霞沙羅の講義 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
翌日はまた魔法学院にやってきた。
今日のお昼については、アンナマリーはいつも通りの勤務、シャーロットは早藤達地元勢女子とスキー、フィーネはいつも通り占い。エリアスは仕事の打ち合わせで事務所に行っているので、館にいるのはシスティーだけ。
そのシスティーも小樽市内に新しくできたというラーメン屋に行きたいというので、やどりぎ館に帰って昼食を作る必要が無くなったので、4人分のお弁当を作ってきた。
「ボクも袴で来れば良かったかなー」
「お前まで合わせなくていいだろ」
「アリシア君は脚が綺麗だねー」
今日もアリシアは美脚にブーツが映えている。ブーツは聖誕祭にエリアスに貰ったモノを早速履いている。
霞沙羅の袴姿は、着物部分は白い、うっすらとした花の模様で、袴部分は藍色でクール系。足下は黒のブーツ。
いつもと違ってとても清楚な大人な女性な感じだ。
「前にこれで広報誌に載ったことがあったでござるな」
「あの後呉服屋に滅茶苦茶注文が来たんだぜ」
さすが軍のアイドルだ。影響力が大きい。
純日本的な服装の二人を連れて、今日も受付で警戒されながら、今回はタウの招待で来ているのですんなり通されて、ガラガラとテキストの入ったキャリーケースを引いて、確保されている講堂にやって来た。
「おう、待ってたゾ」
いつもの通りウキウキしながら講堂で待っていたルビィが早速声をかけてきた。
「相変わらず早いねー」
「出席者はさすがにまだ来ないか」
この講義の出席者はもう解っているので、座席にテキストを置いていき、霞沙羅は自分の記録盤の調子を見た。
「先生もそれを持っているのカ?」
「あいつに聞いてないか? 具合が良さそうだから複製したんだよ。基本的には日本で使う用なんだが、今日は変換装置をつけて、こっちでも動くようにしている」
霞沙羅の記録盤も同じように小型のディスプレイを座席に飛ばしている。あの3年間で霞沙羅とは技術交換をしているので、アリシアの記録盤を参考にして複製してある。
「ワタシも複製しているでありんすよ」
「アーちゃんのと同じ機能デ?」
「複製だから同じ機能を持ってるぜ」
機能は同じだけれど、霞沙羅の記録盤は外装がプラスチックで出来ていて、見た目もスマホに寄せているので結構違う。
「こっちのは陶器だよねー」
陶器といっても魔術的に加工されていて、とても硬い。ただ、霞沙羅達の方は加工のしやすさを選んで、プラスチック製で製造されている。
唯一の機能的な違いといえば、用がないと思ったので学院の設備に連結する端子がないことだけだ。
「アーちゃんの記録盤はどういう経緯であの形になったのダ?」
「向こうの世界にある機械の機能で、いいかなと思ったのをつけてみたんだよ。なんか、映画とか物語とかの空想の機能もあるんだけどねー」
「それの機能をつける時に色々と相談を受けて、私も欲しいと思って地球向けに複製したんだぜ」
「霞沙羅いいの持ってるじゃん、てことでワタシもコピーしたのでやんす」
「むウ」
よくよく考えると自分には及ばないとはいえ、この国ではかなりの高位魔術師であるアリシアと、向こうの世界でトップクラスの魔術師の吉祥院と、世界を救った武器を製造出来るほどの腕前を持つ霞沙羅の3人が揃って、3年も密接に魔術についての会話を重ねてきたのだ。お互いの視点で無いものを取り込みあって、研究もしていたのなら、アリシアはかなりの知識を得ているという事になる。
それぞれ英雄と呼ばれる3人が仲がいいというのは、それはなんだか羨ましい。
「上手く映ってるか?」
「全然問題なく読めるでありんす」
「安定してますよ」
テキストは全員分を配り終えて、霞沙羅が記録盤のデータを確認していると時間も迫ってきたので、続々と天望の座を初めとした高位の魔術師達が集まってきた。
昨日も来たけれど、ここで吉祥院を初めて見た人間は驚きながらも、それぞれ着席した。
吉祥院も自分で持ってきた大きめのキャンプチェアーを教壇の近くに置いて座った。
「全員揃ったようなので始めさせて貰う。まずは今日の議題となる杖がこれだ」
これは先日持ってきたモードチェンジのギミックを持っている杖だ。形を変えると魔術基板が組み変わって、機能が変わる。
構造的には基本となる魔術基板があって、変形させることで拡張回路の接続部が変わる。
持たせる機能によって長さも変わるので、使い方も変わる。
「やり方によっては一本の杖で複数の属性を取り付けることも出来るぜ」
轟雷の杖のように一つだけの属性を持つのではなく、火や水の属性も同時に内蔵することが出来る。
「どういった場面に使用している技術なのじゃ」
「魔術師の属性相性対策だな。ここにいるような人間は各々得意な属性はあるだろうが、それ以外の属性が全くダメという人間はいないと思う。なにがしかで克服しているだろう。だがそういうのは世の中で一握りだ。私は軍事組織の一部分を管理しているのだが、集まってくる人間の得意属性が想定しているとおりに揃わない場合が多い。それに対しての数あわせだ」
火の属性の人数が欲しいけれど足りない。そういう時に支給する。それも一属性ずつ作るのではなく、複数個持たせておけば、コストも低くて済むし、現場で緊急事態が起きた場合も属性を変えれば臨機応変に対応出来る。
「な、なるほど」
さすが魔術師として、ある程度の人間集団を管理運営して戦場に立っている人間の経験は大きい。そして組織的な欠点を克服出来る腕があるのだとすれば、当然のように使うだろう。
しかし管理者たる大佐が部下のために製造しているというのがややアンバランスだったりする。
そんな事情はここにいる人間には関係ないかもしれないが。
「確かに」
宮廷魔術師として、王家直下の魔術師団に参加、管理している魔術師もその辺の事情は理解出来たようだ。
「お、面白い」
使う場面が理解出来るとまた、今まで聞いてきたテキスト部分を慌てて戻り、反芻するように読み戻る参加者もいる。
「ところでキッショウイン殿のあの大きな杖には何か仕掛けがしておるのか?」
「あの杖は同時に複数個の魔術が動くように作っている。常に魔術基板に複数個の拡張基板がくっついている状態だ。特徴は、その拡張を任意で切ることによって、出力を変化させる事だ。場面毎にいらない機能を使用しないことで、限られた魔力量を残された機能に絞ることで出力をアップさせる事が出来る」
「応用というワケか」
「杖が大きい分、機能をマシマシに出来たからな」
吉祥院の杖は確かに大きい。そして大きいので魔術基板を刻むスペースも増える。この杖は伊達に大きいわけでは無い。
話に出たのでその吉祥院の杖の機能を見せながら、講義は続き、そのあとの長い質疑応答も行われたし、その過程で霞沙羅も色々とこちらの事情や技術を耳にすることが出来た。
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