戦士へ贈る勝利の曲 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
残されたアイスキャンディーとピザの処分はヒルダに任せて、4人はザクスン王国の王都サイアンにやって来た。
「ここに来るのは2回目だな」
「ラスタルとかいう王都に行ったばかりだというのに、他国の王都にまで来てしまったでござるよ」
「たまに学院間の研究会で来る事はあるが、久しぶりダ」
「しかしここの王宮にはホントにエルフがいるのか?」
霞沙羅は以前にこの国の英雄がどうのと言う話をしていたのを思いだした。
人間とエルフの異種族間の恋人同士。このロマン溢れる2人組に、霞沙羅はとても興味がある。
「あの時はギランドルに行ってていませんでしたが、竜騎兵隊は配属自体は王都の近衛騎士団の一部署です」
「なんだ、先生はあのいけ好かないエルフに会いたいのカ? 今度うちの学院に来る予定になっているエルフの方が性格はいいゾ」
「随分評価が低いが、お前らの知り合いじゃないのか?」
「あのー,エルフは美にこだわる生き物で、多くが綺麗な物にしか興味が沸かないので、自分中心な性格なんです」
「魔術師としての能力では私どころかアーちゃんにも及ばないクセに、見た目でバカにするやつダ」
「ライアだけだったねー、認めたのは。まあ先生は大丈夫だと思いますけど」
「そうなると私は無理そうでげすな」
「キッショウインさんに無礼を働くなら、思いっきりはたいてやっていいゾ。ひねくれエルフには人間様に対する態度を教えてやってくレ」
「こいつにエルフをはたかせるのはやめろ」
エルフ談義はとにかく、上層部が集まる会議室に案内されて、そこには例の四角い塊と金属のレラの目が置いてあった。
「これはダメでやんしょ」
この国の偉い魔術師にもドン引きされた吉祥院は、横浜で見つかった例の四角い石であることを確認した。
「これ、誰か開放しました?」
「いや、何が起きるか解らない物だと判断し、大きな衝撃などは与えず、押収時からずっと慎重に取り扱っている」
学院の賢者の一人が答えてくれた。
「それは良かった」
学院内で幻想獣の幼態が動き出しても、すぐに処分されてしまうだろうけれど、やっぱり正体が解らない以上、魔物らしきモノと戦うのは控えておいた方がいいと、ちゃんと扱われていた。
「アリシア殿、情報は貰っているが。実際それは何なのだ?」
「これは、ボクらの学院から情報が届いているようですけど、この2人のいる世界にいる幻想獣という、魔物の一種です。ボク達も最近の事件で始めてこの形の現物を入手したので、どういった加工をしてこうなったかは解っていませんが」
「変に雑に扱うとこうなるんだぜ」
霞沙羅は複製した記録盤の動画機能と小型ディスプレイで、先日の横須賀で行われた実験の映像を見せた。
石を放り投げて地面に叩きつけられると、それがドラゴンの姿になった事に賢者達も唸った。やはりこの取り扱い方に間違いはなかった。
情報が来る前に押収したけれど、慎重に扱っていて良かった。
「このドラゴンは、先日ギランドルの近くに現れたのと同じですよ。手足がついてて、別に翼が生えていますでしょう?」
いわゆるサラマンダーに翼がついている状態だ。そうなると腕が一本余計についている事になるので、そんなドラゴンは存在しないと、アリシアからの指摘で問題になっているヤツだ。
調査の結果、こういうのは歴史的にも記録には残っていなかった。
「どういう事なんだ?」
では一体何が起きているのだろうか。渦中にある以上、ザクスンも知っておかなければならない。
「少し前に起きたモートレルの事件の情報は流れてきていると思うんですが、帝国残党を後ろからサポートしていた人が、今の所2名いるんです。それが霞沙羅さんの世界とこの世界で何かしているので、それの一環だと思います」
「幻想獣はまあ、生物では無いから、それをこっちに持ってきて使えるかどうか見ているんだろうさ」
「そちらの世界の人間なのか?」
「それが面倒なことに、更に別の世界の人間なのでありんすよ。かなり荒唐無稽な話しをしていると我ならが思うでござるが」
「一応この2人なんだが…」
今日は急なことで印刷物が無いので、また記録盤での表示になるけれど、2人の画像を見せた。
「またフラム王国でやらかしたという疑惑も立っている。とにかくこいつらは、自分達の姿を忘れさせる技術を持っているようで、相当に魔術的な抵抗力が無いと、一般的な兵隊や魔術師では顔を見てもすぐに忘れてしまう」
「残党もそんな事を言っていたのダ」
「どうやって行き来しているのかは解らないんですけど」
異世界を行き来する魔術は今の所、存在しない。神か何かの仕業かと思われているけれど、ザクスンの魔術師でも実際の事例があることは解っているので、異世界人の話であっても、ある程度許容している。
「その2人が魔族と組んでいると?」
「どうも商売で依頼を受けてるだけらしい。率先して悪巧みをするのではなく、悪巧みをする人間に接触して、技術を提供しているようだ」
「この魔族は、この学院出身者のフリをして、町に溶け込み研究をしていたのではと、家の捜査で推測されている」
「事実、王女様率いる調査団の目の前で変身して逃亡したのじゃ」
レラを信仰する人間もいるから、単純に魔族と組んだと考えていいのだろうか。
「異世界人からの質問なのだが、人間と魔族は融合出来るのか?」
「そんな例は聞いたことが無い。それなりの力を持つ魔族は潜伏する際の姿と記憶を奪うために人間を喰らうことはあるが、魔族の本質は変わることは無い」
「でもその場合って、化けられるのは姿だけで、存在そのものは魔族のままだから、一般人でもちょっと勘のいい人にはバレるんですよねー。神官でもいれば尚更です」
力は抑えて潜伏するけれど、少なくとも魔術師や神官には異常が感知出来てしまう程度には、人との違いが出てしまう。
「なんか気になります?」
「お前、目の前で幻想獣に変身した人間を見ただろ。あれと同じ技術が使われてるんじゃないかと思うんだが」
残念ながら腕輪が破損して、融合する方法を調べる機会が失われてしまっている。
「あ、そうですね」
「多分、この2人が絡んでるぜ」
「姿はエルナークという魔術師なのだが、他の魔術師ともあまり交流も無く、どこかに仕官するという事も無く、国内を転々としていた者だとは聞いている」
「エルナークの経歴についてだが、魔物や魔獣の生態を多く学んだ生徒だった。魔術師としては可も無く不可も無くという程度だったが、熱心ではあったようだ」
魔術学院でも魔族に変身した男の情報は調べているようだ。
「研究の中には少し前にアリシア殿が持ってきた、ゴブリン達を操ったという札もあった」
「あれはそんなに研究するほどの魔術なんですかねー? そもそも魔族ならレラの目があるからいらないと思いますよ。そう考えると融合も一つの答えかもしれませんね」
「モートレルでアンナマリーが巻き込まれてた札か? そんなのもあったな」
「確かに、アリシア殿が言うとおり、魔族が今更研究するような内容ではないな」
「とりあえずとっ捕まえられるのなら、そこから関係性を聞くしかないだろうナ」
「迷惑な連中だな」
現状、霞沙羅からも出せる情報を渡し、魔法学院からもこれまでの情報を貰った。
「この石は、日本では素直にマリネイラ系の魔法が使われていたが、もしそのまま持ってきたとすると,変換術式を間にかませているだけだろうから、解りづらいだろうな」
突発的な事件でも、魔術を感知すればそれが何か解るので、対処が出来る。でもこの石は使われても、何か魔力が動いた事が解る程度で、動きようが無い。
「まずは、シンジョウ殿とキッショウイン殿には来ていただいて助かった。学院の長として礼を言おう」
「そうですか。我々も我々の事件に使えそうな情報を貰えて、助かりました」
この異世界人2人がこっちの魔術を理解しているのに驚いていたけれど、そのおかげで話は早かった。
「お二方とはどこかで魔術的な会話をしてみたいものだ」
吉祥院の背の高さにも慣れたようで、和やかに会議は終了した。
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