インターバル -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
その日、霞沙羅はやどりぎ館に帰ることは無く、横須賀基地で一晩を過ごす事になった。
軍が空地家に返さないと決めた幻想獣のパーツをバングルが奪取する事から守る為だ。
手に入った2つのパーツをどうするのかについては、今や首都機能の中心地である横浜を擁する事になった神奈川にいつまでも置いておくにはあまりにも危険なので、処分方法は上層部で早急に決めると言われている。
「使いの連中が追い返されたわけだけれど。空地家からの抗議は来ていないでござるよ」
さすがは吉祥院。中佐という、軍の序列では上層部というわけではない地位だけれど、政府ですらおいそれと手が出せない立場だけあって、情報は入ってくる。
魔術師の頂点なだけあって、魔術的な議題となると一族には相談しなければならない事もある。幻想獣のパーツをどうするかという話ともなれば当然で、現在は父親と祖父母が大臣に呼ばれて会議中だ。
「決まったら連絡はするし、立ち会って貰うのは確定してるっちゃね」
「やっぱやんのか?」
「一番安全な対策でげしょう?」
強大な幻想獣完成態を5つに分けたウチの2つならば、開放したとしてもそう大した能力にはならない。所詮は5個が揃ってようやく本来の力を取り戻すのだ。しかもどの程度進行していたかは知らないけれど、浄化は行っていたので、さすがに封印した数十年前よりは力は落ちているハズだ。
空地家としてもいずれは自分達の手で消滅させるために弱体化処理を行っていたのだから、5個のウチ2個を処分しても文句は言うまい。
とにかく相手の手口として、どうやってパーツの封印場所を発見しているのかが解らないのだから、別の場所に埋めたとしてもまた掘り返される可能性はある。
それによって引き起こされる大災害を考えれば、今、厄災戦を終結させた英雄が三人揃っている状態でやってしまった方がいい。
「出来ればアリシア君にも来て欲しいでやんす。バングルの件もあるので、あくまで軍主体でやりつつ、冒険者の感性で警戒して欲しいでござるね。いざという時の対応まではまかせないでありんす」
「何も無ければいいが、あいつの勘は頼っておいた方がいいか」
危機管理能力というか、冒険者時代に培った警戒能力は霞沙羅から見てもかなりの物。
使い魔にされていたカモメも、観光エリアで観光中だというのに目ざとく発見して処置するような行動は見習いたい。一緒にいたシャーロットを守るという考えが働いていたのだろうけれど。
そこに部屋の内線が鳴った。
「あーい、中佐でやんす」
「中佐、県警の魔獣課の刑事2名が、本日の事件について渡したい物があるという事で来ております」
「む、解ったよ、場所を教えてちょ」
霞沙羅と共に案内された部屋に行くと、刑事の人間が2名待っていた。
「吉祥院様、依頼されていた物をお持ちしました」
刑事の2人が鍵のかかる小箱から出したのは、大きめなサイコロくらいの四角い物体。
例のカモメがくわえていたという、伽里奈からは圧縮された幻想獣だと説明された物体だ。
今回の事件はその規模から警察の案件だったので、一旦はそのまま警察が事件の捜査のために持っていったのだけれど、複数個同じ物が手に入ったので、吉祥院家のルートから2つだけわけて貰う事にした。
物が物なだけに、解析するにも危険が伴うからと、吉祥院からの依頼には喜んで応じてくれた。
当然、研究用として譲って貰ったので、その解析結果は警察にも渡すと約束してある。
「しかしながらすごい少年でしたね。バングルの人間を取り押さえた腕前もそうですが、パトカーごと転移をさせたり、これにかけられている結界も見事な出来です」
「霞沙羅の右腕でありんすよ。ワタシも結構頼りにしているだっぺ」
「結局一個も動き出さなかったのか?」
結界自体はそれなりの腕前であれば解除出来るようにされている。結界の防御力と解除難易度の塩梅が良いのだ。
「一切の被害は無く、全て無傷のまま回収しました。我々の方でも簡単に確認しましたが、やはり幻想獣です。何かの衝撃で開放の術式が起動して、圧縮された幻想獣となるようです。危なくて実際にやってはいませんが」
「こっちの処分方法も考えないといかんようでげすな」
まだ仲間の逆襲への警戒はしているけれど、恐らくもう終わった事だとは思われている。ただ、一応数日間は警戒を続けるという。
「指名手配の女は処理したしな」
人間から幻想獣へと変わり果ててしまったので最終的には灰になってしまったけれど、稲葉清美の撃破については、霞沙羅も例の指輪でもって映像を残してあり、警察にも提供している。
「もともとそこまで大きな組織ではなく、その幹部の一人がいなくなったのです。しばらくは行動を起こすことは無いでしょう」
「逮捕した2名は普通の人間でした」
半人半幻想獣と化した人間もそんなにいないだろうから、戦力も大幅ダウンといった所か。
「依頼の物は確かにお渡ししましたので、我々はこれで撤収します」
「ああ、ありがとう。関係者の方々にもよろしく言っておいてくだしゃんせ。結果は必ず届けるから、少々待って欲しいでござる」
用事を終えて刑事2人は署に帰っていった。
「よくこれに気が付いたな。大学襲撃の時に、側にエリアスがいたにせよ警戒してたらしいしな。それで覚えていたんだろう」
「あっちの世界にも誰かが持ち込んでるんだっぺ? そう考えるとこれの可能性もあるだっちゃ」
この石の解析は、二つのパーツの処分が終わってからだろう。霞沙羅が拾った槍と腕輪もあるし、一旦横須賀基地の所定の場所に保管することにした。
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