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年末進行に向けて -4-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

「芋や人参を切断するあの小さな魔法は面白いが、他に切るモノは無いのカ?」


 フライドポテトもポテトチップも毎日食べるわけでもないし、毎日皮のある野菜を食べるわけでもない。折角の魔法も案外使う機会が少ないのだ。


「じゃあこの前、王宮の晩餐会で評判の良かったラスクでも作る? 食パンとかバゲットをスライスして作るんだけど」


 パンは主食なので毎日どこかで食べるだろう。ラスクはそんなに食べないと思うけれど、お酒のお供にも、軽いおやつにも使えるから、野菜にパンを加えれば魔法を使う機会も増えるだろう。


「そもそもアーちゃんは何で小さな魔法を推してくるんダ? 弱いゴーレムの話もしていたし」

「あのー、ボクって冒険中にあんまり魔力を使わないようにしてたじゃん?」

「アーちゃんは必ず何があっても逃げられるようにしてたナ。冒険中に相手の陽動に引っかかって、本命から距離を離された時に転移したこともあっタ」


 その話は冒険譚的にあと少しで出てくるエピソードだ。


 結構大規模だった陽動要員を殲滅した時に「本命はあっちだ」としたり顔で言われたので、あっさりと全員を連れて帰ってしまった。転移する時に見た、したり顔が絶望に変わった瞬間は見ていて実に痛快だった。


「霞沙羅さんも魔力の無駄遣いが多くて、今教えてる所なんだ。あのさあ、ボクらって強いじゃん?」

「まあ、自覚はあるゾ」

「霞沙羅さんが時々口にしてるTRPGっていう、向こうの世界のテーブルゲームがあってね、それを例えに使って説明するけど」


 アリシアはやった事は無いけれど、霞沙羅の持っているルールブックを見せて貰ったり、ゲーム機でゲームもやった事もある。


「プレイヤーがキャラクターを作って、ルールに沿って、ゲームの進行役のマスターさんが作った物語を完結させる遊びなんだけど、キャラクターとして人間の性能を数字で表現するんだ。どのくらいダメージを貰ったら死ぬかとか、どのくらい魔力があるか、どのくらい腕力があるかとか、そういうのが全部数字で管理されてるの」


 アリシアは撮影しておいたキャラクターシートをデバイスで空中投影する。


「例えばこの火球って魔法を使う。それには基本威力と消耗する魔力が設定されていて、倒すべき敵に設定された生命力を0以下にする必要がある」

「人の能力を数字にするとか面白い概念だナ」

「現実的にはあり得ないけど、ルールとして設定するのには良いかなって思うよ。それで、敵の生命力が10点だとして、こっちの攻撃力が20点、消耗する魔力が4だとする。でも攻撃力は半分の10でいいでしょ? 魔力も2とかで済む。敵はこの先にまだいるかもしれないし、この後も何が起きるか解らない。まさにボクらがこれで、ルーちゃんも自分がやり過ぎだって解ってると思う。ただの盗賊相手にボクらの魔法はどんなに小さなモノであっても威力が大きすぎて無駄遣い。勿論ルーちゃんだって多少は手加減出来るけど、魔術の威力はある程度一定。それを明確に意識して制御して、消耗を減らしたいの」

「私にはそれをやらせたいんだナ?」


 だからアリシアが改良して威力を抑えた魔法を参考に、日々調整する事を習慣にさせたい。


 やや極端な威力ではあるけれど。


でもこういう考えを明確に持っている魔術師は少ない。皆、知識や技術を研鑽して、より高度で大きな魔法を使うことを命題としているからだ。


「ゴーレムはどうなんダ?」

「ゴーレムは半分はこの調整用だねー。半分はまだまだ弱い生徒向けに、一つのミッションを達成させるっていう勉強の一環なんだけど、教える側は、生徒を見て丁度いい具合に壊れるゴーレムを毎回デザインする。そこでも調整を学んで欲しいんだー」


 確かに冒険中にアリシアが作った、食料を冷蔵、もしくは冷凍する魔法は結局ルビィにも賢者達も使えなかった。


 食材の大きさや気温、それから何時間保たせるのかをアリシアは考えて、毎日違う調整をしていた事が後で解った。


 そのくらいアリシアは冒険中から魔力の制御に力を注いできたのだ。だからアリシアはいつも「何かあった時の為」に魔力を残したまま旅が出来た。


 必要最低限を見極めていたわけだ。


「最初は精神的に疲れちゃうけどねー。霞沙羅さんもちょっと前にそこの所を失敗しちゃって、ボクが手伝ったくらいだから」

「あの人が失敗したのカ。むむ、興味が沸いたゾ」

「魔術師として上を目指すところはボクはルーちゃんの力になれないから、その辺は賢者様達とか吉祥院さんと話し合うとかしてねー」

「そんな事は無いと思うんだガ。とりあえず早く家に帰って、何とか言うパンを作ろうじゃ無いカ」


  * * *


 馴染みのお店だというパンを幾つか購入してルビィの屋敷にやって来た。


 屋敷にはいつも通り、住み込みのリューネが部屋の清掃をしていた。


「リューネ、新しい食べ物を作るぞ」

「そんな大したモノじゃないのにー」


パンをルビィに魔法で切ってもらって、それをオーブンとフライパンで焼く。そこに砂糖かガーリックバターを塗るだけ。


 料理が出来ないルビィに切ってもらうモノを提供しているだけなので、こうもなってしまう。


 そして折角パンを使うのならと、イリーナの所に教えたパンを使ったグラタンも教えた。


「フライパンとオーブンの両方でやったけど、ラスクはフライパンで作った方が簡単かもね」

「このガーリックバターが気に入ったゾ。匂いも食欲をそそル」


 ラスクは用途もあるのでガーリックバターと砂糖をまぶした二種類を教えた。


 パンも食パンとバゲットの両方。スライスするかスティックにするかは、食べる人の好みに任せることにする。


「野菜に比べると細かく切るわけじゃないんだが、パンはふにゃふにゃしてて切りにくいナ」

「実際、切る為の包丁も別物だからね。こういう調整もあるんだよ。あとパンの種類によっても違うから、微調整してね」


 ラスクは美味しいし、グラタンも美味しい。これが食べられるのなら、アリシアからの宿題を続けるのも悪くない。


 折角野菜に慣れたのに、パン相手にまた調整がいるとか確かに集中力が必要なので、精神的にくるものがあるけれど、これもまた魔術師としての鍛錬でもある。


「ゴーレムはどうするんダ?」

「誰か、顔見知りの先生の授業に乱入するしかないかなー。ある程度魔法を使える子達がいるクラスに」


 学院に復帰したとはいえ、自分の研究ばかりで何もやっていないアリシアは、霞沙羅や吉祥院の後ろ盾もあって教育や設備に関与している小樽校と違って、教員としての立場は無い。


 ヒルダの騎士団で、主にアンナマリー達団員を相手に集団戦闘訓練用ゴーレムは試せるけれど、学生には無理。普通に作るとゴーレムは若い生徒が束になっても倒せない。


 ルビィに魔法の調整能力をつける為の試みなのに、このままでは見せる機会が無い。


「ルーちゃんはどういう生徒に教えてるの?」

「まあ、将来的に魔導士や王宮魔術師になる優秀な生徒向けダ」


 それはそれでいいけれど、調整の訓練用なのでなるべく弱い相手に使う事に意味がある。


「まあ、学生時代に世話になった先生に声をかけておくゾ」

「そう? お願いねー」


 なら何とかなるかな、と回答を待つしか無い。


「あの、アリシア様。前回教えていただいた料理なんですが、実家から声がかかってホテルの方にも教えてしまったのですが」

「別にいいと思うけど、あのホテルで出せるようなそんなにいい料理あった?」

「クリームコロッケとリゾットとペペロンチーノです」

「人気あるの?」

「評判ですよ。あのペペロンチーノが意外と、あのシンプルな見た目で美味しいと」

「そうなの? それは良かった」

「次は、アーちゃんがタウ様達に振る舞ったというハンバーグがいイ。あとあの、飛行船で帰る時に食べた、なんかパンにお肉を挟んでチーズがかかってるやつが」

「二個目のやつは、お肉があれば簡単に出来るけど。あとリゾットって、あれだけじゃないからね。いろいろ種類があるからね」

「だったら早くもって来て欲しいゾ」

「そうだねー、学校の休み期間を使って、いつもより多めに来ようと思うよ」


 とりあえず次はハンバーグとサンド系を教えに来る事を決めて、屋敷を後にした。


  * * *


 12月ももう僅かになってきた数日後、小樽校ではとうとう二学期の終業式が行われて、冬季休暇が始まった。雪深い北海道はこの冬季休暇が、他の地域に比べて一週間ほど長い。


それならゆっくり出来るかというとそんなはずも無く、魔法術科の生徒達には当然のように課題が出る。けれどさすがに実習系はなく、簡単なレポート。


 まだ一年生といえど、任意の属性の任意の魔法について二つほど、その有用性や有効な場面について、独自の考察を行いなさいという事。


 休暇といっても遊んでばかりはいられない。


「半分以上が実家に帰るんだね」


 小樽校の主な生徒は北海道から東北、上越から来ている。それに北海道出身といってもバカみたいに広いから、寮や下宿住まいが多い。


 中瀬と早藤のような小樽出身だの、実家通いが出来る札幌や余市のような近隣に住んでいる生徒は全体から見れば少数派。


 終業式が終わったら、そのまま小樽駅から函館や旭川、釧路方面などに帰っていく生徒もいる。


 帰省する多くの生徒が今晩発のフェリーや、明日の飛行機や鉄道で帰っていく。


 夏休みは普通科だったから、他県どころか道南や道北から来るような生徒はそんなに多くはいなかったので、伽里奈にとっては、クラスメイトがこんなに一気に移動するのは初めての感覚だ。


 魔法学院なら、余程近くの町から来ていなければ、就学中に実家に帰るなんてあり得なかった。実家がいい家で、馬車で迎えに来てくれるような子は少なかったし、有名な魔術師の家系なら家族が転移で迎えに来てくれるとかはもっと少ない。


「シャーロットはどうするの?」


 というクラスメイトからの無邪気な質問に関しては


「レポートの件もあるからパパが転移で迎えに来て、数日ロンドンにいるくらいなの」


 儀式が必要となるけれど、高位の魔術師であればロンドンと北海道の転移は実際に可能だ。


 そうなると「さすがホールストン家」となって生徒達も納得してしまう。


 実際に年始には二、三日ロンドンに帰るので嘘ではない。移動手段が嘘なだけだ。


 まさか下宿のドアを開けて実家に帰る、とは言えない。


「それでも数日なんだ。短いけど実家でゆっくりしてきてね」

「うん。そっちも福島県? ゆっくりしてきてね」


 福島出身の子は陸路で帰るそうだ。函館というか北斗市まで行って新幹線に乗り換え。


 生徒達はそれぞれ、冬はどうするのかの情報を交換して、皆ソワソワしていた今日の学校はお昼を待つこと無く、さっさと終了して、みんなそれぞれの場所に向かっていった。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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