ハルキスVS榊 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日の榊は休日を使って、本格的にやどりぎ館に物を持ってくることにした。
性格的なこともあってあまり多くのモノを持っていないので、基本的には衣類と書籍がメインで、他にはPCや鍛錬用の道着とか刀とかを持って来ればいい程度。
それと、北海道の冬を過ごすための防寒着やハードディスクレコーダーの購入もあるから、午後からはそれの買い物に行きたいと言っている。
「今日も雪が降っておるぞ」
お店の開店が午後からのフィーネは、談話スペースのソファーでくつろいでいる。
12月ももう終わりが近づき、聖誕祭以降は小樽の雪も本格的になってきて、スキー場に向かう車も今日はやどりぎ館の前を多く通っていった。
「まあお主にとっては雪すらその身を濡らすことはあるまいが」
「にゃー」
榊なら作務衣と雪駄でも猛吹雪の小樽を散歩出来そうだけれど、周りから常識を疑われてしまわないように、一応は普通の服装をしておくつもりだ。
「ハルキスとの件はどうします?」
「買い物がいつ終わるかが解らないので、明日にしておこうか」
今日は部屋作りもあるので、泊まっていく予定だ。
「また賑やかになるのう」
恋人同士で同じようなところに住むことになる霞沙羅の今後が気がかりではあるけれど、2人の仲は皆が解っているのだし、もう大人なんだし開き直って進展があればいいのではと思う。
「今日の夜はすき焼きにでもしようではないか。これそこの小僧、これで肉を買うてくるがよい」
フィーネがアリシアを呼びつけて、二万円を渡してきた。
これであれば近くのスーパーでそれなりに良いお肉が量を揃えられるだろう。
「釣りの無いようにな」
「はーい」
「す、すき焼き…」
ちょうど二階から降りてきたシャーロットがその言葉に絶句した。
「そういえば、シャーロットが来てからはまだやってなかったねー」
さすが未来予知の出来る女神様だ。わざわざこのタイミングで「すき焼き」の話題に変えるとは、気が利きすぎる。折角榊が来た事と本人的に歓迎する意味あいと、シャーロットもレポートのラストスパートで頑張っているから、そのご褒美的なものである。
「こういうやつもおるからのう」
「た、たのしみ」
すき焼きはなにかの本で見た。味は何度か食べた牛丼に似たものだけれど、野菜なんかも色々入った豪勢な鍋料理。
日本に来たら絶対に食べておくのだと思っていたものだ。
「うどんも忘れずに買うてくるのじゃ」
「はーい」
「それじゃあオレは荷物を持ってくるから、裏の扉を何度か行き来するぞ」
「ええどうぞ、手伝いましょうか?」
「いや、運動になるから自分だけでやろう」
「そうですか…」
やはりどこまでもストイックな人だ。
まあ料理で魔法制御力の鍛錬をしている伽里奈も人の事を言えないが。
* * *
今日は作務衣ではなく、ごく普通の若者という服装でいる榊は、思いつくところの荷物の移動は終えて、午後になってから物を買うために小樽の町に出掛けていった。
防寒着はともかく、家電くらいなら実家に近い藤沢なり、神奈川県内で買ってくればいいものを、引越気分を大事にしたいので、小樽で買うという妙なこだわりを見せた。
「元々ここに住む資格のある人だったけれど、同じ国にいるのにわざわざ北海道から神奈川の職場を往復するっていうのも変な話ね」
エリアスも、こんな人はいたのか? と運営に聞いたそうだけれど、やはりこれまでに例は無かったそうだ。
居住の資格については、霞沙羅が住んだ時についでに調べて貰ったらOKだったという訳だけれど、札幌に配属になったらな、とずっとここに住むという考えは無かった。
今回は霞沙羅が「強い奴がいるぜ」と薦めたら「なら住む」となったので完全にイレギュラーだ。
実際そこまで長期に住む気は今の所は無いようで、半年程度と聞いている。
この前の腕試しでヒルダの事は気に入ったようだから、しばらくは鍛錬の為に通うのだろう。
「霞沙羅も堂々としていればいいのに」
「みんなそう言うね」
榊は表だって霞沙羅を好き好き言う性格では無いけれど、大事にしているのは解る。
ただ霞沙羅が恥ずかしがっているので、今後はどうなるのかというところだ。
純凪さん夫婦からも進展があったら教えてくれ、と言われているから要観察だ。
まあ伽里奈も急に降って湧いたもう一人の女神の件が悩み所だったりするけれど。
「じゃあ買い物に行きましょう」
「そうだね」
雪は止む様子はない。スーパーまではちょっと距離があるけれど、フィーネが折角肉代を出してくれたのだから、すき焼き未体験者もいることだし、良い夕飯にしよう。
伽里奈とエリアスは互いに寄り添うように買い物に出掛けた。
* * *
「焼き肉とかジンギスカンもすごかったが、これもすごいな」
フィーネがお金を出してくれたこともあって、お肉の量に不足はない。電気鍋を2つ出して、伽里奈とシスティー2人の鍋奉行の元ですき焼きが出来上がった。
「もう一回分あるから焦らないでね。それと最後にシメのうどんも作るからね」
お腹を空かせて帰ってきたアンナマリーは、お肉だけでなく、美味しそうに煮えている野菜や豆腐にも興味を示した。
「外が雪景色だと、こういう鍋料理は格別だな」
榊もこれまであまり機会の無かった、これからの雪国生活を今日はたっぷり味わって、やっぱり暖かい料理はいいモノだとしみじみ思っている。
「こういう皆で囲む料理って、なかなか無いのよね」
シャーロットはまたすき焼きの出来上がりをスマホで撮って、家族に送るつもりだ。
「ほれ鍋奉行、そろそろよいのではないか」
お肉代を出してくれたフィーネは、もうすでに熱燗を飲んでしまっている。
「じゃあ食べ始めましょう」
アンナマリーとシャーロットにとって初めてのすき焼きが始まった。
2人はまだお箸が使えないので、システィーが指定した具材をお椀に取ってくれて、フォークで食べるしかない。
「お箸は覚えて帰るんだから」
食べるだけでなく調理にも便利かなと思う。
伽里奈が買ってきた牛肉はブランド品ではないけれど国産で、粗めな刺しが入っていて、赤身と脂身のバランスが良いお肉だ。適度にかみ応えが有り、脂の甘みも感じることが出来る。結構お買い得だった。
「こんなシンプルな味付けなのに美味しい」
アンナマリーは電気鍋が何も入っていない時から見ていたけれど、牛脂と醤油と砂糖と水くらいしか、この汁には使っていない。焼かれていくお肉の上からそれをかけて、野菜などの具を追加していただけ。料理時間も短い。
醤油は今の所フラム王国には無いので、同じ物を再現するのは無理とのことだけれど、次回はワインやオリーブオイルにトマトを使った別のバージョンを作ってくれるというから、これとは味は違うけれど、アシルステラで受け入れられそうなすき焼きを作ることは出来るそうだ。
「私の国ならなんとかなりそうね」
ロンドンのような都会なら醤油も手に入るだろうから。豆腐としらたきは解らないけれど、まあ何とか形になるかもしれない。
割り下を使わないこの関西風のやり方なら。
「野菜も美味しい」
お肉が主役ではあるけれど、野菜も魅力的ですんなりと食べる事が出来るので、バランスもいい。
「小娘共、ご飯は食べ過ぎるでないぞ。最後にうどんが入るでのう」
「は、はい」
1回目はペロリと終わり、そして2回目もペロリと終わり、とうとうシメのうどんが煮込まれていく。
「榊さんはお酒を飲みませんね」
「明日があるからな。この後またイメージトレーニングだ」
「真面目だよな、お前は」
霞沙羅はハイボールの2缶目を開けた。
「み…、こいつは飲むには飲むんだが、適当な所で止めるんだよなー」
酔った勢いで2人だけになった時だけ使う名前の方の「瑞帆」と言いそうになって、霞沙羅は言葉を止めた。
ここならいいんじゃないかな、とエリアスは思う。
やがてうどんも丁度よい感じに煮込まれて、夕飯最後の料理を食べる事になった。
「うどんて色々使えるのね」
「柔らかくていいよな」
お肉からうどんまで、満足して今日の食事は終了した。
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