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入居者のお手伝いは管理人のお仕事 -3-

 今日は霞沙羅に手伝って貰って、アンナマリーへの勉強が行われている。どういう魔法を習得するのかはともかくとして、本人の希望もあって、危機管理の為の魔力感知を教えておく事になった。


「中身は解らなくても、町の路上に魔力反応なんか普通は無いからな。そういうのをいち早く察知したなら、魔術師を呼ぶなどして対処すればいい」

「まずは術式の中身まで解る必要は無いよ。発見して警戒するって事が一番大事」


 今日は庭のテラス席で二対一での勉強会。


 先日の野外演習以降、アンナマリーはこのテラス席をよく利用するようになった。読書だったり、おやつだったり、外で何かをやる、という事に慣れたいらしいのだ。その気持ちを汲んで、先日はバーベーキューをやってあげた。貴族のお屋敷では当然あり得ない食事だったけれど、大夫気に入ってくれた。


「しかしそろそろ気温も低くなってきたな」

「来月中旬にはテラス席も片付けですかねえ」

「な、なんでだ? こんないい席、勿体ないじゃないか」


 折角気に入ってるのにと、講義した。


「この町は雪が降るんだよ。降るっていうか春まで雪に埋まる。この庭も真っ白だぜ」

「こんな感じになるんだけど」


 伽里奈はタブレットPCを使って、去年の庭の様子を撮った画像を見せた。


 小樽は豪雪というわけではないけれど、町は数ヶ月真っ白に染まる。そのせいでテラスの椅子と机を置いておくわけにはいかないので、倉庫に撤去するのだ。


「うお、すごい」


 王都ラスタルでは雪は降るけれど、ここまで積もることはないので、アンナマリーとしては衝撃的な光景だ。


「ただね、ここにドームがあるでしょ。この中は2、3人くらい入れるから、ここにいることは出来るよ。温かい飲み物を持って、ちょっとぼんやりするのもいいかなー」

「酒盛りもするんだぜ」


 毎年庭の雪を使ってかまくらを作っている。暖かい格好をしたフィーネと霞沙羅が酒盛りをしている画像もある。折角のテラス席が無くなるのは寂しいが、これはこれで体験したい。


「そっちの世界でも雪の上を歩くこともあるだろうぜ。そういう意味では冬の間はこの庭を歩くだけでも結構な鍛錬になるぜ」


 河原で転んだばかりだし、足場の悪いところを経験するのも悪くないなと、アンナマリーは思う。


「それはそれとして、魔力感知の練習をするか。私が魔工具を机に置くから、目隠ししてそれを感じて掴め」

「は、はい」


 アンナマリーは用意されていた目隠しをつけて、服の上から琥珀を触るようにして精神を落ち着ける。初めての魔術的な行為だから時間がかかる。


「お嬢がこんな調子だから、伽里奈は何か甘いモノを作ってもってこい」

「はーい。ホットケーキでも作ってきます」


 テラス席には霞沙羅とアンナマリーだけを残して、伽里奈は厨房に入った。


「今日のおやつは何?」


 ソファーでファッション雑誌を見ていたエリアスが厨房に入ってきた。


「ホットケーキだよ。外もちょっと寒くなってきたしね」

「いいわね」


ホットケーキの準備を始める伽里奈を見ながら、折りたたみの椅子を広げてエリアスは厨房に座った。テラス席にに霞沙羅とアンナマリーがいるけれど、厨房内に軽く2人だけの空間が出来た。


 あまり口数が多くはないので、伽里奈とエリアスはそんなに会話はしない。けれど、お互い何となく2人だけという状態にいるのが好きだ。


夜なんかは、部屋は別々なのに、頻繁にエリアスが伽里奈のベッドに潜り込んでくる。それでいて何かが行われることはないが、お互いが近くにいるという事が2人にとっては幸せなのだ。


 エリアスはこの3年ちょっとで大夫落ち着いた。この舘には普段は閉ざされている2人部屋があって、来た当時は人間社会の生活を教えなければならないし、エリアスは着替えもまともに出来なかったから、伽里奈は殆ど従者のような生活をしていた。


 夜ともなれば魔女時代の事を悔いて、頻繁に悪い夢を見てうなされては伽里奈が起きて手を握ったりとケアをしてきたけれど、いつの頃からかそれも無くなり、外に連れ出したり、小樽だけでなく、北海道の色々なところを見たり食べたりして、2人の距離は縮んでいった。


 いまだに大したことは出来無いけれど、この館の清掃をしたり、洗濯機のスイッチを入れるくらいはしてくれて、彼女なりに仕事の補助をしてくれているし、この春からは札幌の事務所に誘われて、モデルの仕事を始めた。


 本当に変わったから、何となく向こうの世界をまた見せるのが怖い。あれから3年が経って、世界は復興したようだから、もうあの戦いは人々の中では終わっているとは思う。


 多分伽里奈が怖がっているだけかもしれないけれど、まだ早いような気がしている。これが伽里奈がアリシアを名乗りたくない大きな理由だ。


「エリアスはホットケーキに何をかける?」

「シンプルに蜂蜜でいいわ」

「ほーい。あの二人に聞くの忘れてた」


 パタパタと足音を立ててテラスに向かう伽里奈の背中を見て、そろそろ彼を仲間の元に返してあげたいと思うエリアスだった。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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