ルビィVS吉祥院 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
シャーロット達は夕食後のアイスクリームを楽しみ、温泉に入り、色々と遊び疲れたので早めに寝てしまった。
そして翌日には朝食を食べて、弟妹2人は家へのお土産を持ってロンドンに帰っていった。
短い滞在だったけれど、久しぶりにお姉ちゃんに甘えて、そして雪にまみれて遊んだいい思い出になってくれたのなら嬉しい。
さて、今日から二日間の伽里奈はフラム王国に行く予定がある。勿論やどりぎ館の仕事はちゃんとやって。その空いた時間を使ってのことだ。
「ではアリシア君、魔法学院に連れて行ってもらおうじゃないか」
吉祥院がルビィと魔力対決をするためにやってきた。
「この人の服はなんだか綺麗だな」
今日のアンナマリーはお休み。
背が高すぎてぱっと見怖いけれど、慣れてきて冷静に見ると、着ている白と紅の袴はとても独特のカラーで、そして清楚で綺麗だ。
「私も気になっているのよ」
シャーロットも弟妹を寝かしつけて、実家から帰ってきた。
「吉祥院さんのは宗教的な服装だけどねー」
「ワタシは宗教屋ではないでありんすが、身長の問題だっちゃ」
なぜこんな服しか着ていないのかというと、背が高すぎるので着れるような市販の服が売っていないのが一番大きな理由だ。
市販のような服をオーダーメイドし入手しても、背が高すぎてなんか不自然さが残るから、なんとなくこの服に落ち着いた。
「この服はいくらくらいするんだ?」
白衣と袴だけでなく上着のような千早も着ている。
「コスプレ衣装だと2万くらいで買えるけど、規格外のオーダー品だし生地も多いから、吉祥院さんのは…」
「こいつのは一着16万くらいしたな。上着入れるともっとするが」
発注先は霞沙羅の実家だ。
これを何着も持っている。
「どのくらいの価値なんだ?」
「アンナマリーがここに住んで、一ヶ月分のお給料から家賃を払った残額、では足りないくらい」
「高いんだな」
「そんなにするのね」
「コスプレ品と違って生地も違うし、完全オーダーメイド品だからな」
「でも折角日本に来たんだし、着物とか袴って一回着てみたいわ」
「霞沙羅も持っていたでゲスな」
「実家の商売だからな。着物は2着、袴は3着だったか。主に撮影用だがな」
「袴って、吉祥院さんと同じの?」
「普通の一般向けだ。私のはセットで8万くらいだったな。さすがにそれ以上のは娘といえどくれなかったな」
霞沙羅は実家呉服部門のHPを見せた。
いくつかは実家の仕事として、ちゃんと霞沙羅がモデルをやっている。日本の軍人アイドルが商売に使えるとはこいつは狡い。
「こっちはカラバリとか模様もあって可愛いけど、それでも結構するのね」
「ちゃんと見ろよ、安いのもあるぞ」
探せば3万程度のものもある。これもどこかで見た人間がモデルになっている気がする。
「これ伽里奈じゃない?」
「そういえばそんなのやったね。霞沙羅さんの弟さんからセットを貰う代わりに、写真を使わせてくれって言われて」
知っているから男だと解るけれど、知らない人からしたら女子にしか見えない。
そしてよく見るとエリアスも混ざっている。
両方とも一年ほど前に撮ったものだ。
「エリアスが着ている方は欧米系の外人の目に止まって、そっち方面に売れてるな」
着ているのが背の高い銀髪の美人だからだ。
「伽里奈が着ているのは卒業式や成人式用に売れてるな」
最近は成人式や大学の卒業式だけでなく高校の卒業式に着る人もいるので、その需要に応えている。
「じゃあ伽里奈も持ってるのか?」
「2セット持ってるよー」
「ええー、いいなー」
男に向かって言う台詞では無いけれど、相手が伽里奈なら仕方が無い。商品紹介の写真の通り似合っているし。
「明日の講義には袴姿で行ってみるか」
「私とおそろいで良いのでありんす。それじゃそろそろルビィ殿の所に行こうじゃありませぬか」
* * *
今回は学院にはちゃんと正面の受付から中に入ることにした。
今後も来る事もあるだろうから、受付にちゃんと慣れて貰った方がいい。
勿論いつも通り、ラスタルの住民は吉祥院を見たことがないので、たまたま通りかかった住民も巻き込んで「巨人が来た!」と大騒ぎになったけれど、アリシアが連れてきているし、上から何となく聞いている人がいるので、受付は中に入れてくれた。
「都会だけあって今日が一番酷いでござる」
「この前は直接図書館に入りましたからねー」
馬車で通りかかった貴族に危うく近衛騎士団まで呼ばれるところだった。まあ呼ばれても、吉祥院と面識のあるランセル将軍が察してくれると思うけれど。
中に入って、来客との待ち合わせに使うようなロビーに座って待っていると、ルビィを先頭に、またタウ達上層部が数人くっついてきた。
「じゃあキッショウインさん、行こうじゃないカ」
ルビィは轟雷の杖を持ってきているのだが、今回は杖の性能を間に挟んでの魔力比べではなくて、お互いの純粋な魔力の放出での対決なので、実際には魔法の発動体のみしか使わない。
「それの調子はどうでありんすか?」
「うむ、滅茶苦茶いイ。日常生活では常時最低可動にしてあって、とても安全ダ」
「では移動することにしよう」
タウの短距離転移で、町の外にある、例の実験場にやってきた。ここなら大丈夫。
「おう、霞沙羅も言ってたけど、日本にはないファンタジーな景色だねえ」
町の外は今日ものんびりとした風景が広がっている。
王都だけあって町の守りは堅牢なので、普通は魔物も寄りつかない。ましてや山賊や盗賊なんてものもない。
時々何か勘違いをしたドラゴンが来る事はあるけれど、そういう時は学院から上位者の誰かが出て行って、一撃で終わらせてしまう。
旅人達もラスタルの城壁が見えるようになったら安心するくらいには安全だ。
「ではやろうじゃないか」
「おお、キッショウインさん、よろしくお願いすル」
アリシア達は安全のために2人から離れて、個人個人で余波を受けないための個人障壁を張った。
それを確認した2人は、いきなり魔力を放出して力比べを始めた。
魔法ではないけれど、攻撃性のある魔力のぶつかり合いに、空気が激しく揺れる。
かたや220センチに迫る巨体、かたや150センチくらいの小柄な体。体格の差は圧倒的だけれど、それでも2人の力は拮抗していて、互角に魔力のぶつけ合いを続ける。
「うわわわ」
「うおおっ」
実験場を中心とした嵐が巻き起こる。
最強クラスの魔術師が2人もいるので、先日の轟雷の杖を打ちまくった時の比ではない。
ルビィの単純な魔法の火力は大陸でもトップクラス。魔術の種類、知識、使い方に関してはずっと上の大賢者タウでも、単なるぶつかり合いでは押されるレベル。
「おーう、あの世界には数十億人がいるんだけどね、その中でもワタシの魔力を受け止められる人間は片手で数えるくらいしかいないんだよね」
「ヒルダやハルキスがそっちの英雄に執着するのも解ル」
これ、町は大丈夫かなと心配になるほどの轟音が大気を震わせている。
「ワタシらはある程度の規模の人数で戦ってたんだけどねー、やっぱり少人数の冒険者は違うね」
互いに押し合いへし合い状態になって、それでもどちらも引かない。ほぼほぼ2人の距離の真ん中で、つばぜりあいのような、魔力のぶつかり合いが続いている。
周りにいた鳥たちは逃げていき、遠くの街道を行く人達も、慌てて去って行こうとする。
そんな事を10分くらいやってるのでそろそろやめて欲しいな、と思っていると2人は止めた。
「ルビィ君の力が解ったよ。よしよし、これはワタシのライバルとして扱っていいね」
「うむ、張り合う相手としてはこれ以上ないナ」
二人は熱い握手を、サイズの差はあるけれど、ヒルダ達がやるような熱い握手を交わした。
「満足しました?」
「いやー、たまにやりたいね」
「ヒルダの気持ちが良くわかるゾ」
「モートレルでやる時は町の外でやりましょうねー」
タウ達も、吉祥院がただ大きいだけでなく、ルビィと同程度の能力があることが確認出来て、満足した。
「それでだね、アリシア君から聞いてるんだけど、御礼で一個魔法を教えておくよ。前に見せたけど、まだ教えてなかったよね? こっちで紙は貴重品らしいんだけど、それはそれとして飛ぶ物を準備して貰ってだね」
吉祥院は懐から和紙を取り出した。
「御先生方も聞いて欲しいんだけど、こっちには無い簡単な観測用魔法を教えておくよ」
例の、折り紙の飛行機を使った、簡易型のドローンだ。
これは基本的にある程度、滑空程度でいいので飛ぶ物が必要になる。
軽い飛行体に魔法で少々の推進力を与えて飛ばして、それを中継点として術者の意識を載せて、目の代わりに視るもの。
「あ、教えるの忘れてた」
「これはあの時、飛行船の周りを飛んでいたものカ」
「そうそう、ウチの国は昔から和紙っていう紙があってね、昔はこういう形じゃなかったんだけどね」
和紙で飛行機を作り、吉祥院はそれを飛ばした。
「魔力が乗れば雨の日でも水を吸収することはないよ。風にはちょっと弱いけどね」
紙飛行機はゆっくりと回って、吉祥院の手元に帰ってきた。
「こういうモノなんだけどね、覚えてみるかい?」
「お、おウ。なんか便利そうダ」
大きな魔法じゃないし、ルビィもタウ達も興味を示して教わることにした。
例えば城壁やお城の状態調査をする時に役に立ちそうだ。
魔術自体は、魔導士レベルにマスターしている吉祥院だから、ちゃんと地球側の魔法をアシルステラ向けにコンバートしてある。
まずは希望者に折り紙を渡して、紙飛行機の作り方を教える。
「じゃあ全員でやってみよう。ワタシの飛行機についてきておくれ」
それぞれが紙飛行機に魔術を刻み、吉祥院の言うとおりに飛ばす。
「おオ」
「おう」
【遠見】の魔法の応用だけれど、紙飛行機からの映像を意識で視つつ、なんとか飛行を制御し始めた。
全員揃ってなんか飛んでいるみたいな感覚に襲われた。
初体験とはいえ、言われたとおり、みんなで吉祥院の紙飛行機の後をついていって、5分ほど飛行して、飛行も安定した頃に戻ってきた。
「使えるようなら使ってね。この世界は空に邪魔なモノが無いからいいね」
日本だとビルとかマンションとか電線とかあったりするので、町中でやる時はちょっと気をつけないとダメだけれど、こっちの世界には無い。
「お、面白いナ」
「うむ、これなら習得しておいても悪くない」
「気に入ってくれたら嬉しいねえ。まあとりあえず練習用に紙は置いていくよ」
吉祥院はまた数十枚の折り紙を懐から出した。
「キッショウイン殿は、明日のカサラ殿の講義にも顔を出すのかな?」
折り紙を受け取って、タウは明日の事について確認を行ってきた。
「サポートで来てくれと言われているでござる。どうしたでありまするか?」
「いや、どこに座って貰えばいいのかと思いましてな」
「なんなら自分で椅子を持ってくるでやんす。日本でもよくあることだっぺ」
「そうして頂けると助かる」
吉祥院が座れる椅子は、学院にはソファーくらいしかなくて、講堂の椅子は机もセットになっているから体が入らない。
「そのぐらいで?」
「アリシア、お前も来るのだろう?」
「ボクも来ますよ」
「失礼のないように、来る前に色々と確認しておくのだぞ」
「はーい」
何を確認するのか解らないけれど、持ち物は確認しておこう。
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