだが、本物は存在しないな。だがなぜかエルフやドワーフの概念があるんだよ」
「ドラゴンも概念はあったりするでありんすが、本物には前足はないのでござるな」
翼が前足なので、それ以上の前足は無い。
「あの偽ドラゴンを見た時にはビックリしたんだけどねー」
「こいつが見たのが運の尽きだったな」
「アリシア君は、当時からこんな性格のクセに色々と抜け目がなかったな」
そのせいで何度か計画を台無しにされた事のある魔女も苦笑いだ。
「ところでこちらの方は、今の方がいいのでは?」
戦いに向かって、終わって再会したら、すっぴんになった吉祥院には驚いたモノだった。
特徴的な身長と服装をしているので見間違えることは無かったけれど、化粧で真っ白だった顔が変わってしまっている。
身長が大きすぎてエルフの美的センスからは大きくずれてしまっているけれど、妙な気品のある美人であるとレミリアも認めている。
「お前そろそろ化粧止めろよ」
「そうはいかんでがんす。お歯黒も視野に入れるっちゃ」
「あれだけはやめろ。どういう理由があろうが日本の歴史上の恥だ」
まあエリアスは、神々しすぎて、エルフの基準を逸脱してしまっている。
「そろそろ帰りますよ。夕飯の準備もあるんだから」
「そういえば王女がカレーという食べ物のことを口にしていたが」
「カレーをギャバン教に教えたら、今日の件もあってイリーナに本気で殴られそうだから当分ダメ。でも別のを用意してるって話をしたから、それで」
「アリシアと一緒になった時はホント、料理が違ってたもの」
「この国でも有名だからな」
ザクスンでも大きな戦いに参加した時は、その前線に出た人達からの噂はいまだに健在だ。
「じゃあ帰るよ。また鎮魂の儀で会おうね」
色々積もる話もあるけれど、時間も時間だ。夕食の準備もあるから、アリシア達はやどりぎ館に帰っていった。
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