戦士へ贈る勝利の曲 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「竜騎兵が飛んでますね」
転移でモートレルに帰るために学院の庭に出たところ、お城から竜騎兵の一団が飛び立った所だった。
「あれがドラゴン乗りなのか?」
「面白い光景でやんすねえ」
ドラゴンの背中に人が乗って飛んでいる。そんな光景は地球では見ることが出来無い。まるで映画かゲームのワンシーンだ。
「ちょっと大きいドラゴンに2人乗りしているのがあるだろウ? あれの後ろに乗っているのが、エルフの奴ダ」
「お、見えるぞ」
「何かこっちに来るでござるよ」
その一頭のドラゴンが隊から外れて、学院の方にやって来た。
どうも何かを警戒しているようだ。
とりあえずアリシアとルビィは知り合いなので手を振ると、2人を乗せたドラゴンが魔法学院の庭に降りてきた。
「おーい、久しぶり」
「お前アリシアか。サイアンとギランドルに何回か来ているとは聞いていたが」
前に乗っている騎士は元気に手を振ってきたが、後ろのエルフは軽く手を振っただけ。
「ホントにエルフがいるぞ。あれこそエルフだ」
霞沙羅の方は想像通りの見た目をしたエルフが目の前に現れたのでご機嫌だ。
「な、なんなのこの人」
「この前サイアンでのサラマンダー騒動で火事を消して王様に褒められた人だよ」
「話には聞いている。なんでも異世界の英雄だとか。しかしその隣の人はなんなのだ」
「巨人の末裔?」
「そのネタはもうやめて欲しいんだけど。単に背が高いだけの人だから」
「キッショウインさん、あの無礼なエルフは殴っていいゾ」
「想像通りに現物は華奢すぎて怖いでござる」
エルフは女子中学生くらいの体格でしかない。やどりぎ館で言えばシャーロットくらいと言いたいけれど、シャーロットの方が背が高めだ。
外見年齢はアンナマリーもほぼ同じだけれど、あっちは騎士としての鍛錬を積んでいるので、まだ頑丈そうでもある。
身長的にはルビィの方がやや小さいが、徒歩での冒険者だったからか、こちらの方が頑丈そうに見える。
「名前は何て言うんだ? ああ私は新城霞沙羅だ」
「私は吉祥院千年世ですじゃ。千年世とは呼ばないで欲しいでがんす」
「僕は竜騎兵隊に所属しているキール=ローレンツという。それでこっちは」
「レミリアよ」
こちらは素っ気ない返事だ。
「お前はまた」
キールはアリシアと違って背も高いし、ちゃんと兜を被っているので今は解りづらいが、茶色の髪をスッキリと短めにした、笑顔がまぶしい好青年だ。
レミリアは腰まで届くまぶしい金髪と、小柄な姿の、美にこだわってしまってもしかたがない程度の美少女だ。そしてルビィが「いけ好かない」と言っているくらいには態度が良くない。
知り合いのハズのアリシアとルビィにもなんだかそっけないし、霞沙羅と吉祥院の事は警戒している。
「やっぱエルフは多少プライドが高い方がいいぜ」
物語でもエルフは高貴というか、寿命が長かったり、人を越える部分があるので、上から目線な所はあったから、霞沙羅は気にしない。想定通りだ。
「ところで今日はザクスンまで何をしに来たんだ?」
「魔族がいた場所から押収した物体に解らないのがあるからって、頼まれて見に来たんだけど。このくらいの四角い石があるんだけど」
「話には聞いている。それで解ったのか」
「うん。向こうの世界で同じのを回収したからね。さらに別世界の人が、今ボクがいる世界の魔物を持ち込んだみたい」
「理由は解っているのか?」
「一回戦っただけだから、聞いてないよー」
「魔女の次は異世界人か…」
「とりあえず鎮魂の儀があるから、魔族の件だけでも解決するといいけど」
「ちょ、ちょっとこの人…」
折角話しをしている所に、霞沙羅がレミリアの事を角度を変えて観察している。
「あんまりエルフには触れない方がいいわよ」
「だ、誰よこっちの人も、急に出てきて」
「ああその人、ボクのパートナーだから」
急にエリアスが現れて、レミリアから霞沙羅を引き剥がそうとしている。
「に、人間なのに綺麗、すぎじゃない」
そいつは女神だぞ、と言いたいけれど、誰も言えない。当然エルフ程度が勝てるような姿はしていない。
「古代神聖王国の巫女だから」
「ちょっと、何年前の人間なのよ」
「アリシアがちゃんとした女性のパートナーを見つけてくるとは」
「幼なじみの私もビックリしたゾ」
「ボクを何だと思ってるんだよー」
「どうも、妻のエリアスです」
このやり取りの仲で、エリアスも悪乗りしてきて、アリシアと腕を組んで、ニッコリ笑ってそう言いきった。
「その名前、神聖王国が奉っていた女神と同じ名前なのか?」
「女神の巫女はその名を頂くしきたりなのです」
「アリシアはすごいのを持ってきたな」
さすが異世界にまでたどり着いた、大陸に名をとどろかす英雄だ、と思うしかない。
「おい、エルフと知り合いになれないものか?」
霞沙羅の方はと言うと、レミリアと知り合いになる事に執着している。性格とかそういうのはもはや関係ない。目の前にエルフがいる、理由はそれだけだ。それ以上の理由などああってたまるか。
「こいつは弱いクセに性格悪すぎだから諦めて、もう一人の方にしておいた方がいいゾ。もうすぐ学院に来るし、あっちは性格がいイ」
「誰が弱いのよ」
「お前は私に勝てるのカ?」
「くううう…」
ルビィとレミリアはあまり仲が良くない。
一緒な依頼を受けて冒険をしたことも、一度や二度じゃないのだけれど、どうしても馬が合わない。
そしていくら魔術に長けたエルフでも、人間の中でも特別なルビィに魔術で張り合うほどの力は無い。
「キールの奥さんなんだから、この場はキールを立てようよー」
「ところでエリアス殿は何をしにきたでありんすか?」
「霞沙羅がエルフと接触したから、何か起きないか見に来たのよ」
「このエルフはダメなのか?」
散々なことを言われても霞沙羅はまだ諦めていない。
そりゃあ理想的な姿をしたエルフが目の前にいるのだからというのもある。人間に対する性格の悪さも織り込み済みだ。
「そんなに性格が悪いわけじゃないんですよ。それよりも、パトロールの方はいいの?」
「そうだったな。話し込んでしまった」
「悪いわねえ、人の言い争いに巻き込まれて」
どうしようかと困ったような顔をしていたドラゴンの頭をエリアスは撫でた。ドラゴンの方はエリアスが人では無いことを悟ったようで、気を使ってくれた事に恐縮したような顔をした。
「よく見たら乗用ドラゴンもいたんだったな。これは格好いいぜ」
「霞沙羅には刺激の強い一日でござるな」
「それじゃあすまないが、僕達は行くよ」
「じゃあまた今度ねー」
そう言ってドラゴンは飛び立とうとする。
「ああー、エルフが行ってしまう」
「先生には今度学院に来る方を紹介してやるゾ」
「それどころじゃないみたいよ」
中心部では無く、町の外れの方で火の手があがった。そして空から数体の、ラスタルで見た鳥に似たタイプのガーディアンが迫っている。
「早速魔族に転売したのか?」
例の2人組らしき人間が、冒険者に紛れて奪っていったのではないかと聞いたけれど、それが早速使われているとは。
「どうせ2人組はいないでござろうな」
いつも通り、売る物を売ったらそれで終わり。一回だけは例外で出てきたけれど、お客を助けることはしない。
今回もエルナークなのか、魔族なのか、とにかく彼がミスをしてもフォローはしないのだろう。
「こうなれば僕達は行かないといけない」
町の一大事だ。キールとレミリアの乗ったドラゴンは急いで飛び上がる。
「ここはザクスン王国だ、僕らがやる。皆は避難するか、逃げておいてくれ。」
「レミリア、あのガーディアンは硬い上に、火の魔力を収束させた光線を撃ってくるからナ。ドラゴンに乗っていても油断するなヨ」
「解ったわ」
何だかんだで、ルビィのアドバイスを素直に受けて、レミリアを乗せたドラゴンは飛んでいった。
「ボクらはどうしよっか」
今回の事件はフラム王国が舞台ではないし、協力要請も無いのに他国の英雄と異世界人が出ていくわけにもいかない。
自分達の命に関わる状況になれば別だが、こんな状態でわざわざ戦場になっている場所に行く気は無い。
襲撃から少し遅れて町の色々なところで敵襲来を告げる管楽器の音が鳴り響いた。それを契機に市民達が避難を始めた。
「折角エルフと知り合いになれそうだったんだがな」
「先生はエルフが好きですねえ」
「私の代表キャラはエルフだぞ。ソニアという名の日焼けしたエルフだ」
「はいはい、TRPGの話はさておき、人道的に何か支援くらいはしたいところでござるが、我々日本人は攻撃か防御しか出来ないでやんすから」
全員がいれば市民の避難の手伝いか、事が終わったあとの怪我人の治療、それと火事の鎮火くらいは出来そうだ。
それに女神様もいる。
「支援でオルガンくらい弾くか?」
「ワタシらはこっちで神聖魔法が使えないのではにゃーか?」
「それが出来るんだな。神さんは違うが午前中にやって来たぜ。それとは別にエリアスの力は借りることになるが、あの神殿のオルガンは借りれないか?」
さすがにギャバン教を信仰する国の王都。すぐ側に聖都はあるけれど、王都にも大きな神殿がある。
「霞沙羅さんは教団から推薦を受けているんだロ? その辺を理由にしてみたらどうダ?」
「エリアス、ちょっとズル出来る?」
ほんのちょっと、神官の精神に干渉して、霞沙羅がオルガンを弾くことの許可を出して貰いたい。
「そのくらいなら」
ちょっとズルいけれど、エリアスも折角の機会だから、この町の人の手助けはしたい。
「多分神殿に逃げ込んでくる市民の人もいるから、ボクらはその前で誘導でもしてますよ」
アリシアも他国民だけれど、冒険者中の時にはお世話になった国だから、このまま離れる気は無い。
「じゃあ行きましょうか」
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