霞沙羅の講義 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「アリシアの記録盤かと思っておったわ」
講義も終わり、霞沙羅が使っていた記録盤は誰もがアリシアが使っている例の改造品だと思っていたら、突然サポート用としてアリシアがもう一つ出してきたので、何だあれはとなった。
「この前、複製品があるって言ったと思うんですけど」
「では複製が出来るのではないか」
「霞沙羅さんと吉祥院さんの記録盤は学院の設備に連結出来ない作りなんですよ。それに今はコンバートしてますけど、作りは向こうの世界用ですからねー」
先日のレポートによる拡張は、実はまだ出来ていない。鋭意機能拡張実験中だ。
「これ作るのも結構大変だったんだぜ」
そもそも素材が違うので、互換品を探すところから始まった。そして魔術基板の異世界変換もあった。
「学校の設備を使い続けるのが前提なんですから」
「そうだったな。おまえの記録盤では動かないんだったな」
とにかく、今回の講義は、こっちには無い技術だったので大好評だった。出席者全員はきっとこれからこの技術を使った杖を一つは作るだろう。
それでは、講義が終わったので、御礼に飛行船に乗せて貰うために、倉庫にやって来た。
大きな倉庫の扉はすでに開いていて、中から飛行船が試験飛行のために出てきている。
「改めて見るとでかいなあ」
「そちらの世界には無いという話だが?」
「似たような形の乗り物はあるのでござるよ。ただ一般的な空気よりも軽い気体を入れて飛ばしているのであります」
「?」
吉祥院のその説明はさすがにアシルステラでは解らない。
そこで吉祥院は袖の中から紙風船を取り出して、自分で膨らませて、掌で弾いて空に飛ばした。
「あれの中身は周りの空気と同じであるため、紙の重さのおかげで降りてくるのでありんすが」
今度は風系の魔法で空気から水素だけ抽出して風船内に充満させると、掌に乗せた風船はゆっくりと空に昇っていく。
「あれには魔力が籠もっていないのは解るでござろう。我らの世界の飛行船はこのようにいくつかある空気の要素の中から軽いものを抽出して飛んでいるのであります」
やがて紙風船の穴から入ってくる空気が混ざり合っていき、ゆっくりと降りてきた。
こちらの飛行船はキャビンの上のタンクに魔力を貯めて、船全体に仕込んだ魔術により飛んでいる。
「科学という、魔術とは別の、自然の摂理を利用した学問が蔓延した世界なのでありんす」
「ほう」
「だからこういう船はない。それがあって知りたいんだよ。私らの世界は便利なものが多すぎて、魔術の幅が薄くなっている。良いか悪いかは別として、魔術師としては興味がある」
勿論、こっちの文明も自然の摂理は利用している。その頻度が大きく違うだけだ。
「ここから先は儂が解説をしてやろう」
御礼とばかりに、タウ達が飛行船に招き入れてくれて、構造の説明から始まり、内部や操縦系統を実地で解説してくれた。
操舵用に船と同じハンドルがついているけれど、その横には上昇と下降を制御するレバーと速度調整のレバーが別々についている。
それから、飛行船周辺の魔獣と魔物感知装置と、地形にぶつからないようにする感知器もついている。
「これを全部魔術で処理しているのが驚きでありんす」
「魔術しか使ってねえな」
一通り説明が終わると、やがて静かに船は上昇していき、ラスタル周辺を遊覧飛行し始めた。
「実際に飛行船に乗ったことはないが、エンジンが積んでないだけあって静かすぎる」
「多少風の影響は受けるようでござるが」
驚いてはしゃいでいる霞沙羅と吉祥院を見て、お返しが出来たとタウ達もニッコリしている。
それとは別にアリシアは台所設置予定箇所を見に行った。
「ここに作るの?」
狭いけれど調理用の専用部屋が用意されているけれど、とりあえずまだ何も無い。
「料理と言っても帆船と同じで、スープを作る程度だゾ」
「まあ、そうなるよね」
「燃えないように陶器のタイルで囲んで、調理場を置くのダ」
先代の飛行船にもついていた設備だけれど、あれから数年も経っているので、多少軽量化させる方向だ。
「あまり使う事はないガ」
今の所、かつてのように他国への移動はもう少し先になるから、設置はそこまで急いでいない。国内移動だけなら、主要な町までは大体一晩で移動出来てしまうからだ。
「寝具は乗せたの?」
「船長室だけは一応、個室になっているが、一般的な乗員用の寝具は寝室に何台かの二段ベッドを置いてあるゾ」
これは一晩飛ぶ時に使っている。
あとは食事の為のテーブルが共用スペースに置かれている。
「一泊とはいえもうちょっと快適にしたいね」
「何かアーちゃんは食べ物を暖かくする箱を作っているそうじゃないカ」
「暖かいまま保管しておく箱だけどね」
「チーズステーキとかいう食べ物は、暖かいまま食べたかっタ」
「まあそういう事をする箱だね。あんまり長い間保温してると,食べ物も傷んじゃうから、お昼頃に出発するとして、夜ご飯用だねー」
「早くチーズステーキの作り方も教えて欲しいモノだゾ」
「あれは料理って程のものじゃないけどねー」
ある程度の味付けくらいなものか。実際味なんて変えても問題無いし。
「それにしても珍しくキッショウインさんもはしゃいでいるナ」
「この乗り物は地球にも無いことはないけど、もう殆ど乗る機会はないからねー」
操舵室に行くと、霞沙羅は窓に張り付いている。
「ラスタルとセネルムントってのは案外近いのな」
「歩いて半日ない程度ですからね」
距離としては20キロもない。なのでこの飛行船に乗れば見えてしまう。
「カサラ殿はあのセネルムントで何か、白い粉を作るという計画があると、王から聞いたのだが」
さすがに王宮魔術師だけ合って、ダウにもその話が流れてきている。
「温泉の成分が固まったものが冷却用のプールに沈んでいるんだが、あれを採取して粉にするんだぜ。大賢者どの達も、温泉に浸かりにあの町に行くことはあるのか?」
「我ら程度になると、転移魔法は持っておるから、時々行っておるよ。信仰する宗派は違えど、温泉が引かれた宿には泊まれるからのう」
「その温泉の成分をどう使うというのか?」
魔術の話ではないけれど他の賢者も興味を示した。そのくらいラスタルの人間にはセネルムントの温泉は身近だ。中には別荘を持っていたり、住民である魔術師もいたりする。
「天望の座くらいになると家に風呂がありそうだが、そこに粉を入れて溶かすんだよ。まあ温泉代わりだな」
「可能なのか?」
「この前、無理矢理魔法で粉にはしたぜ。本当は採取してから時間をかけて乾燥させないとダメなんだが、教団の上層部にサンプル品を出した方がよさそうだったからな。協議をした結果イリーナからやるという話しを聞いたから、準備をして貰っている最中だ」
「ほう、それはそれは」
「私らの国は温泉が多いのでござる。それで各地の温泉でいろいろと恩恵を受けようとやっているのでありんす」
「気軽に温泉を楽しめるというのか。それは楽しみだ」
話をしていると、セネルムントの方向から離れ、森の上に到達した。
「カサラ殿、今下に見えるキャンプ地に、先日話をしたダンジョンがある」
ダンジョンの周辺だけ木が伐採されて、そこに木造の簡易な建物が何軒か無理矢理設置されている。
残念ながら、ダンジョンの入り口は建物の一つに隠されてしまって見ることは出来無い。
「どのくらい調査は進んだんです?」
「なかなか広いダンジョンでな、作成者も解ったが、中には大小様々なガーディアンが眠っておった。出来れば研究用に無傷で手に入れたい事もあって、下手に動かす事が無いように慎重に少しずつ搬出しておるところだ」
「ガーディアン?」
「ゴーレムの上位版をそう呼ぶのじゃ」
「ロボットみたいなモノですよ。ちゃんと中の骨格とかから作って、恒久的に存在するように作られたゴーレムです。ゴーレムは寿命がありますからねー」
定期的に魔力を供給すればゴーレムも形を保ったままでいられるけれど、ガーディアンはそのメンテはいらない。
そして製造過程で細かい命令を仕込むことも出来る。
「そんなモノを研究していた施設って事か?」
「そういう魔術師であったと学院の記録にある」
「機会があったらガーディアンも見たいもんだな」
「ある程度安全性を確保して保管が出来たら、声もかけよう。危険故、今はまだ見せることは出来ん」
「そうか、その時はよろしく頼んます」
ファンタジー世界を空から楽しんで、大体一時間くらい。ラスタル周辺をぐるりと回った飛行船は学院に帰ってきた。
「うーん、良かった」
「乗ってみるモノでありんす。どういう風に飛んでいるのかは解ったでござる」
「まあ実際、地球には合わない技術ではあるが、何かには使えるだろう。別にこんなに大きく作る必要もないわけだ」
霞沙羅も吉祥院も試験飛行に満足したようで、色々と話も出来たのでタウ達も2人を乗せた甲斐があったと喜んでいた。
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