返すわけにはいかない -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日はみなとみらい地区で商業施設を回ったり、買い物をしたりといった観光をすることにした。
「遊園地があるけど、それはいいわ」
「こっちの人はよく海を埋め立てるなんて考えるよねー。そりゃあボクらの方でも港を作るために多少は埋め立てはするけどね、でも形を整える程度だよ」
小樽の倉庫街も埋め立てだけれど、ここは規模が違う。神戸もそうだった。150年前までは浜だったと聞いているけれど、広大な陸地に変わってしまって、港だけでなくて高いビルやイベント会場やホテルに妙なミュージアム、そして工場も建っている。
どれだけ埋め立てたんだろうか。
「アンナの話しを聞いてるけど、一度くらいはその、アシルステラってところの、王都ラスタルって所を見てみたいわ。あとお屋敷とか。貴族ってどんな生活をしているのかしら」
シャーロットだって異世界に興味が出てきている。先日来たダンディーなアンナパパが騎士団を率いているみたいだし、文明的にはかつてのヨーロッパと同じだというし、本物の騎士がどういう物だったのかを感じてみたい。
行く度に霞沙羅が写真を撮ってくるので、映画のセットやCGじゃない、現役時代の中世の町並みとはどんな物だったのだろうか、と最近は考えることがある。
「街の外に出なければ、戦争をしてるわけじゃ無いし、ボクもエリアスもいるから安全だよ。いつか行こうね」
観光をしていると昨日は行かなかった赤煉瓦倉庫までやってきた。今はイベントをやっているわけではないので、周辺はやや寂しげだ。
倉庫として使われていた末期の時期はその廃墟じみた怪しい雰囲気から特撮番組のロケ地として有名だったそうだけれど、今は綺麗に整備されてさっぱりとしてしまい、倉庫の建物には飲食店が入ったりと、すっかりオシャレな観光地になった。
「上手く再利用してるって感じね」
周辺は新しい建物が建っているけれど、昨日はロープウェイから見たけれど、所々に鉄道の跡だったり古い建物が絶妙に混在している。
「海が近いからカモメも多いし、あれ、伽里奈、何してるの?」
3羽固まって建物の段差に腰を下ろしていたカモメに、伽里奈が手を伸ばしている。
「なるほどー、こんなことしてたんだねー。{解呪}」
カモメにかかっていた、一時的に使い魔にするための{遠隔支配}の魔法を解除すると、口にくわえていた四角い石のような物をペッと吐き出すようにして飛び立っていった。
伽里奈はその石を3つとも回収すると、すぐに小さな結界で封印処理をした。
「何それ?」
「ちょっとごめんねー」
伽里奈はシャーロットをちょっと抱いて、軽く10メートルほど跳ぶと、今いた場所を風の刃が薙いだ。
「結界、やっといて。すぐ終わらせるよ」
「は、はい」
伽里奈からの指示で、シャーロットはすぐに自分を守る結界を張った。
「いやー、何をやるつもりだったのかなー。あのカモメ、嫌なモノ持ってたよね」
伽里奈に魔法を回避されたことで、一人の男が倉庫の屋根から降りてきた。
男はダウンジャケットのフード部分を深めに被っていて、顔を見えないようにしている。歳は30才にはいってないくらい。
でも伽里奈がちょっと腕を振るうと、発生した風でフードが外れた。
「やっぱり男だから知らない人だね。でも良くない物を持っているから、ここの警察に引き渡すね」
「{龍昇風}」
伽里奈の言葉に返すこともなく、男はいわゆる竜巻の魔術を仕掛けるが、伽里奈は足下から発生しようとした竜巻を軽く踏みつけて消去した。
「なんだとっ!」
こんな弱そうな見た目をした伽里奈に、そんな強引なやり方で魔法を潰されて、男はここで始めて警戒して、一歩後ずさった。
「こっちも{龍昇風}」
伽里奈も同じ魔法で返した。ただし威力が段違いで、男の足下に発生した強烈な渦巻き状の上昇気流は、回避しようとした男の体を捕らえて吸い込み、高速回転させながら上空に飛ばした。
そして落ちてきたその男を蹴って、横に吹っ飛ばした。
「伽里奈、何があったの?」
間違いなく戦いが終わったのを見て、シャーロットは結界を解除して伽里奈の側に来た。
「んー、幻想獣をね、カモメを使ってまこうとしてたんだー」
伽里奈はまだ生きている男を魔力の輪で拘束した。
「この石みたいなのなんだけど、加工方法は解らないけど幻想獣を灰にして圧縮してるね。衝撃を与えると圧縮が解けて実体を取り戻す感じ」
大きさはサイコロのキャラメルの外箱くらい。元になっている幻想獣のサイズは解らないけれど、よくここまで圧縮出来るものだ。
「そんなモノを良く見つけたわね」
「なんかねー、シャーロットが来る前に、小樽校であった襲撃事件で、同じような魔術反応を感じた事があったから」
あの時は校舎の中にいたから直接見ることは出来無かった。ただ、あの時に痕跡が残らなかった理由が解った。これそのものが幻想獣だから、再び元の形に戻ったら何も残る物はない。
「な、何があったんですか?」
警備員も今の魔法を見て、やって来た。
「ボクはこういう者なんですが」
今さっき貰ったばかりの魔術協会のランクカードと、札幌駐屯地の軍関係者であるカードを出した。
「幻想獣をばら撒こうとする人がいまして、あそこの彼に襲われたので無力化して拘束しました。警察を呼んで下さい」
「は、はい」
警備員達は警備室に連絡をして、幻想獣の件で警察を呼ぶように連絡を取り始めた。
「ボクは吉祥院中佐に連絡をします」
折角横浜まで観光に来たというのに、また事件だ。とはいえ今回はそれほど大きな事件ではないような気がする。
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