霞沙羅の講義 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
持ってきたお弁当は、寮の食堂の、前回ハンバーグの食事会会場になった会食用の食堂で食べる事にした。
吉祥院が大きすぎて、散らかっているルビィの部屋で4人で集まって食べるのは無理だと思ったからだ。
その代わり、試しにやろうとしたオニオングラタンスープをタウ達にも作るハメになってしまい、美味しかったので今度食堂用に教えに来いと言われた。
お弁当はサンド系。それとは別に手作りチキンナゲットが入っている。
「アーちゃん家の卵サンドがとても人気だから、この前リューネに買ってこさせタ」
そして今日もお弁当の中に入っている。
「あれって、ボクがまだ名乗ってない時に出したでしょ?」
「そうダ。あれは地味だがつまむには悪くなイ。あれはどうやって作っているのか、今度作りに来て欲しイ」
厚焼き卵という、卵を何層かに重ねて焼いていくという作り方はここにはない。
「玉子焼きは、確かに日本にしかないな」
「アリシア君はたまにあのプルプルなオムレツを四角にして入れてくれるでアリンス」
「あれはなあ、食べるのがちょっとむずいな」
「プルプルなオムレツとハ?」
「今の所アンナマリーの家と王様にしか出してないんだけど、スクランブルエッグを固めたようなオムレツがあるんだ。ボクは中にチーズを入れたりするんだけど」
「話しを聞いているだけですごく美味しそうなんだガ」
「先に家に教えてから、ルビィの家に教えるね」
「むウ。しかしこの鶏肉も美味イ」
「ミンチにして味付けして成形して揚げてるからねー、食べやすいと思うよ」
チキンナゲットはただの唐揚げよりは手間がかかるから、実家に伝えるべきか悩む。
「とりあえずこのスープは欲しイ」
「そのくらいならいいと思うけど」
実際、ミラーニカは食堂だけの営業はしていないから、宿泊しないと食べられない。その辺は大衆食堂だけの利用も出来るカリーナの宿の方が有利だ。
「しばらく学校が休みだからねー、その間は館の運営に支障が出ない範囲でこっちに来るよ」
冬休みは一月半ばまであるから、結構長い。毎日は無理だけれど、時間を作ることは出来るハズだ。
そんなところで突然町に警報が流れた。
警報とはいっても城壁や町に何カ所かに仕掛けられた、空気で慣らす空笛ではあるけれど。
「ラスタルで魔物とか?」
「ドラゴンだったりするのか?」
「霞沙羅はなぜ喜んでいるのでありんすか? 魔物でやんすよ?」
「確かに空から来る魔物はたまにいたりはするガ」
食堂の外に出ると、学校の職員達も外に出てきていた。生徒は当然建物の中で避難行動だ。
「ちょうどいいし」
アリシア的には、ヒルダに製造を頼まれていた小型魔獣探知装置の持ち運び版を持ってきていたので、それをここで使用することにした。魔物が出ないと試験のやりようがない。
今回のは騎士団が毎日の警戒任務で持たせるためのモノなので、効果範囲は狭く作っている。
武器を装備していても支障が無いように、形は薄型で四角い小型のタブレットPCくらいにしてある。小さくなっても魔力タンクはスペースをしっかり取っているので、前回と同等の稼働時間は確保している。
そしてもう一つのウリは、探知範囲を一定方向のみに絞ることで、距離を伸ばすことが出来る。
「うお、新型かよ」
「館の仕事をしながらよく作れるよね、アリシア君は」
そして霞沙羅から提案されてアンテナが本体収納式になっているから、見た目がスッキリしている。
「吉祥院さんだってこんなものを飛ばそうとしてるじゃないですか」
「電気が使えない旧23区対策には丁度よくてね」
早速範囲を絞って探知すると、ある方向に反応があった。
「【重力探知】」
「おいおい」
勿論こんな魔法はアシルステラには存在しない。地球の魔術から作られたものだ。
アリシアが発した重力波を探知装置が吸収・増幅して発射し、探知範囲の立体物を感知して、その形を表示する。
元の探知機は2年以上前に作ったというけれど、最近改良を始めたにしては妙な機能が追加されている。
霞沙羅はアリシアに先生呼ばわりされている身ではあるけれど、こんなものを作るとか、こっちの英雄と呼ばれるだけあってアリシアは魔術師として油断も隙もない。
「何か空飛んでる物体が10体くらいいるけど」
感知した物体の一つの形を拡大表示すると、丸いモノに横長の羽のようなものが伸びて、鳥のように前に伸びた頭部がある。
「今はこの魔工具の事は置いておいて、その形はダンジョンのガーディアンじゃないカ?」
ルビィが声をかけて近くにいた賢者の一人に来て貰い、とりあえずこの装置の事には目をつぶって貰って、映った物体の形を見せると、まさにダンジョンで見つかったガーディアンの一種類だと解った。
「何が来るんだい?」
吉祥院も自力で探知しているから何か良く解らないモノが飛んできているのは解る。ただ地球の常識とかけ離れた形をしているのでそれがなんだか解らない。
「ガーディアンだそうですよ、さっき船から見えた探索中のダンジョンの中にいた」
「何の目的で来たか知らんが、襲ってきたとしてそんな貴重なモノを壊していいのか?」
「町を襲う気なら、壊すしかないだろウ。新規のダンジョン捜索には良くある事故ダ」
学院の外も、騎士達が動き始めているし、王宮の魔術師達も同様に、警戒時に予め担当が決まっている場所に移動し始めている。
なので4人も適当な場所にやって来た。
「ガーディアンもあれだが、こっちの方も警戒されてるぞ」
「何でいちいち拙者の身長を気にするのでありんすか?」
身長が高くて目立つ。それ以前に鮮やかな黒髪と白と赤の服装が目立つからだ。
騎士が乗ってきた馬もいつもは見下ろしている人間と比べてもやたら高い位置に目があるのでちょっと驚いていたりする。
「わー来た来た」
丸い鳥のような形のガーディアン達は外装を特殊な陶器で固めていてとても硬そうだ。
それらは急に輪になるように上空を周り始めたかとおもうと、頭部から光線を放ってきた。
「ビームかよ」
「単純火属性魔力の収束帯でやんすな」
「あんな使い方があるのか」
吉祥院は杖の防御壁を展開して、受け止める。こんなものを喰らったら、魔力を受け止められない一般的な兵隊どころか、そこらにある家に穴が空く。
幸いな事に、魔法であるが故に光のような回避不能の速さはないから、避けようと思えば避けられる。
しかしガーディアンが空中にいるので、騎士には手も足も出ないし、並の魔法使いでは魔法が届かない嫌らしい位置にいる。
射程外に位置するとか制作者は解っている。
「ルーちゃん、轟雷の杖を全力で合わせて」
アリシアは先に空中に、ある魔法の魔術回路を展開する、その魔術回路は同じ10個が一つに合わさったものだ。
「おう、久しぶりじゃないカ」
それを見たルビィは躊躇なくその真ん中に轟雷の杖から稲妻の奔流を撃ち出す。するとその一撃から雷の力を供給された魔術回路が10個に分離して、アリシアの操作でガーディアンに張り付いた。
そして各ガーディアンから激しい閃光が上がったかと思ったら、動きを止めて落ちてきた。
「見事な連携でありんす」
「轟雷の杖は威力が高すぎるので、場合によってはこうやって分散してたんですよ」
「電撃を喰らって一時的な機能不全ってヤツか。落ちてきたヤツを機能停止にしてやろうぜ」
当然、威力は分散されたとはいえ轟雷の杖を喰らったのだから内部にも破損が生じているので、もうまともに飛ぶことは出来ない。それにしても外装はかなり頑丈そうだ。
霞沙羅は講義に使った杖を、炎の剣モードにして、落ちてきた一体に襲いかかった。
「ルビィ様とアリシア様がやってくれたぞ。我々も地上に落ちてきたあのガーディアンを破壊するのだ」
やっと攻撃が出来るようになって、騎士達も魔術師達の援護を受けて、バラバラに落ちてきたガーディアンに襲いかかった。
霞沙羅の持っている杖の現在のモードは、本人にとっては解体用途。だから先端から生じている炎の刃で、ガーディアンをパーツ毎にバラバラに切断していく。
さすがに技術者だけあって、初めて見た物体であっても、無秩序ではなく、あとの研究を進めていけるように、パーツ分けは的確だ。
「おらー、次だーっ!」
一体を解体すればまた別の個体に襲いかかって、同じように解体していく。
「あの先生はすごいナ」
それとは別に、吉祥院は騎士達に、機能不全で出力は落ちたとはいえ、至近距離からのビームが当たらないように防御壁を的確に飛ばして援護している。
攻撃一辺倒ではなく、防御もこなせるのが吉祥院とルビィの差だ。そういえば、冒険中もアリシアが防御を担当していた。
ルビィもまだまだ学ぶことは多いのだ。
そのアリシアはガーディアンに重力場をしかけて、動作の阻害を行っている。
「あのカサラ殿の技術はすごいのう」
「我々でも解体するのに手間取ったというのに」
タウ達も遅れてやって来たけれど、霞沙羅の手際に感心している。
「あの杖はかなり使えそうじゃのう。ガーディアンの解析もよいが、その為にあの能力だけでも再現しようではないか」
結局霞沙羅が半分をバラバラにしてしまったところで、騎士達の頑張りもあって10体のガーディアン達は全て機能を停止した。
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