年末進行に向けて -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
霞沙羅の意見が通って、バングルから回収した、幻想獣を圧縮した石がどういうモノなのか、今後の犯罪に使われる可能性を考慮した実験が行われる事になった。
その開放実験について、霞沙羅と吉祥院からの推薦で伽里奈も立ち会うことになった。
場所は横須賀基地。その一角に、カメラとセンサーを設置して、その中央で幻想獣を開放するというもの。
そして開放の様子を撮影したら、幻想獣は速やかに殲滅する。
この実験の趣旨は「どのように幻想獣を運んで、現場で開放するのか」だ。
アシルステラにも持ち込まれているので、またどこかで使われる時のために、伽里奈も見ておきたい。
「さすがに石に圧縮する方法までは解らなかったが、最終的にはどうなるかってのを見ておきたいからな」
「まあそうですよねー」
石については軍と警察のそれぞれで鑑定した結果のすりあわせを行ったそうだけれど、吉祥院の鑑定結果以上のものは見つからず、とりあえず確定となった。
軍・警察・寺院庁の関係者が揃い、幻想獣対策部門の兵達が取り囲み、開放実験となった。
開放は簡単。伽里奈が施した結界を解除して、ある程度高く投げて石に衝撃を与えればいい。それだけ。
鳥か何かにかっさらわれないか警戒しながら、霞沙羅が石を放り投げると、地面に落ちたところでまばゆく光り、そこから妙なドラゴンが現れた。
「あ、あれ」
これは霞沙羅にも画像を渡した、ギランドルの近くに現れた、地球製の偽ドラゴンだ。
「お、いきなり当たりかよ」
4本の足に背中には翼という、アシルステラのドラゴンではない、腕が一対多い偽物。
「よし、もう処分していいぞ」
全長全幅十数メートルと意外と大きなこの幻想獣は。日本というか東洋では発生が稀なので、囲んでいた兵達は一瞬怯んだけれど、教育資料を通して頭の片隅にある幻想獣だと思い出して、処分の命令によって、一斉に攻撃が行われ、間もなく幻想獣は灰になった。
「あんなのが横浜市内で暴れていたらと考えるとゾッとしますね」
残りの石全部がこの偽ドラゴンかどうかは今の所は解らないけれど、一体混ざっているだけでも幻想獣の幼態の中でも強力な部類なので、あれによる被害は大きかっただろう。
これで確定した。この石がザクスン王国に持ち込まれている。
ここに集まった3人以外は何者かの脅威について、今後の対策をと意気込んでいる。勿論それは当然で、カナタとアオイの2人がこれを供給した例は日本でも2回目。人間の手で、ちょっとした衝撃吸収型の鞄にでも入れて幻想獣を移動させる事があるだろう。
これを察知する方法を確立させるのは急務だ。
「あのレラの目を埋め込めば、本来はマリネイラの力で動いている幻想獣を、その動力源を変える事が出来るのかもしれないな」
ギランドルの周辺でかなり長時間活動をしていた偽ドラゴンの灰の中から、例の金属のレラの目が出てきているから、そうかもしれない。
そもそもレラの目には、装着した魔獣なりの強化をする機能もあるから、強化出来ないにせよ、活動用の動力を供給に使えるのかもしれない。
それは地球では検証が出来ないから、アシルステラでやるしかない。ただ、今の所現物がフラム王国には無いので難しい。
「お前、いい収穫になったな」
「そんな感じです」
とりあえず学院に相談して、ザクスンの学院で何か発見出来ていないかの繋ぎを付けて貰うしか無いだろう。
* * *
エルナークという、元はザクスン王国の王都サイアンにある魔法学院出身の魔術師が実は魔族であったと、人相書きを含めた情報がフラム王国に届いていたので、アリシアが学院に行くと、そんな事を伝えてくれた。
「国の方も魔族の警戒中じゃ」
「学生時代から魔獣の研究をテーマにやってた人なんですね」
レポートなんかもサイアンの魔法学院に残されているけれど、生態に関しての観察記のようなモノだそうだ。その為に冒険者としてラシーン大陸を旅した時期もあるとの事で、なかなか熱心な人だったのだろう。それがどういういきさつか、魔族に喰われたか何かで、姿を利用されて人間の魔術師になりすましていたという見解だ。
「どれだけの数かは解りませんけど、霞沙羅さんが戦っている幻想獣という、地球産の魔獣を持ち歩いているようです」
アリシアが見たのは偽ドラゴン。それとプリシラ王女の口から出たのは、すすきのに出てきたワニみたいな幻想獣。
「魔物とか魔獣ではないですから、幾つかメジャーな幻想獣の情報を纏めてきましたよ」
アシルステラで幻想獣の情報は一切無いので、生態や姿を含めたデータを纏めて印刷してきた。
「あとこれですね」
石がどういう物かの情報も持って来た。
「こんな小さなモノがこんな大きな化け物になるのか」
「どうやって作ったのカは解っていませんが、地面に投げるとか、ある程度の衝撃を与えるとこれのどれかになります」
先日の横須賀基地での実験映像も見せ、集まったタウ他賢者達も登場から処分までの一連の流れを確認させて貰った。
「霞沙羅さん達はあっさり倒してますけど、これのための準備をしてましたからね。あと、これはマリネイラっていう神様の作った存在なんですけど、世界を越えて届かない動力を補う為にレラの目がついているのではないかと思われます。現物が無いので推定ですけど」
「これも先日お前が情報を持ってきた2人組の仕業か? まさかこんな魔物をこんなに小さくしてしまえると考えると、かなりの腕前だな」
実際、アシルステラの魔術にはゴブリンだのオークだのを生きたままこんなに小さくして、持ち運びするような技術は無い。そう考えるとかなりの物だ。
ただ、魔工具や魔術で洗脳して引き連れたり、転送することは出来る。
「アーちゃんよ、あの晩はみんな混乱していたし、アーちゃん自体がモートレルにいたから気にしていないと思うガ」
ルビィが口を開いた。
「ひょっとして占領事件の日の事?」
「そうそウ。王者の錫杖が動いている時に、ラスタルは大量の魔物だの魔獣に襲われていたのだが、その2人組は残党の裏にいたと考えると、急に魔物と魔獣が湧き出したのは同じ技術によるモノでは無いのだろうカ? 引き連れたり転移でどうにか出来る数では無かった」
あの晩はモートレルの方に頭が行ってたから、妨害かなとは思いながら規模は確認していなかった。
「その、幻想獣、とかいうのはいなかったが」
「数的にはどのくらいいたの?」
「100はくだらない数だゾ」
近衛騎士団と学院の魔術師、それと冒険者を使って駆除するにも一晩かかった。
「そんな状況だったんだ」
だからあの時はルビィが一人増援にい行こうとするにしてもちょっと相談が必要だった。
今となってはどうやってラスタル周辺に蒔いたのか解らないけれど、関わっている人物がわかると、関連性が生じてくる。
「じゃあ逆があるって事?」
「そう考えておくのがいいんじゃないのカ? こっちの世界限定かもしれないガ」
これについてはそういう可能性もあると霞沙羅に伝えておこう。
幻想獣と魔獣は生命体かどうかという点で違いがあると思うのだけれど、何かしら関連性のある技術があったのかもしれない。。
今回持って来た情報については、学院の上から、エルナーク関連の情報のお返しとして連絡して貰う事にした。
「ところでアリシアよ、次の記録盤の説明を早めにして欲しいのだが」
「この前の機能は問題無かったんですか?」
「もう既に、儂を入れて数名が取り付けておるが、何の問題も無く学院の機材と繋がるぞ」
「そうですか、じゃあボクは向こうで通ってる学校がしばらく休みになるので、早めに来ますよ」
「お前の話を聞いていると、向こうの社会は休みが多いのう」
「向こうもこんな時代だった頃は同じだったみたいですけど。とりあえず年末年始というやつです」
一応こちらの世界も別の日に年末年始はあるけれど、学校や一部のお店は休んで数日程度。でも食堂や宿屋、勿論ギルドや騎士団に休みは無い。これは地球側でも類似の業界も同じか。社会インフラに休みは無い。
「館の管理があるので泊まりがけでは来ませんけど、ある程度時間は作りやすくなりますよ」
「そうかそうか」
「あとですね、機能の中でカードの話をしたと思うんですけど、今さっきの映像は霞沙羅さんの複製品で撮った映像を、ボクの記録盤にカードを挿して移動させてます」
「な、なるほど」
前にカードの意味について問われたので、ここで説明をしておいた。確かに次の撮影機能に対しては便利そうだ。
「じゃあまた連絡しますね」
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