戦士へ贈る勝利の曲 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
アリシアとルビィの名前は魔女戦争が終結して4年近くが経っても、ギャバン教の神殿でも効いたので、人が逃げ込んできているこのこの周辺の警護を任されることになり、霞沙羅の方は「鎮魂の儀に呼ばれている」と言うと、市民の気持ちを和らげるため、ということでオルガンを弾いてもよいとなった。
エリアスがほんのちょっとここの司祭の精神に働きかけたことも影響しているけれど。
「何をやる気なの?」
協会の中にひっぱってこられたエリアスは霞沙羅が何をしたいのか解らない。まさか単にオルガンを弾くだけとは思っていない。
「あっちの世界には戦意を高揚させる曲があるんだよ。私も厄災戦中に何度かやってるからな」
こちらも何となくではあるけれど、敵に立ち向かう勇気をそれとなく与える、という程度ではある。
でも、怯える市民にもいい影響は出るはずだ。
本来やるのは戦いの前。残念ながら電子音だったり、スピーカーからの音ではダメで、パイプオルガンやピアノやバイオリンのようなアナログな楽器か、歌声そのものでないとダメだ。それを、普通は神官が行う。
楽器を聖法器と見立てたり、声に神の奇跡を乗せて送り出す。
「所詮はパイプオルガン程度だ。音を広範囲に飛ばせるか? 女神とバレないレベルで」
「まあそのくらいなら出来るわよ」
ギャバンの力を遠くまで飛ばすわけだが、エリアスも神なら音を町中に伝えるサポートは出来るだろう。
神殿内に逃げてきた怯える市民達も、誰かがオルガンを弾こうとしているからとても気になっているようだ。
ギャバン教では、こういう事は稀ではあるけれど、パニック気味の市民達を落ち着かせる為に弾くことがあるから、恐らくそれなんだろうと思っている。
「顔見知りでもないオリエンスには届いたぜ。ギャバンさんよ、お前は一応顔見知りなんだから聞いてくれよ」
霞沙羅はギャバンの像にそうつぶやくと、オルガンの演奏を始めた。
* * *
「神殿はこっちでーす」
「落ち着いていいんだゾ」
町の人全員が神殿に逃げ込むわけでもないし、他の教団の神殿や教会に逃げ込むこともある。
ただ、サイアンの市民はギャバン教徒が多いので、アリシア達がいる所に流れてくる人が多い。
「本来はオリエンス教の所に行かなきゃならないんだけどねー」
2人とも顔が売れているだけに、後で怒られるかもしれない。何でギャバン教に手を貸しているんだと、イリーナに。
成り行きなんだから仕方が無いとは思うし、午前中には協力してるんだから今回は勘弁して欲しい。
それにここもお国柄、オリエンス教の神殿はあっても、避難に適しているほど大きくはない。
「ほれ、老人達、もう少しでござるよ」
こっちの人には白すぎて奇妙すぎる化粧を落としてすっぴんになった吉祥院がちょっと先まで行って、老人2人を肩に乗せて帰ってきた。
「すまぬがここからは歩いて中に入って欲しいでござる」
足の弱い老人だったようで、階段を上ったところで吉祥院の肩から下ろされて、杖をついて歩いて行った。
「また行ってくるでありんす」
化粧を落とした吉祥院は、穏やかな顔をした美人さんなので、体格にビビる人間はいるけれど、これまで何人も老人や子供を運搬してきている。
人の波の中でも頭二つ以上高いところに目があるので、視界が広い事もあって、逃げるのに難儀している人を発見しやすい。
そして魔術師にあるまじき腕力があるので、そんな人達を軽々と運んできてしまう。
「すごいナ」
入り口前に立っている神官達に頭を下げられて、吉祥院はまた通りに出て行った。
「なんであんな化粧をしているんダ?」
「目立つでしょ、色んな意味で。だからあまり素顔を見せたくなくなったんだって。化粧は仮面みたいなものだよ」
身長だけでなく、魔術師としてあまりにも有名で子供の頃から注目をあびまくっていたので、あまり注目されたくなくなって、妙な白粉を塗り始めてしまった。
巨体ながら、元々の顔は優しいので、今は必要以上に警戒されずに人を運んできている。
「もう帰ってきたゾ」
脚も長いだけにさすがに移動速度も速い。
今度は妊婦を抱えて帰ってきた。側には旦那さんと子供がついてきている。
「ここからはすまぬでありんすが」
「いえ、ここまで来れば、助かります」
「大きいお姉ちゃん、ママをありがとうね」
神殿の中に入ってしまえばもう焦る必要は無い。下ろされた妊婦は、旦那の肩を借りて、ゆっくりと落ち着いて奥に入っていった。
対応のために移動していく兵隊達の話しを聞いていると,例の魔族が襲撃しているらしい。それで、ガーディアンだけでなく、ゴブリン等のメジャーな魔物や魔獣達や、よく解らない魔獣も混ざっているようだ。
「幻想獣がいるようでありんすな。だからといって幼態ではそこまで強力ではないでござるが」
さすがにもう避難してくる人も少なくなってきた。
「後はこの辺に来たら倒していけばいいかなあ」
他国の人間でも、人としてそのくらいはやってもいいだろう。
そこに馬に乗った騎士の一団がやって来た。
「お姉様!」
「あ、プリシラ王女」
プリシラ王女の率いる騎士団だった。
「どうしてここに?」
「魔法学院に頼まれて来てたんだよ。エルナークとかいう人が持ってた変な石の話をしに。そしたらこんな事になって」
「そ、それとその後ろの大きな方は?」
「霞沙羅さんの友人だよ。ルビィと互角くらいの魔術師でね、一緒に避難して来る人を誘導してたんだー」
「そ、そうだったんですね、ありがとうございます」
そこで神殿の、礼拝堂の扉と窓がいきなり全部空いた。エリアスの仕業だ。
「霞沙羅がやるようでござるよ」
パイプオルガンからの曲が流れてきた。こちらの世界の人間は聴いたことが無い曲だけれど、同僚の吉祥院は厄災戦の時に何度も聴いたことのある曲だ。
向こうの世界では「戦士の曲」と呼ばれるジャンルの、兵隊達の士気をあげる曲。
「しかし霞沙羅の曲がここの神様に届くものでありんすか?」
「でも午前中にうちのオリエンス神に対して成功してますよ」
「まあ聖法器も製造出来る霞沙羅ならではの考えで動いているので、大丈夫でござろうが」
たかだかパイプオルガンの音量で奏でた曲は、エリアスのサポートで、開いた窓や扉から空中に広がっていき、町中に届こうという様子だ。
「なんだか、心が落ち着いて、力がみなぎってくる曲です」
「姫様、神殿の中からギャバン神の力が町中に広がっていっています」
「まるでギャバン神が我々の側に立って下さっているような…」
騎士達は自分達の身に起こったこの現象を不思議そうに思っているけれど、ギャバンの神殿から流れてくる、力ある曲を受け入れた。
「こんな魔法があるんですね」
「本来は高位の神官にしか使えぬ魔法なのでげすが、霞沙羅は少し特別なのでありんす。力を発揮しないはずのデジタルデータであっても、あの厄災戦時に霞沙羅の演奏した曲に希望を与えられた国民は多くいたものでござるよ」
神聖魔法ではあるんだけれど、本当に物語的な魔法みたいだ。
「お姉様、行ってきます。宗派が違う事は解っていますが、市民達が多く避難してきています。ですからここをお願いします」
「うん、気をつけてね」
背中に翼でも生えたように体と心が軽くなった王女達は、この騒動を収めるべく颯爽と走り去っていった。
「アリシア君の料理みたいなモノでござるよ。我ら日本軍もいろいろ助けられているでありんす」
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