次のお客様 -4-
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地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
シャーロット達が出掛けている間に館の仕事をやったり、魔工具の作成をしていると、榊が荷物を持ってやって来た。
もう裏の扉は榊の実家すぐ側に繋がっているので、さっき荷物を置きに来ると連絡があった。
今日はキャリーケースに服を入れて来たけれど、とりあえずクローゼットに収納することはなく、そのまま置いていくという。
「どのくらいの荷物を持ってくるんです?」
「いつまでになるかは決めていないが、しばらくの生活の拠点はこの館になるから、それなりには持ってくるが」
元々、時計やアクセサリーに凝っているわけでもなく、服にもこだわりは無い。オタクでも無く、車の趣味も無い。
音楽も最近はダウンロードかネットのサービスを利用しているから、それほどCDは持っていないし、音楽を聴くのはもっぱらスマホかPCであって、コンポなどは持っていない。
趣味で集めているものはそんなに無い。
「テレビはやどりぎ館のでいいんですよね?」
部屋用のテレビは据え置きの机に置くことを想定しているので、22インチの小型タイプだ。
「それで構わない。しかし新たにデッキを買いたいのだが、近くに家電量販店はあるかい?」
「あの番組を撮るんですか?」
ウキウキ常務はネットで見逃し配信をしているので、北海道での放送後すぐに最新の回を見ることが出来る。けれど撮りたい。
今までは霞沙羅に録画を頼んでいたけれど、北海道に引っ越ししてこれからは自分で録画出来るようになる。
自宅の家電は、仕事で実家に泊まることもあるだろうからと動かす気は無いようだ。
「大きいお店は何店舗かありますよ」
小樽駅前にも買えるお店はあるけれどあれは総合ディスカウントショップ。家電専門店となると小樽築港駅の方になってしまう。
「なんだったら通販で買うという手もありますよ」
「いや、散歩がてら走って行ってもいいと思ってね」
「そうですね…」
まあストイックな人だし、伽里奈も人の事が言えなくて、霞沙羅と魔術談義をしながら札幌や余市まで歩くこともあるからその気持ちは解る。
今後は近くには山も多いから、榊から「散歩に行こう」とか言われて、手稲山は当然として、気軽な感じで羊蹄山や樽前山に連れて行かれるかもしれない。
まあ山中でヒグマに出会っても、素手で首をはね飛ばせるので問題無いけれど。
「あら榊さん、いらっしゃい、というかお帰りなさい」
これからはここに住むのだから、そういう台詞になるのだろう。
「エリアス君のところのモデルだったか、あの番組の新アシスタントは」
「ええ、2人とも私の先輩ね」
「榊さんはMCの人が目当てなんじゃないでしたっけ?」
「そうなんだが、まあ画面が華やかになったなという感想だ」
恋人が霞沙羅だから、先輩モデル2人には全くなびく要素は無いけれど、やっぱり一視聴者からのただの感想だった。番組もモデル2人の色気で押す雰囲気は全く無いが、やっぱり画面が明るくなったのはいいと思う。
「ところで折角来たので買い物帰りにひとっ風呂浴びていってもいいかな?」
「ええ、もう入居者ですからね。ベッドはあるので泊まってもいいですよ?」
「今日は夜に人に会うから、温泉に入ったら適当に帰るとするよ」
「そうですか。じゃあタオルを出しますから、入る時に言って下さいね」
「ああ、助かる」
これで久しぶりに男風呂利用者が増えるのかー、と伽里奈はしみじみ思った。
「霞沙羅からヒルダ君とハルキス君といったか? 彼らの練習用武器を渡したと聞いたぞ」
「ええ、ヒルダの時にまともに斬り合うと壊れることが解りましたからね。それで打ち直しした分を渡してます。だからハルキスは榊さんとやれる日を楽しみにしてますよ」
「そうか。ならば気にせずやれるな。ところでもう一人、君のパーティーにはサーベル使いがいると聞いたが?」
「ライアですか? サーベル使いと言ってもライアは日本でいうところの忍者タイプですよ。身体能力は高いですけど、真正面から戦わないで、魔術を使っての牽制や立体的な移動を行います。広い場所だとボクほどでもないですけど、狭い場所だとすごく強いです」
「キミも知っているだろうが、というか以前にキミに同じ事をやられているから知っているだろうが、オレはそういう相手も興味がある」
ライアほどでは無いけれど、魔術の腕を使って伽里奈はライアの真似ごとが出来る。
勿論、伽里奈が冒険中に魔術を教えたわけだけれど、元々ライアは演劇の一環でとある魔術師に教わっていた事があったので、魔法学院を卒業出来るほどの魔術の腕前があった。
主に補助魔法や土や重力系の魔法を自分へ効果的に行使するので、戦場の条件によってはライアの戦闘力はぐんと上がる。
「ライアは榊さんを見たいようですけどね。剣の腕もあるでしょうけど、劇の脚本も書いてますから、登場人物の参考にでもしたいんでしょう」
「別の国に住んでいるけれど、呼ぶこと自体は、私やシスティーがいるから出来るわよ」
エリアスなら入国することなくライアを引っ張ってくることは出来る。
「そうか。それは楽しみだな」
それならば苦手の克服も出来るのかと榊は思った。これはいい滞在になりそうだ。
* * *
お向かいの家からまたラッキー君を連れてきて、購入するレコーダーの機種の絞り込みを済ませて入浴をした榊は帰っていき、少し早めに夕飯の下準備をしていると、シャーロット達が帰ってきた。
お土産用のチョコレートも買って、ガラス工房で小さなマスコットも買って、色々と観光をしてきたようだ。
「次に来た時はスノーパークか雪まつりに行きましょうね」
どこまで行っても雪が積もっている町にいるという事に弟妹達は終始ワクワクしていたようだ。
小樽らしい場所で楽しい写真もいっぱい撮ってきた。
「犬がいる」
「ネコちゃんとゴロゴロしてる」
「私が話をしてたのはあのコよ。日本の犬は可愛いでしょ」
真っ白で毛並みも丁度よく、大きすぎないサイズでシンプルな造形の北海道犬。こういうのはロンドンでは見かけることは無い。
「可愛い」
「わん」
「大人しいね」
ラッキー君はおっとりしているので、2人に素直にナデナデさせてくれた。ロンドンの自宅で犬を飼っているので、犬好きの匂いがしたのもあるだろう。2人のナデナデも上手かったので警戒することも無かった。
「別の家には茶色の柴わんこちゃんもいるんだけど、そのコはまた今度ね」
「うん」
勿論ラッキー君も可愛いので、2人はアマツも一緒にナデナデし始めた。
それを確認して、シャーロットは厨房にやって来た。
夕食まではまだ時間があるけれど、伽里奈がハンバーグ用のデミグラスソースとコーンポタージュスープを作っている。
ハンバーグの方はもう準備が終わっていて、冷蔵庫にしまわれている。あとは付け合わせのマッシュポテトとミックスベジタブルの用意が残されている。
そして今日はガーリックライスは無しで、白米かパンで食べて貰う。
「日本のお米はおいしいもの」
「まあそうだね。お米はこの国の執念が詰まってると思うよ」
いつの頃からか始まった品種改良の歴史の積み重ねだ。伽里奈がライス料理をフラム王国に広めたとしても、こんなお米が食べられるようになるのは数百年後かもしれない。
「まあシャーロットは2人についてあげててよ。久しぶりにお姉ちゃんに甘えられるんだから」
「はーい」
ハンバーグは絶対に覚えて帰りたい。ヨーロッパ発祥の料理ではあっても、伽里奈が作るハンバーグは美味しい。
そんな料理の手伝いをしたいけれど、今日はやめた。今日は自分が呼んだ弟妹というゲストがいる。
シャーロット達3人は、またちょっと庭で遊んだり、ラッキー君を家に帰したり、この一帯のイルミネーションを楽しんでいると、アンナマリーもフィーネも霞沙羅も帰ってきた。
それに合わせるように伽里奈はハンバーグを焼き始めて、今日は一人一人に鉄板のついたステーキ皿で出した。
「わー、おいしそう」
「こんなのお姉ちゃんだけ狡い」
子供達は嬉々としてジュージューと音を立てる熱々のハンバーグを食べ始めた。こういうのがレストランじゃなくて、家で食べられるというのが、シャーロットにとっても最初は衝撃だった。
上にかかっているデミグラスソースもいいけれど、ナイフで切ると肉汁があふれ出てくるのも、子供には衝撃だった。
「私も屋敷で甥のエリックに同じような文句を言われたぞ」
「あはは…」
「来た頃にはいろいろと言われていたが、そんなにシャーロットの家の飯はまずいのか?」
「そ、そこまでじゃないと思うんだけど、まあお国柄で地味かも」
最近家で料理を食べていないので感覚も変わってしまって、シャーロットも自信がない。
確かに料理を目当てに日本に来たけれど、この館に住んでだんだんおかしくなってきた。果たして家に帰れるのだろうか。
「料理は色々教えてあげるからね。とりあえずカレーとシチューといくつかのパスタは一人で作れるようにしようね」
「はーい」
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