聖誕祭とお客様 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
聖誕祭となる翌日は朝食を終えて、出勤組が家を出て行ったすぐあとに、純凪さん親子がやって来た。
管理人時代に日本で買ったスキー用品はヤマノワタイに持っていったので、それをそのまま持って来た。
スキー場が通常営業していることも確認して、モガミとアリサはスキー場に向かっていった。
そして館に残されたエナホ君は、早速フィーネの膝の上に陣取ってまだまだなかなか上手く伝えられない自分の近況を一生懸命に語り始めた。
「あのね、それでね」
「友達も出来ておるようじゃのう」
「ラッキー君を連れてきたわよ」
エリアスが犬を一匹連れて帰ってきた。
ラッキー君は館のお向かいの家で飼われている北海道犬。
雪が無ければちょくちょく散歩に行くアマツの友達でもあり、当然この家にいた頃のエナホの友達でもある。よちよち歩きの頃からお向かいさん家の庭で遊んだ仲だ。
ラッキーもエナホがいる事を確認すると、尻尾を振ってご機嫌な様子でやって来た。
「らっきー」
「ワン」
「お、久しぶりに犬と遊ぶがよい」
「あ、お向かいのワンちゃん」
お向かいにいるんだから知り合いだよねと、シャーロットも納得した。
ラッキーは柴犬に似た、白くて可愛い北海道犬なので、明後日に来る自分の弟妹にも是非紹介したいところだ。
「小童の親はスキーを楽しみに出掛けてしまったが、お主はお主で久しぶりの館を楽しむとよい」
管理人の交代前には、夫婦だけでヤマノワタイに帰って復帰の調整をしていた事も頻繁にあったから、エナホはこの館で他の入居者と一緒に留守番をするのも慣れている。何よりもおむつ替えまでしてくれたフィーネもいるし、大好きなラッキーもいる。
「にゃーん」
「ねこたん」
朝食後にキャットタワーでウトウトしていたアマツも側にやってきて、エナホを歓迎してくれた。
「では異国の小娘よ、我だけに相手をさせずに、この小童を頼むぞ」
「はーい」
口調は悪いけれど、フィーネが世話係の仲間になれというので、シャーロットはフィーネの側に座った。
「雪で遊ばせたいですよね」
「そうじゃな」
庭の雪は全然余裕がある。子供一人がどんなに遊んだって無くなるモノじゃない。
* * *
「こんな乱暴な食べ物があるのね」
お昼ご飯はそばめし。
まだ食器をそこまで器用に扱えないであろうエナホ君向けに、スプーンだけでも完結出来る料理にした。
あとはスープ代わりに肉吸い、とやけに関西風なランチに仕上がった。
「焼きそばにご飯を混ぜるなんて衝撃」
細かく刻んだ麵とご飯とキャベツや豚肉等の具材をソースで炒めたモノ。
麵を売っているお店を見つければ、これならロンドンでも出来そうだ。
「この変なスープも悪くないわ」
「肉うどんからうどんを抜いたものじゃよ」
ソース味の食べ物は世の子供も大好き。だからエナホも美味しそうにモリモリ食べている。
「ヤマノワタイって世界はどういう世界なんです?」
「あの大地は、今いるこの日本の互換ともいえる文化がずっと広がっている星じゃよ」
「な、なにそれ?」
「多少は違うのじゃが、説明するとなるとそれが一番良い表現じゃ。あの純凪の夫婦がこのやどりぎ館を紹介されたのも、文化に互換性があったからなのじゃ。先々代の管理人が母国の事情で急に辞めることになってのう、それでここに抜擢されたのよ。文明レベルでは向こうの方が、いわゆる未来なのじゃがな」
「そうなのね。じゃあエナホ君はヤマノワタイに帰っても文化のギャップが少なくていいわね」
だったら水瀬カナタと船形アオイもこの日本では社会に馴染んじゃってるんだろうなー、と伽里奈は思った。
「おいちかった」
昼食を終えたエナホは朝からはしゃいでいたので眠くなって、同じく食事を終えたラッキー君とアマツとで仲良くお昼寝を始めた。
「シャーロットは何時頃にケーキを渡しに行くんだっけ?」
「夕方の5時頃よ」
「じゃあ今回も紙の箱を用意してるから、それに入れようねー」
無地の箱だけれど、ケーキ屋さんで出てくるような組み立て式の箱を用意してある。お皿に載せてのラップがけだと何かに当たって形も崩れてしまうかもしれないから、ちゃんと保護しておいた方がいい。
弟妹達からもケーキに期待しているメールが届いたので、今日はお姉ちゃんからのいいプレゼントになるだろう。
「エナホ君が起きるまではレポート作りね。ところで次回で良いんだけど、雪で遊べる場所ってあるの? スキーじゃなくて」
「スキー場の下にスノーパークっていうエリアが出来るから、そこでソリとかに乗って遊べるのよ」
エリアスが去年のパンフレットをシャーロットに見せてあげた。
お値段的にもお安くて。基本的にはソリのレンタル代だけで、子供ならお手軽に遊ぶことが出来る。
「そ、そうなの」
「雪の状況にもよるけど、次に来る時にはあると思うわよ」
それはスキー場のHPを調べておけばいい。
「異国の小娘よ、あのかまくらは遊びで破損しても構わぬぞ。我がちょちょいと直せばよいだけじゃからな」
「はい」
「崩して怪我だけはせぬようにな」
やっぱりフィーネさんていい人だなとシャーロットは改めて思った。
* * *
こちらもランチの時間になったアンナマリーの方はというと、今日のお弁当のおまけにはサツマイモを使ったアップルパイが入っていた。
昨晩はケーキを作っていたハズなのに、いつの間に作っていたのだろうか。この国の英雄様は相変わらず器用なものである。
これまで何回か作って貰っているけれど、ただのアップルパイとは違う。リンゴだけでは出せないリッチな甘さのハーモニーとボリュームでオリビアやサーヤ達女性陣に人気のデザートだ。
食べる前にこの上に置いてね、とアリシアに渡された札を机の上に敷き、ちょっと魔力を与えたそこにステンレスの容器を置いておくと、中のアップルパイが温かくなってきた。
これは今回初めてのギミックだ。
「冷やすだけじゃなく温めるのか。アリシア様はやるな」
焼きたてというわけにはいかないけれど、ほのかに温かくなってきたパイは、バターの香りも出てきているし、これは実にいい。
周囲は豚肉のチーズステーキを食べているけれど、香りは負けていない。
「そういえば、個人戦用のゴーレムの実験をさせて欲しいと言っていました」
「ご、ゴーレムは個人戦ではキツくない?」
だから訓練では集団戦でやっているのに、アリシア製のゴーレムと一人で戦うとなると、やる前から負けは必至だ。
「向こうで魔術師見習いの学生相手にやってるみたいなので、本当に弱いらしいです」
「そ、そうなのか? ゴーレムだぞ?」
ルビィには敵わないにしても、アリシアも高位の魔術師。ゴーレムは作り手によって強さも変化するという。
訓練用のゴーレムでも平然と怪我人が出るのに、どれだけ弱いのが出来上がるのだろうか。
そんな事を話していると、バターの香りを嗅ぎ付けてヒルダがやって来た。
「またアーちゃんが何か持たせてくれたの?」
「お芋入りのアップルパイなんですけど、今日はこの札のギミックがありまして、温めてる最中なんです」
「料理を冷やしたり温めたり、アーちゃんはこだわりがすごいわね」
でもこの前持ってきた、温めたままの箱は興味がある。
それはともかく、間違いなくヒルダが食べる事を想定されている分のパイがあるので、貰う事にした。
「いつも通り、このアップルパイは美味しいわね」
芋がいい。アップルパイだけれど、芋の甘みも感じられるし、リンゴとパイ生地だけのサクッとした軽い感じだけじゃ無い、ホクホクした食感が追加されているのがいい。
そして温かくなったので、バターの香りが強く感じる。
これまでは冷えていたけれど、今日は口に入れたあと、バターの香りが鼻を抜けてくるので、よりリッチな感じがする。まるごと一個、たっぷり食べたい。
「これも良いけどゴーレムの話をしていなかった?」
「そう、アリシア様から個人用の弱めのゴーレムで戦ってくれないかって言われているんですよ」
「いいじゃない、騎士を名乗るならゴーレムくらい倒せないと」
ヒルダならいつものゴーレムでもパンチ一発で粉々に出来るだろうけれど、アンナマリー達にはそんな余裕は無い。
「アーちゃんは冒険中に、見た目に大部隊を装うような、何の戦闘力も無いゴーレムを大量に作ったりしてたのよ」
「そんな使い方があるんですか?」
「盗賊団に襲われてる村で、村の警護を大人数でやってるように見せかけて、盗賊がその対策会議をしている間に、私達がアジトを襲撃して全滅させるとかしたわ」
「じゃあ本当に弱いゴーレムが作れるんですね?」
「その時のは私が掴んだだけでバラバラになっちゃたわ」
ヒルダの基準で楽勝話をされても怪しいところだけれど、本当に弱いのは作れそうだ。
それなら一度見せて貰ってもいいかなとオリビアも思った。
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