返すわけにはいかない -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「桜音君から電話とはねえ」
調査隊は単体の幻想獣に遭遇しながらも、順調に旗の台に近づいている。そんな所に、吉祥院のスマホに着信があった。発信元は空地家の桜音だった。
「おうおう、そろそろ泣き言か?」
霞沙羅が茶化している中、吉祥院は通話を始めた。
「桜音君じゃないか、一体何の用だい?」
「すみません千年世さん、力を貸して貰えませんか?」
「パーツの一つが狙われてるね?」
「…はい」
「軍からも、大臣からも正式に抗議をさせるよ。それでどこだい? 神奈川の近くだね?」
それを聞いて霞沙羅は舌打ちをした。
結局これかよ、といった感じ。
「千葉の市原市にある高滝湖です。周辺で該当の不審者の姿を捉えたので、追跡しています」
「千葉の南かい? まああそこは千葉っていってもかなり田舎だから隠すのに良さそうだけどね。霞沙羅、行くかい?」
「しょうがねえだろ」
「詳しい場所を教えてよ」
2人とも旧23区で何か起きてもいいように、本気の武器を持ってきている。半人半幻想獣であろうとも相手にはならない。
「吉祥院中佐、赤レンガ倉庫近くで幻想獣が発生したようです。数も少ないので警察の範疇ですが」
「とりあえず、モニター出来るか?」
吉祥院はまだ電話中なので、霞沙羅が反応した。
「はい」
オペレーターは首都防衛のために、軍の仕掛けたカメラの幾つかをモニターに出した。
「警報装置は、いつものタイムラグか?」
川崎にいるから横浜の警報は鳴らないながらも、どこで事件が起きているかは検索出来る。でもまだ更新されていない。
だからといってモニターに映ったライブカメラ映像のどこにも幻想獣の姿は無いし、逃げ惑う人の姿も無く、普通の日常が映し出されている。
ただ、赤煉瓦倉庫を向いている一台のカメラに、見知った人間が映っている。
「なんだ、私に着信か?」
発信元は今日も横浜にいる伽里奈だったので出た。
「吉祥院さんに電話したんですけどね、通話中だったんで霞沙羅さんにしました」
「何の用だ。こっちはトラブルだ」
「そうですか、じゃあ管轄の警察を呼んでいるのでそっちに任せます」
その連絡に端を発して注意警報が流れているのだろうか。
「まてまて、何の用件だ?」
ライブカメラで見えているんだから、なんで何も起きていないのか説明して貰わないと困る。
「赤煉瓦倉庫前にいるんですけど、幻想獣をばらまこうとした人を捕まえました」
「なんだよ、画面には何も映ってねえぞ」
「見えてるんですか? 監視カメラかな? あの、カモメを使って、持ち運び用に加工した幻想獣なんですけど、3匹くらいどこかに蒔く予定だったみたいです」
画面の中の伽里奈は地面に転がっている人を指さしている。カメラ設置場所の関係でズームをしてもやや映像が遠いので見えにくいけれど、誰かが施設の警備員に道具で拘束されている最中だ。
「なんだ、こっちはこっちで」
千葉に行く必要があるのだけれど、なぜ横浜でも事件が起きているのか。
小規模だから伽里奈は管轄となる警察に連絡をしたようだけれど、気になる。
伽里奈は単にその持ち運び用幻想獣の件で連絡してくれただけだろう。それはそれで充分妙なことを言っているから聞いてこよう。
「横浜でもなんか起きてるみたいだけど、ワタシは先に千葉に行ってくるよ」
「私は一旦伽里奈に合流するよ。すぐいく」
吉祥院は高滝湖に飛び、霞沙羅はみなとみらいに飛んだ。
* * *
「こんな場所を狙ったってさー」
近くの道は結構車通りは多いし、そこそこ観光客の姿もあるけれど、割と場所も開けているし、幻想獣を暴れさせて楽しいのはこっちじゃない気がする。やるなら桜木町駅前とか関内とか元町とか伊勢佐木町とか、そっちの方が被害が出る。
何かを待っていたようだけれど、誰かを狙っていたような感じでも無いし。
「おう、何があった」
霞沙羅が転移してやって来た。
「魔術をかけられたカモメがいたので、使役魔法を解除したらくわえていたこの石を落としていったから、そしたらこの人が襲ってきたから返り討ちにしたんです」
「確かに魔術師だな」
「なんか特徴的な腕輪してて、発動体だったので外しました」
その辺はいつも通り抜かりない。もう冒険者をやめて4年近く経つのに、魔術師を無力化するという基本を忘れていないところは、部下達にも徹底させたい所だ。
霞沙羅は伽里奈から、結界で封印された石の一つを渡された。
「うお、何だこれは」
TRPGサークルのメンバーの一人くらいはウケ狙いで持っていそうな、大きなダイスくらいの形をしているけれど、この塊は幼態の幻想獣だ。正体は解らないけれど、こんなに小さくなるのかと驚いた。
「製法は解りませんけどね、大学襲撃事件に落ちてきた石と多分同じかなって思います」
「そういやあの時は何か落ちてきたな」
あれかー、とまさかこんな所で拾うことになるとは思わなかった。という事はまた例の二人が絡んでいるのか?
「シャーロットは?」
「念のためにエリアスを呼んで、あそこにいます」
これから警察も来るだろうからと、シャーロットは少し離れて貰っている。
「なんでこんなつまんない所にいたんですかね? しかも3体だけばら撒くとか。幻想獣もそんなに強そうじゃ無いですよね」
「今なんだがな…」
霞沙羅は小声で伽里奈に対して、千葉に封印してある幻想獣のパーツが奪われようとしている事が伝えられた。
「行った方がいいんじゃないですか? 吉祥院さんが相手ですけど、この機会に確実に捕まえるか何かしないと」
「警察が来たら私と吉祥院の名前を出していい」
「はーい」
とりあえず幻想獣の石を伽里奈に返して、霞沙羅は高滝湖に飛んだ。
その後、少し待っていると警察がやって来て、警備員から男が引き渡された。
「これは…」
「どうしたんですか?」
警官の一人が、犯人の持ち物として伽里奈から渡された腕輪を見て何かを理解したようだった。
「関東には金星の虜の集団の一つにバングルというのがある」
「金星の虜」はマリネイラの裏の顔を信じる人間達の通称だ。
「バングルだから腕輪してるんですかね」
「そのようだ。いや、しかし助かった。この危険な石は一旦警察が預かろう。我々も検証が必要だが吉祥院中佐にも研究用に渡さなければならないからな」
今の所この事件は警察のテリトリーなので、伽里奈は石を3つ、警官に渡した。これで終わりかなと思っていると
「伽里奈、それと同じ反応が後一カ所残っているわ」
エリアスが横浜周辺を見ていてくれたようで、話が終わった所で伝えてくれた。
「え、どこ?」
「八景島の方ね」
「同じ市内でも大夫離れてるなあ、何でそんな所に? あのすみません、もう一件ありそうなので行ってきますね」
「え、ああ、いや、吉祥院中佐の指示があっても、勝手に動かれては困る」
警察のメンツが、というよりも伽里奈は正規の軍人ではない。それが一人で勝手に動かれても困る。
「じゃあ皆で転移しましょう。担当エリアが違うかもしれませんけど。エリアスはシャーロットをお願いね」
「解ったわ」
伽里奈は2台の警察車両と共に、影ではエリアスに座標調整をして貰いつつ、八景島に飛んだ。
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