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戦士へ贈る勝利の曲 -4-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

「初めての感覚だな」


 ドラゴンに乗り、空を飛ぶキールにも聴いたことの無い曲が聞こえたかと思ったら、体が軽くなって、心が落ち着いていく。


「ギャバン神の力がこんなに広がってるなんて」


 こんな事が出来る神官がこの国にいただろうか。レミリアも驚いている。


本当に弱い力だけれど、効果はとても大きい。他の竜騎兵達も、硬い装甲のガーディアンに手を焼いているところで、焦りの気持ちを持っていたけれど、神の存在を背中に感じて、それが薄れていき冷静さを取り戻していく。


 これは一体何なのだ、とは思うけれど、間違いなく神の存在を感じて、そんな疑問はどうでもよくなる。


 ギャバンは我々と共にある。市民達を助けよと正義の心に働きかけてくる。


「焦らず装甲の無い場所を狙うのだ」

「光線は私が妨害するわ」


 ならば役割分担だ。数はそんなに多くない。


 キール達は、気持ちを切り替えて、弱い部分をじっくりと責めていくことにした。


  * * *


 地上の方では強襲してきたゴブリンやオークの勢いに押されていた部隊も、曲が流れてからは落ち着きを取り戻して、押し返し始めた。


「ギャバン様は我らを見守り、正義のためにその力をお与えになっている。落ち着いて陣形を整えるのだ。この程度の魔物、勝てぬわけがない」

「焦りは禁物だ。我らの背中にはギャバン様がおられる。であれば我らは負けない」

「俺達も使ってくれ」

「冒険者共か、助かる」


 色々な場所に広がった騎士達、それと曲に触発されて急遽参加してきた冒険者達は、宗派違いも混ざっていたけれど、それはそれで勇気と力をもらい、見たことのない幻想獣にも恐れずに立ち向かって行く。


  * * *


「霞沙羅先生はすごい人だナ」


 さすが日本軍というか日本人のアイドルなだけある。


「中にいる人達の、祈りの力も上乗せされてるねー」


 落ち着きを取り戻した市民達も霞沙羅の曲を聴きながら、ギャバン神に戦士達の無事を願う祈りを一心に捧げている。


 この世界の一般人達の個々ではとても小さな魔力も集まって、ギャバンから奇跡の力を引き出す手伝いをしてくれている。


「何と言っても我々のリーダーだからね」

「この国の人達が頑張っちゃってるし、ボクらの出番はあんまり無いかなー」

「そうでもないようだよ、これだけ目立てばどこが中心地か解るからね」


 上空から大きな翼を背中に生やした魔術師が降りてきた。


「言っとくけど巨人じゃないよ。キミがひ弱で小さすぎるだけだ」


 何か言われる前に吉祥院が嫌味で先制した。


「ああ、キミも融合したんだね。となると確実に水瀬カナタと取引してるね」


 稲葉清美を見ているから、吉祥院は目の前に現れた魔術師の状態を見抜いた。


「なぜその名を?」


魔族となった、恐らくエルナークとかいう魔術師だと思われる。今は魔族の人格が表に出ていて、記憶を共有しているだけだが、吉祥院が発したその名前に驚いた。


「どうやって幻想獣がこっちで活動出来ているのか、聞いておきたいけどね」


 取引相手が押されている状況であっても手を貸さないという事は、いつも通りここにはいないのだろう。


「それにしても何しに来たんだろ」

「研究成果を取り戻しにでも来たんじゃないのカ? 学院も聞いてこなかったから解析するまでもない、ワタシらには大した内容じゃなさそうだが、こいつにとっては大事なんだろウ」

「そのついでにこの曲を止めに来たんだろうね。じゃあさっさと潰そうか。その袖から見えている腕輪は今後の障害になるだろうから、研究させて貰おう」

「人間ごときが、この私に挑もうというのか。これでも相手をしているといい」


 魔族は手を振ると、そこから金属が取り付けられた白い石をばら撒いた。


「もーらい」


 アリシアは神速の動きで、地面に投げ込まれようとした4つのそれをキャッチした。


「これが欲しかったんだー」

「な、何者だ、お前は」


 剣も持っていない少女のような人物が突如異様な運動能力を見せたので、魔族も意表を突かれてしまった。


「アリシアだよ、アリシア=カリーナ。この国の魔術師でも名前くらいは聞いたことがあるでしょ? ボクの特技は魔術師だけじゃないんだよねー」


 エリアスが側にいるのに、わざわざアリシアが剣を持っていなかったのは、魔術師だと誤認させるためだ。


 しかも白い石をどう扱うか知っていたので、鮮やかに回収された。


「魔族程度なら冒険中に何体も消しているゾ」


 ルビィが火球を放った。


 魔族は受け止めたけれど、その勢いに押されて大きく後ろに下がることになった。


「私はルビィだゾ。この程度でそんなに下がるとは大したことは無いナ」

「な、なに」


 何でこの国にそんな大物ががいるんだと、エルナークの記憶が魔族を怯えさせた。魔女戦争を終わらせたフラム王国の英雄が2人、こんなの敵うわけがない。


 ならば戦術を変えようとひとまず空に飛び立とうとしたのだが、翼が動かなくなった。


「おチビさん、ワタシも魔術師ではあっても腕力がその辺の兵隊の数倍あってねえ」


 火球に気を取られた魔族の背後に回った吉祥院が翼をがっちり握っていて動かせない。


 身長差が大きいので空中に持ち上げられてしまって暴れて振りほどくことも出来ず、リーチが違いすぎて、足を振り回して暴れても吉祥院の体に当たらない。


「クソッ!」


 吉祥院を引き剥がそうと、全身から電撃を発するけれど、実力差がありすぎて吉祥院の纏った魔力に邪魔されて、ダメージが入らない。


 氷の力を使っても掴んでいる指先にも到達しない。


「これが人々が恐れる魔族なのかい? 幻想獣の成長態の方がよっぽど強いと思うよ」


 そのお返しで吉祥院からの膝蹴りがお尻に入った。


「何なんだ、こいつらは、魔族であるこの私がっ!」

「腕輪が外れないね。もぎ取らないとダメかなー」


 稲葉清美の腕輪と同種のモノだというのでアリシアが魔族の腕を掴んで、奪おうとするが、腕にくっついていて外れない。


「そこの王様らしき人、これはどうすればいいのかな?」


 吉祥院が体を横に向けると、そこには王様に見えないでもない貫禄を持った、アーガス第一王子に率いられた騎士団が揃っていた。


「見慣れぬ方、そのまま持っていてくれないか」

「いいよ。ただアリシア君が取ろうとしてる腕輪は壊さないでね。それはワタシやあなた達にも重要なモノだから」


 こうなったからにはあの2人組がどこにいたのかとか訊いてももうそこにはいないだろう。研究するべきモノは手に入れたので、あとはこの犯人をどうするかだ。だとしたら、この国に任せる方がいい。


「そうか」


 アーガス王子は馬から下りて,剣を抜いて吉祥院に吊り上げられた魔族に近づいてくる。


 魔族は暴れて炎の魔法を撃ったけれど、予めかけられていた対レラ用魔法「戦神の楯」に阻まれた。


 アリシアも、王子の邪魔にならないように一歩下がる。この国の事はこの国の王族に任せるべきだ。


「うるさいよ」


 往生際の悪さから吉祥院からまた膝蹴りを食らった所に、アーガス王子の剣が振り下ろされて、魔術師エルナークと魔族は「戦神の剣」による一撃で裁きを下された。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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