ハルキスVS榊 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
そして遂に榊とハルキスの腕試しとなり、モートレルの騎士団には2人が揃った。
ハルキスは、霞沙羅が打ち直した練習用のハルバードにも慣れたというし、今日の榊は自分専用の練習刀を持ってきている。
前回は霞沙羅用で、見た目もあまり変わらないような気がするけれど、個人向けに微調整が入っているので、本人にしか解らないけれど、結構違うんだという。
今日は残念ながら霞沙羅は軍の仕事でいないけれど、どういうわけか吉祥院はやって来ている。
当然その外見には、ハルキスもライアもイリーナも驚いていた。
「そんな事よりも、なんでイリーナがいるんダ? 私が来た時にはもういたんだが、誰が運んできたんダ?」
「アリシアが簡易的な転移装置を作ってくれて、セネルムントとモートレルとの間は転移出来るようになったのよ」
「いつの間にそんな設備ヲ?」
「ちょっと前になるんだけど」
「な、なんだっテ!?」
「それにしてもこの大きい人の着ている服が気になって仕方がないわ。とっても綺麗ね」
「ワタシは宗教はやってはおらぬが、日本という国での宗教的な服でござるよ」
着ている人も服も大きいから、細かいところもよく見える。
霞沙羅は一人足りないけれど、これで両方の世界の英雄達9人がそれぞれ全員と面識を持ったことになった。
「この大きい人は腕っ節が強いわけじゃないんだよな?」
「普通の人に比べれば強いけど、役割としてはルビィと同じ人だよ」
「その辺のチンピラ程度なら張り手で首の骨がへし折れる程度の腕力はあるでありんす」
持っている杖もハルバードよりも太くて大きい。あれで殴られると、フルプレートアーマーの重武装騎士であっても相当に厳しいのではないだろうか。
「あとは吉祥院さん達にも星雫の剣がいたりするんだけど、今は寝てるよ」
「システィーとは知り合いなの?」
「知り合いですよ。やりあったことはないですけど」
星雫の剣同士でやりあわれても困る。やるなら宇宙空間でやって欲しい。月と地球の間くらいで。
「人数は違うが、世界が違っても似たところはあるんだな。よし、お互いの挨拶も終わったし、早速やろうぜ」
人が集まったので、色々と話し込んでしまったけれど、今日は榊とハルキスの第一戦目。
今日もルビィと吉祥院が結界を張って、2人はその中に入った。
「あの先生とどれだけ違うか楽しみだぜ」
「その武器は日本ではなかなかお目にかかれないな。これはいい機会だ」
お互いが武器を構えたその刹那、離れていたはずの2人が瞬間移動のように接近して、もう斬りかかっていた。
さすが武器の違いか、慣れないからか、ハルキスのハルバードを受けた榊が軽く後退させられる。
「そういう武器か」
「勿論斬り合いも強いぜ」
お互いに練気も出来ている。ハルキスも先日、アリシアが相手をしてからもかなり腕を上げている。
そろそろ技を教えても良いくらいだ。
間合いの広いハルキスに対して、同じように間合いの広い霞沙羅の長刀に慣れている榊は、焦らずにじりじりと、ハルバードの間合いの中に入っていこうとする。
「武器が違うと全然違うわね」
霞沙羅が作り直してくれたバスタードソードはとても練習用とは思えないほど信頼が出来ると、ヒルダは感じている。
練気の練習で毎朝振り回しているだけで、以前の物とは違って危うさは無く、とても安心出来る。
ハルキスもそう感じているようで、榊の刀が相手でも、壊れるとはみじんも感じていないから、思いっきりやれている。
「お、間に合ったようだな」
「あれ、霞沙羅先生、来ちゃって大丈夫なんですか?」
2人の戦いを見ているところに、いきなり霞沙羅がやって来た。
「書類仕事は終えたし、今は前回の事件で拾った腕輪の解析中だよ。1人でやってるから、ちょっとした休憩だ。見たらすぐ帰るぜ」
今回はどちらかというと、作り直したハルバードはどうなのかという確認だ。
仕事中に来たので、霞沙羅の服はというと、制服姿。
「わ、こっちも良さそうな服じゃない」
霞沙羅が着ている軍の制服はこっちには無い服だから、ライアが興味を持った。
「また今度な。ところでお前も練気の練習はしているんだろうな」
「朝の運動でやってるわよ。年寄りの感想じゃないけど、最近体が軽くていいわね」
「一度お前とまともにやってみたいんだよな」
以前に軽くは剣を交えているけれど、芸術都市での事だったので、町のことを考慮して運動程度だ。
「え、まあいいわよ。私はヒルダやハルキスみたいに真面目に強さを追求してないけど」
ライアも霞沙羅の戦闘スタイルを劇に活かせないかと思っているので、渡りに船だ。
それはそれとして、2人の激しい戦いは続く。
ハルキスはハルバードという武器のせいで、誰よりも突進力は高いけれど、小回りがややきかない。
だからといって、そんな欠点は百も承知。素早さでは上の榊のテリトリーに脚をツッコむことはなく、最低限の移動のみで反射神経を活かして迎え撃つ。
「おおっ!」
「くっそー、最近やっぱおもしれえっ!」
榊も、いつまでやどりぎ館にいることになるかは解らないけれど、ヒルダも含めて、霞沙羅に誘われて良かったと思う。これからは出来るだけ多く剣を交わしていきたい。
今回は片方の武器が壊れることもないので、お互いにそろそろ、という所で戦いは終わって、握手をした。
「地面だけはどうにもならないねー」
相変わらずボコボコになってしまう地面は、この後騎士団が直す事になっている。
「今度やる時は外がいいかもね」
外にある野外練習用のエリアなら、町が壊れることもないし、地面が壊れてもいいし。広いので結界もまあいらないかもしれない。
終わったところで霞沙羅がハルバードの状態を確認してから、駐屯地に帰っていった。
「結局いつからアリシアの館に住むつもりなんだ?」
「向こうだとあと数日で年明けになるんだけど、そこからだよ」
年末年始は榊家の行事で色々あるようだけれど、住んでしまえば休日にお誘いをかける事も出来る。
ヒルダに会うのであれば、アリシアがいなくてもシスティーがいれば管理人権限でアシルステラに行けるし、ハルキスのエルドリートの町に運んでくれるとも言っているので、これからは気軽に鍛錬が出来る。
3人揃って強さへの追求に余念がないので、これには乗り気だ。
「オレは大概自分の町にいるから、気軽に声をかけてくれよな。オレら部族は男も女も強いヤツが好きだから、紹介もしたい」
「私も一応、町からはあまり出ないから遠慮しないでいいわよ」
「そうか、これからは胸を借りるとしよう」
今後の合意が取れたので、遠方組の2人はシスティーが送っていき、アリシア達はやどりぎ館に帰った。
* * *
過去には散々冒険者が腕試しに訪れたり、盗賊やゴブリン等が住み着いては駆除されてきた、森の中にうち捨てられた名もないダンジョンを、エルナークはとりあえずの拠点として利用していた。
位置としてはザクスン王国の田舎の方。フラム王国との国境に近い場所。
今はとにかく屋根があるところに住めればいいので、魔物や魔獣を率いることなく、いるのは警戒用の数体のゴーレムだけ。
実験する時に使う魔物や魔獣は、融合した魔族の力を持って探し当てればいい。
それにしても大失敗だった。あの日にブリッツの町にやってきたプリシラ王女が率いていた調査隊は、どうも自分を犯人だとは思っておらず、町の住民として確認をしに来ただけだった。
だが研究資料や資材を机に広げていた事もあって、そこを突かれてしまったことに慌ててしまった。
あそこで上手く立ち回ることが出来ればこんな事には…。
かといってあそこに戻るわけにもいかず、研究資料は全て持って行かれてしまった。
一応記録盤は持っているけれど、最新の情報は書き写し前であったので、覚えている所をメモとして書き込んだが、どうにも足りない。
「私が納品が終わった相手とまた手を組むのは珍しいですの」
先日、どうやってかエルナークの居場所を探し当ててきたカナタがいる。
「こんな文明の世界でも、こんなの作る人がいるのねえ」
このダンジョンには、王都ラスタル付近で調査中のダンジョンに眠っていたガーディアンを6体奪ってきた。
奪う時に何体か目を覚まして勝手に外に出て行ってしまったけれど、そんな事は知らない。
カナタとしては1体程度がサンプルとしてああればいい。残り5体はさてどうしようか。
「冒険者登録に協力していただきましたので、何かお手伝いしますわよ」
「国の連中に持って行かれた研究資料を取り戻したい。何か武器になるようなものはあるか?」
「そうですね、このガーディアンはどうですの? その辺の魔物や魔族が裸足で逃げ出す程の性能があるようですわ。とても頑丈ですし、純魔力ビームもなかなかの高出力」
「しかしこいつは生物である魔物と違って、いくらレラの目でも操れはしまい」
「そこでこの金属版レラの目ですわ。間を噛まさないとダメですが、まあ大体予想がつきますわ。相棒さんにもちょっとお手伝いして貰いますけど」
ヤマノワタイにはロボットがあるので、魔法で操るのならどうとでもなる。
生物では無いけれどレラの目を通してなので、今や相棒の魔族に強力して貰うだけだ。
「私には次の仕事が入っていますが、このガーディアンの研究もしたいですしね」
カナタは1体だけ貰う。なら何となく持ってきた残り5体はエルナークが使えばいい。
「ねえカナタ、またこの世界に居座るなら、食べ物取ってくるわ。この世界っていうか時代は全体的にあんまり美味しくないのよね」
「時代が違うんですから仕方ないでしょう? 私はお腹が満たせれば何でもいいですけどね」
「はいはい、じゃあ私は一旦国に戻って、レトルトでもキャンプ飯でも仕入れてくるわ」
そう言ってアオイはこの場から消えた。
以前にこのカナタから貰った幻想獣と金属のレラの目は脱出の際に幾つか持ってきたが、魔法学院のある王都を襲撃するには数的に心許ない。
胡散臭い女だけれど、その腕は確かで、このガーディアンも操れるようにしてくれるだろう。
「あなたも慎重に行動をして下さいな。別のお客様は結局焦りすぎて自滅してしまいましたしね。調子よく事が進んだからといっても、一回一回足を止める余裕が欲しいですわ」
おかげで情報収集も含めて宗教組織に潜り込ませていた仲間の存在がバレてしまった。
これであの空地とかいう一族にはしばらくは手は出せなくなった。
だったらたまには家に帰ろうか。いいものを拾ったので、ここは一度じっくりとここまでの状況を纏めるのもいい。
何やら水瀬家の周辺を嗅ぎ回っているのがいるけれど、ヤマノワタイではとくに何もやる気はないので、彼らが何か出来ることは無い。
だったら、久しぶりに論文の一つでもでっち上げておけばいい。
自分だけは慎重に行こう。
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