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場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日や少し早めに起きてやどりぎ館の日常的な業務を終えたアリシアはというと、冬季休暇で空いた時間を使って記録盤の機能説明の為に、また学院にやって来た。
今日は撮影機能と出力上昇の話。
撮影機能はかなり有用性があると、天望の座だけでなく、上位魔術師達は期待を寄せている。
「では説明を始めますよ」
今回の改造には撮影の為のレンズになるものが必要になるから、一部外装に変更がいる。一方の出力のアップは魔術基板の改良だけでいいので、これはあまり手間がかからない。
撮影機能についてはまずは静止画から。動画になると記憶容量が足りないので、また今度だ。
やはりこの小さな記録盤だけで画像が残せるのが何よりも大きい。しかも既に上位者の持っている記録盤は空中投影が出来るようになっているので、研究発表や講義に活かすことが出来る。
「これはいいじゃないか」
レンズの為に小さいながらもクリスタルを取り付けないとダメだけれど、いい機能だ。
しかしこのレンズとなるクリスタルに施された、画像の色彩認識設定はかなり複雑な物。タウ達は早速他の道具にも転用出来ないか、頭の中で考えている。
出力アップは今の所恩恵は、小型のディスプレイの発生数が多くなるくらいしかないけれど、もうちょっと大人数に向けての説明が出来るようになるのだからバカには出来ない。
「どうだ、早めに出来そうか?」
「今回ばかりは少々時間を下さい」
さすがの設備担当も、今回は外装の変更もあるので時間がかかりそうだと言う。
「まずは早く取りかかるのだ。素材での相談があれば直接儂の所に来るとよい」
「はい」
いつも通り、とりあえずアリシアから提出された設計図を元に、単にコピーをするだけだが、設備担当者も自分が取り付けたいので今回もやる気満々だ。設計図を持って、さっさと研究室に行ってしまった。
「カサラ殿の方はどうだ?」
話は変わって、随分前に依頼された件で、魔術師向けの杖で講義をする予定があったけれど、その日が近づいている。
「レポートは出来たそうですよ。まだ最終確認中ですけど」
「おお、そうか」
内容は以前に持ってきた、機能が変わるギミックについてだ。ああいうのはこちらの世界には無い。そういうのは是非知りたい。
「吉祥院さんも聞きたいらしいですけど」
「あの大きな体の者か。宝物庫の件もあるから、今一度きちんとした挨拶をと思っておったところだ」
前回は急に来て、レラの目について調べて帰っていったので、天望の座の人間達も満足に挨拶が出来ていない。
「飛行船に乗りたいとも言っておったな。その日には飛行予定も無いので、ラスタル周辺をちょっと回るくらいでよければ乗って貰ってもよいぞ」
「そう伝えておきますね」
「それとお前への話だ。やはり冷凍箱は今のままで良いから購入したいという希望が、王を初めとしてこの学院に来ておる」
「あのままで売るんですか?」
「あれは今お前しか作れん。まずは10個を目処に作って欲しい。勿論材料はこちらで用意しよう」
「そうですか? まあボチボチ作りますよ」
そうなると納品後にはアイスクリームのレシピも教えないとダメなんだろう。
本当は今でも冷蔵箱の方が本命なのだが、まあ王族や貴族達を無視するわけにもいかないから、今後のいい関係の為にも優先順位を変えて作っておくことにしよう。
数日後には霞沙羅の講義でまた来るから、それまでに必要な材料を纏めてこよう。
それよりも中に仕込む金属の釜部分が、こちらの鍛冶屋に頼むとやや精度が低くて、結局アリシアの修正が必要になるので、その作業時間を見越して早めに発注しておこう。
ついでにヒルダの分も。
ライアはどうしようか? 劇場の為に絶対欲しいと言うだろうから、予備で頼んでおこう。
「それから料理の件も頼むぞ」
寮の件と、また他の料理が食べたいというお年寄りの我が儘の為。なんか頼まれてばっかりだなーと思うアリシアであった。
* * *
学院での用事を終えてやどりぎ館に帰ると、霞沙羅が食卓で日本酒をちびちびやっていた。システィーが館から出掛ける前に熱燗にして貰ったそうだけれど、見たことのない、金属製のぐい呑みと徳利で飲んでいた。
「自作ですか?」
霞沙羅ならこの程度のものを作るのは楽勝だろうと訊いてみたら
「…この前榊に貰ったんだよ」
意外な答えが返ってきた。
霞沙羅は肌の色が濃い目なので、見た目で酔っているのかのろけているのか顔色が解らないけれど、わざわざ貰い物で飲んでいるくらいだから後者の方だろう。
「長野で研修してただろ。有名な酒蔵があって、そこで売られていたんだとよ」
アリサが「榊から何もプレゼントを貰っていないのか」と気にしていたけれど、密かに貰っていたらしい。なかなか気が利く。
自分で目立つ物をやどりぎ館に持ち込んでおいて、やや不機嫌そうな感じで飲んでいるけれど、何のことは無い。照れているだけだ。
急に乙女な面を見せる霞沙羅をこれ以上刺激しないように、エリアスも遠巻きに眺めている。
聖誕祭にかこつけた、男から女へのプレゼントにしては地味で実用的すぎるけれど、こういう毎日使えるような物の方が霞沙羅にはいいのかもしれない。
榊らしい無骨さの現れでもあるが、案外成功かもしれない。いや、ちゃんと霞沙羅の性格が解っているのだろう。
それとフィーネは今日もあのマフラーを首に巻いて占いに出掛けていった。去年もあげた気がするけれど、やはり今年は反応が違う。でも折角作ったのだから、去年も貰ったことを思い出してそっちも使って欲しいところだ。
「そうそう霞沙羅さん、タウ様が講義のことを気にしてましたよ」
「なんだ、テキストならもう終わってるぞ。あとで印刷するから製本を手伝え」
「ええ、いいですけど」
「ところで何を着ていけばいいんだ?」
「変なモノでなければ何でもいいと思いますよ。外部からの正式な講義だからって正装とかないですし、ついてくる吉祥院さんもいつも通りでしょう?」
「あの服は高いんだがなあ」
布が多いからではなく、そもそも布が高い。着物に属するから、値段だけ高いその辺の有名ブランド品も裸足で逃げ出すクオリティ。
「いつもの戦闘服でいいんじゃないですか? あれは評判いいですよ」
「まあそうしておくか。それからヒルダとハルキス用の練習品が出来たから持って行ってやってくれ。ガレージに置いてある」
「そうですか。じゃあハルキスにも連絡しておきます。榊さんが来たら急に呼ぶぞって」
「そ、そうだな」
何の気なしに言った「榊」の名前に少し反応した霞沙羅だった。プレゼントを貰ったことをやっぱり気にしている。だったら自宅の方で飲めばいいのに。
それはともかく、折角練習用品が出来たみたいなので、夕飯の準備前にモートレルに行ってこよう。
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