温泉とヒーリング -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
結局霞沙羅は自分にとって演奏しやすい、日本の寺院用の曲を選んだ。これは霞沙羅が一つの実験をしたいからでもある。
本当に自分はこの世界で神聖魔法を使うことは出来ないのか、ということ。
神であるエリアスやフィーネからは、その世界にいる神の子ではない人間は、奇跡を借りるための声を神に届けることは出来ないから、異世界人は神聖魔法を使うことが出来ないと言っていた。
直接頼めるやどりぎ館は例外として。
ただ、少し前のドラゴン騒動の日にパイプオルガンを弾いた時に、エリアスはオリエンスに曲が届いているようなことを言っていた。ならばここでオリエンスに曲を届けることが出来るのであれば、大聖堂にあるパイプオルガンという一種の聖法器といってもいい設備が、限定的ながら霞沙羅が神聖魔法を使う事を可能にするのではないだろうか。
あの日に霞沙羅がに弾いた時に地球の曲を選んだわけだけれど、反対意見も文句も無かったので、他の神様向けの曲でも届くという事だ。
むしろ聴き慣れていない、聴いたことのない曲の方がいいかもしれない。
もし実験が失敗しても地球では名曲とされているから、人間達にはただのいい曲で終わるだろう。
観客としては、マーロン国王が来ている事もあってか、教皇だけでなく神殿の重鎮達も揃い、イリーナのような戦闘力の高い警護もつき、そして巡礼者をはじめとした信者も大聖堂に入ってきた。
「余所の神さん向けだが、曲の意味を理解してくれよ」
霞沙羅は大きなオリエンスの像に、そう言う。
自分は本職の音楽家達に比べてそこまで演奏が上手いとは思っていないけれど、厄災戦時にはある場面において、演奏を通してのとある神聖魔法を発動させることは出来た。
あれは一部の神官のみが扱える、奇跡のような魔法。すごく大きな効果は無かったけれど、確かに発動した。その時の一曲だ。
今回は試し弾きも無く、いきなり曲が始まった。とても静かな曲。身振りも大きくなく、それでも霞沙羅はまた目を閉じて演奏を行っている。
「モートレルで鎮魂の曲を弾いたら、たまたま聴きに来た流れの傭兵の人達が泣いてたからねー」
「それはすごいわね」
リュートでも、教団とは関係ないのに寄付金が稼げたくらいだから、霞沙羅は自分で言うほど下手なわけはない。ただ、ある程度以上弾けている人間にしか解らない世界があるのかもしれない。
今回はヒーリングサウンドらしく、鎮魂の曲とは違った静けさを伴っていて、マーロン国王達もその落ち着いた穏やかな曲に身を任せて、礼拝堂内はパイプオルガンからの、ある種神聖な雰囲気を醸し出す音だけが支配している。
「…霞沙羅先生、神聖魔法が使えている」
「え、どういう事?」
パイプオルガンの音に乗って、微弱ながらオリエンス神の奇跡の力が流れてくる。
本当に弱いけれど、多分霞沙羅が想定しているもので、これが正しい現象だ。
「生まれた世界が違うから声が届かなくて、霞沙羅先生はこっちの、ボクはあっちの神聖魔法が使えないんだけど、なんかメッセージがオリエンス神に届いてる?」
「そうとしか考えられないわね」
さすがにイリーナも解った。こんな魔法は見たことも感じたことも無いけれど、種類としては人の疲れを癒やす奇跡の力だ。
霞沙羅は一切声を出していないけれど、弾いている曲だけでオリエンスにメッセージを聞かせて、その力を借りているのだ。
「ここまで出来るのにホントにあの人神官じゃないの?」
「神官とは程遠い人だけど、聖法器を作る事も出来る人だから」
恐らく音が届いている範囲に効果がある、微弱ながらも広範囲に届く魔法だ。
霞沙羅も実験が成功したことを確認している。
それから10分少々の曲を弾き終えて、国王達も拍手喝采となった。
「いやあ素晴らしかった。何というか心が安まり活力を貰ったようだ」
マーロン国王も日々の仕事で色々と疲れているのだろう。座っていた椅子からスッと立ち上がって、力強い拍手を霞沙羅に送ると、他の人達も続くように立ち上がって同じように拍手をした。
「ああ、成功したようだな」
聖法器を使うなら異世界人であろうが関係なく神聖魔法が使える。
ただこのパイプオルガンは明確に聖法器として作られてはいないので、単に神殿内に設置されて、長い間オリエンス神が聴くことで縁が出来ただけ。それでも霞沙羅の曲に込められたメッセージは届いたので、神聖魔法は発動した。
まああまり大きな力にはならないけれど、もともとこういうモノなのだ。
壇上から見下ろすと自分がやった事をアリシアは気が付いたようだ。
「あいつまともに聴いてなかったな…」
本当に厄介な…、いや、頼もしい管理人様だ。
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