返すわけにはいかない -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
川崎の新丸子観測所では朝から旧23区調査のための準備が進められていた。
「結局今も動いてないのかい?」
昨日、あの改良した感知器を持たせた無人機を東京上空で飛ばしてみたら、羽田の辺りから旗の台があった付近まで移動してきた幻想獣の反応があり、それは一晩明けた今でも止まったままになっている。
「霞沙羅がつけたカメラ機能と無人機の飛行ルートで観測出来たよ」
「あいつの感知器に撮影機能があったからな」
単にマップを鏡に転写する為につけた撮影機能を、霞沙羅が弄って動画を残せるように改造した。
「誰かが運んで来てるけど、反応が大きめだねえ。ただの幻想獣とは思えない」
「旧23区にわざわざ入り込んだ奴がいるのか?」
「そっちからも幻想獣の反応があったんだよ。置いたのかな? そしたらいなくなっちゃったけどね」
この件で霞沙羅は吉祥院から呼び出されて、川崎までやって来ている。
「何を運んだのか気にならないかい?」
そもそも軍であってもなかなか手を出せない旧23区内、それもより都心部に近い場所に幻想獣が何かを置いたということは、大体ろくでもないはずだ。
それをやったのは間違いなくそれなりの知能を持った、成長態以上の幻想獣の仕業だろう。
「吉祥院中佐、準備が整いましたので、これから出発致します」
「ああ、まあまあ中の方だから気をつけてね。危ないと思ったら迷わずすぐに戻るように」
「はっ!」
旧23区内は休止状態の幻想獣が多数いて、それは探知魔法も、もちろん探知機にも引っかからない。近づくと動き出す可能性が高いので、ある程度進まないと解らない。
今は完成態のような超強力な幻想獣はいないけれど、場所によっては数が多い場合がある。
今回の調査隊の隊長は吉祥院と霞沙羅に敬礼をすると、下で待つ隊員の所に向かっていった。
「じゃあモニターを頼むよ」
「はい」
無人機も飛ばしてちゃんと上からにサポートをするので、オペレーターに観測するように指示をして、吉祥院は霞沙羅を小さな部屋に引っ張っていった。
「おい、なんだよ。そういや榊は呼んでないんだな」
「榊は魔術が苦手だからね」
「まあそうか」
「それでだねえ、空地家がなんか隠してるみたいでさ。色々とね、色々とさ、やってみたわけだよ」
空地家と同じで、吉祥院家にも専用の魔術集団がいる。それは当然、寺院庁にも忍ばせているわけで。
「アリシア君が守ったパーツはまだ埋めてないみたいなんだけど、別のが盗られたみたいでね。また人が死んでるし、これで20人以上だし、あそこも慌ててるみたいだよ」
「で、あの置いてったのがそれじゃないかって推理してるわけか?」
「持ってきた奴の反応がねえ、それと置いていったのもそうだしね。あの箱ってワタシも触ったことが無いんだけど、アリシア君は触っちゃって、すぐに中身がヤバいのが解るくらいの物らしいじゃん?」
「そんな事言ってたなあ」
「東京はある意味安心じゃん? 半幻想獣だとしたら仲間扱いされて襲われることは無いだろうしね」
個人か仲間がいるかは解らないけれど、あそこに置かれたらなかなか見つけにくい。
「あの家は、ウチらの上には相談してないのか?」
「さあねえ」
「今の所はてめえらの所にしか被害が出てないが…」
それにしてもここに来て急に封印場所がバレ始めているのが気になる。空地家内部に内通者がいることも考慮しないとダメかもしれない。
「アリシア君に権限を与えてもいいような気がするけどね」
伽里奈には、巻き込まれた場合は人間に対して反撃をしてもいいとは言っている。
「いやーやめておけ。あいつは容赦が無いぞ。あいつ自身こっちでは気をつけてるしな」
大学襲撃の時も、霞沙羅に妙な問題が生じないかとか、周囲の目があったから捕縛の方に考え向いただけで、やっている事は結構容赦が無い。
「世界の違いですかな。とりあえず調査隊が何を持って帰ってくるのか結果を待とうじゃないか」
* * *
学校巡りが3日目となる今日は横浜校の校長から紹介があった教師の解説で、実技テストを離れた所から見せて貰う事になった。
生徒の人数も多いから大変だよなー、と小樽校の感覚で見ていたら、テストを行う場所も広いので、特に問題も無く時間通りに試験は進んでいる。
「B組が新鮮ね」
高校入学ながら優秀な生徒を集めた1年B組の生徒はさすがにC組から先の生徒よりも一歩進んで、もう初級の魔法を使っている。術的には大した事は無いけれど、やはり練習用魔法とは威力が違う。
「特待生はやっぱりすごいね」
飛び級をするような、まだ13才のシャーロットと比べてはいけないけれど、一人一人に教師がついて、実技テストが行われている。
「人数は少ないですが、その分集中的に勉強が出来ますから、一般生徒に比べると伸びますね」
「霞沙羅はどうだったのかしら」
「私は当時警官だったので、実際に見たわけではないのですが、成長も技術も技量も魔力も、他の特待生と比べても桁違いだったそうですよ。学生の間に鍛冶というか、魔工具などの製作を極めてしまいましたからね。当時は刀匠の職人が新城さんのために教えに来たくらいですから」
「すごいんですね」
「魔術の腕はそれは千年世様が上ですが、とにかく器用だったと聞いています」
「まあ、一緒にいて器用な人だと思いますけど」
魔術レベルでは伽里奈とほぼ互角でも、道具と武器の作成は天望の座の賢者達が感心するレベルだし、18才で厄災戦を終わらせる為に自分達専用の魔装具を自作しているのだから、器用の一言では済まない気がする。
「今日もありがとうございました」
午前中いっぱい、上級生も含めて実技テストを見学させて貰った。
特待生はレポートのネタにならないけれど、一応は記録しておいた。シャーロットがいずれ教育者の立場になった時に、使えるかもしれないから。
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