聖誕祭とお客様 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
さて、ここから数日のやどりぎ館の予定といえば、明日の朝には純凪さん3人が家族でやって来ての一泊が控えている。
そこから一日空いて、シャーロットの弟妹が一泊でやって来る。
それと日にちは聞いていないけれど、榊が年明けの引越の準備として、小物類や衣類をとりあえず持ってきたり、こっちで買い物をしたりと年明けから生活環境作りをすると言っていた。
実際にもう榊の実家側に裏口ドアが繋がったので、こういう事も可能になった。
伽里奈は学院や実家に行く予定もあるので、なかなか忙しい年末になりそうだ。
「ケーキはもう作るのね?」
「そうだね。夕食前から準備をするよー」
ケーキは一日冷蔵庫に置いておくことにする。
明日の夕飯は朝から下ごしらえが必要なので、先に作っておかないと間に合わない。
「シャーロットにはまずチョコソースを作ってもらうからね」
「その時間になったら呼んでよ」
シャーロットもやる気満々だ。
折角手伝うのだからとロンドンの実家へのお裾分け分も作る予定だ。
「その前にお昼ご飯を作らないとねー」
今日はアンナマリーがお休みの日だから、平日でもその分も量も多い。
「折角早く帰れたんだし、明るいうちにかまくらの中でお茶でも飲みたいわ」
「暖かくしてやってね」
今日は晴れているからかまくらの中は案外暖かいけれど、実際は案外寒いので油断しないで欲しい。
遅れてエリアスも帰ってきて、昼食も終えて、アンナマリーとシャーロットはかまくらでお茶をしにいって、伽里奈は明日の夕食の為の買い出しをしなければいけない。
買い物に行く前に、明日の料理と材料と在庫の確認をして、いつもと違って料理も多いのでメモを取って、手伝いたいと言うエリアスを連れて近くのスーパーにやってきた。
「純凪さん達は明日の朝から来るのよね」
「向こうで朝ご飯を食べてからみたいだけど、あのスキー場は早く終わっちゃうからねー」
なので、早めに来て、終了時間まで目一杯滑るそうだ。
数日前に吹雪に近い一日があったので、遠目にもゲレンデには雪がかなり積もったように見えたから結構楽しめると思う。
「モガミさんとアリサさんはスキー場に行くとして、エナホ君はやどりぎ館で預かるって事でいいのよね?」
「フィーネさんが朝からずっといるし、シャーロットも相手をしてくれるみたいだから」
「私も久しぶりに遊んであげるわよ」
エナホが赤ちゃんの頃から付き合いのあるネコのアマツも一緒に寝るくらい仲が良いので、久しぶりに丸一日遊んで欲しいし、お向かいの犬も借りてきてあげたい。
「だからあなたとシスティーは気にせず料理を作ってね」
「はーい」
まあ夕食の前に昼食を用意しなければいけないけど、エナホ君のことも考え無いといけない。
* * *
「この天津飯という食べ物は、オムライスとは違うのか?」
今日の夕飯は天津飯を中心とした中華料理。
本場には存在しない、日本発祥の天津飯を中華料理と呼んでいいのかは解らないけれど、とにかく中華料理。なぜなら町中華だからだ。
しかしアンナマリーには見分けがつかない。
「まあその、材料もちょっと違うし、卵の上にかかってるモノも違うし、中のお米も違うし」
「食べると大夫違うのだが、フラム王国で出したら見分けがつかないだろうな」
オムライスも見た目については、ケチャップだけだったりカレーとかシチューとかをかける事もあるから、そうなってしまうとほぼ同じだ。
オムライスも洋食とはいいながらも、日本発祥の食べ物だし、そう考えると両方とも和食と言ってもいい。
「アンナは時々鋭いことを言うのね」
「こちらの常識に縛られておらぬのだろう。じゃがそれが真実を言い当てることもある」
だからといって、これはこれで好きだ。
「そういえばオムライスは屋敷でも作れると思うのだが」
「ケチャップはもう作れるけど、ライス料理だよ。オムスパの方が馴染みもあるかなー」
ご飯の代わりにスパゲティーを使うのなら、普通に出来てしまう。
「そんなのあるの? 日本人て卵で料理を包むの好きね」
「オムそばってのもあるぜ。焼きそばのオムライス風だな」
「この世界にはやけに料理があるな。この館に来てもう三ヶ月になるが、カレーもしょっちゅう味が違うし」
「なら明日の夜は色々食えるぜ。腹を空かして安全に帰ってこいよ」
「解ってます」
明日のこの食卓はどういう事になるのだろうか、とアンナマリーは期待している。
なんか厨房の方から、何かが焼かれている甘い匂いが漂ってくるから、あの丸太みたいなケーキも作っているのが解って、なんかワクワクする。
「王様から各領主に連絡が来てると思うけど、魔族もフラム王国に移動してるかもしれないから気をつけてね」
「お、おう」
「ヒルダに喧嘩を売ればワンパンだろうがな」
そういう意味では、何の対策も立てずにパスカール領に攻めてくることはないだろう。
今日も美味しい夕食が終わると、ブッシュドノエル作りが再開された。
スポンジは二つ作った。一つはやどりぎ館で食べるから、人数も多いので大きい。
もう一つはシャーロットの家で食べるので普通サイズ。
スポンジを冷ましている間に、ロールにするスポンジに挟むチョコソースと表面に塗る生クリームを作った。
それから丸太のデコレーション用の落ち葉を模したチョコレートも沢山作って、そちらは今、冷蔵庫で冷やされている。
「うう、私結構やれてる」
「あとはロールケーキを作って、デコレーションするから」
ロールにするのは伽里奈がやるとして、デコレーションはシャーロットが行う。
生クリームの表面にフォークで筋を書いたり、ココアパウダーをまぶしたり、上手いこと落ち葉型のチョコレートを配置したり、案外やることはある。
シャーロットはまさか家族の聖誕祭用のケーキを自分の手で作る日が来るとは思ってもみなかった。
これまでは聖誕祭だからといって、ロンドンの実家の食卓にはお国柄そこまでパーティーのような料理が並ぶようなことは無いけれど、ケーキは食べていた。
でもそのケーキは近くのお店で買ってきたもの。近所でも評判のお店なので悪くはないけれど、手作りっていうのがいい。
「シャーロットさんが来てからまだ二ヶ月も経っていませんが、大分変わりましたね」
横で食器を片づけているシスティーも話に入ってきた。
「だってここの料理、美味しいんだもん」
「それで調理にまで手を出すというのは面白いですね」
チョコを溶かすのに普通は湯煎をするけれど、ボールそのものを適温に温め続けるといった、魔力調整のトレーニングもしつつ、今日もシャーロットはちゃんとやってくれた。
「留学の結果以外にも、色々な料理を自宅に持ち帰れるといいですね」
「システィーのスープカレーもいつか教えてね」
「ええいいですよ。あれならイギリスでも作れますしね。スープさえ作る事が出来れば具材は自由ですから」
じきにスポンジは冷めて、ロールケーキを作り、丸太っぽいデコレーションを終えた。
「おおー、出来たわ」
「上手く飾り付けが出来ましたね」
作業の多くは伽里奈ではあるけれど、前回のショートケーキよりはシャーロットが手を入れたところは多い。自宅用のブッシュドノエルは満足出来るレベルで出来上がった。
その見た目はシャーロットが見てもへなちょこではなく、木の筋も上手く刻めているし。綺麗にココアパウダーも蒔かれているし、落ち葉のチョコもいい配置だ。
少しずつ参加する作業が増えて、結果が伴うと自信もついてくる。だから、出来ちゃった、と画像をつけてママにメールを送った。
「明日、向こうで朝食後くらいの時間に持って行くわ」
「そうだね。じゃあ冷蔵庫で保管しておこうか」
「やっぱりこの家の分は大きいわね」
「10人分だからねー」
といってもホールストン家の方も6人分なので小さいとは言えない。だから出来上がった満足感もひとしお。
「ママから返信が来たわ」
スマホには早速メールの返信が来た。
「ホントにあなたがそれを作ったの?」だったので、「そうよ、一人じゃ無いけど」と家に持って行く時間も書いて返信しておいた。
「まだ13才だけど、こんな聖誕祭は始めて」
「よかったねー」
ケーキを手作りするような聖誕祭なんて今まで無かった。
魔術では天才少女と呼ばれているけれど、料理にいたってはずぶの素人の自分が、やどりぎ館に来てからまだ二ヶ月もしてないのに、ケーキのソース作りから飾り作り、そしてデコレーションまでする事になるとは思わなかった。
自分では出来ない新しい事を学ぶのも面白いなと改めて思うシャーロットだった。
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