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いつか帰るその日まで -5-

 食事会の時の料理を気に入ったヒルダの相談にのって、騎士団用食堂のメニューで相談を受ける機会が出来たので、町を歩く回数も増えてきてしまった。


アリシア時代にも何度も来た町だけれど、細かいところまでは知らないから、打ち合わせ後は時間を取って町を見て歩く事にした。一応住民という事になっているのだから、町の地図くらいは覚えておかなければならない。


「私も細かくは解っていないが、どの区画にどういうのがあるかくらいは解っているぞ」


 伽里奈の事情を汲んでアンナマリーは町の案内を買って出てくれた。自分がきっかけでヒルダとの繋がりが出来てしまったので、しばらくはこの町への出入りが発生してしまう。不自然さを少しでも無くす為の協力はしないといけない。


「ところでアンナの部屋って寂しくない? 入居してからそれなりになるけど、最初と殆ど変わってないみたいだよ」


 元々所持品も少なかったけれど、増えたのは何着かの服だけだ。ベッド関係は結局そのままだし、自分向けのカスタマイズは行っていない。


 寮の修繕はもうすぐ終わると聞いたけれど、居心地がいいのでこのままやどりぎ館にいることを決めた。そろそろ自分の好みを反映してもいい頃だと思う。


「ところで、またアンナって言ったな」

「いいじゃん、キャンプの時散々言ったでしょ」

「ダメだ、男はフルネーム」

「えー、なんでさ」

「なんでもだ」

「もー、しょうがないな」


 他の人にはお嬢ちゃんだの、貴族の小娘だのと言われているのにそれは気にならないのか。それともあの2人が怖いので諦めているのか、伽里奈にだけ厳しい。


「ぬいぐるみとか持ってこなかったの?」

「なくすと嫌だったし」

「そうなんだ。じゃあボクが作ったのでよかったら持っていく? 作っても部屋に貯まっていくからクラスの子にあげたりしてるんだー」

「お前が?」


 アンナマリーにはお気に入りのネコのぬいぐるみがあったのだが、それは家に置いてきた。


 持って来れば良かったかなと思ったけれど、狭い寮住まいが解っていたからやめた。


 でも館での生活に慣れた頃から、なんか寂しいなと思ってしまっている自分がいる。そろそろ鎧と剣が置かれているだけの寂しい部屋から卒業したい。


「じゃあ帰ったらな」

「うん、いいよ」


 隙あらば手を握ってこようとする馴れ馴れしい伽里奈と話をしながら歩いていたら、劇場の前にやって来た。


 芸術関係には弱いモートレルにも、住民達の数少ない楽しみの為にと、移動演劇団の受け入れをしている施設が存在する。


 そして先日から散々露店で宣伝していた劇団が遂にやって来て、今は荷馬車から劇場内へ荷物を運んでいる最中だ。


「アンナマリーはこの劇団知ってるんだっけ?」

「王都にいた頃に何度か見た事がある。庶民向けの劇団だが、英雄の話をやるようになってから貴族にもファンが増えて、今は客層を時間分けして公演している」


 貴族には平民と同じ空間で演劇を見たくないという人がいるから、入場者を区別しているという話だ。元々平民向けの大衆演劇団に貴族のお客が食い付いてきたという事だから、配慮を強いられているのだろう。貴族のワガママに応えなければならないとは、劇団も大変だ。


「女優さんの事で喧嘩になるくらい、いいのかなあ」

「アリシア様役の子だったら、私も解るぞ。ヒルダ様達から見たらどうなのか解らないが、私はよくやっていると思う。ああ、あの子だ」


役者とはいえ劇団員の一人だから、大の大人が喧嘩をするような女優も他メンバーと一緒に馬車から荷物運びを手伝っていた。


 この劇団のファンは多いようで、露店も含めて色々なお店にポスターが貼ってあるくらいに歓迎されていた。だから力自慢の住民も喜んでボランティアを申し出て、積み下ろしを手伝っているように見える。


 ー当時のボクに上手く寄せてるなー。


アリシア役の女の子は、背丈は今の伽里奈より少し低いくらいで、ボーイッシュで中性的な外見を持っているし、当時の髪の長さもあんな感じだった。今は普段着なのにアリシア本人が感心するくらいだから、大衆向けの劇団なりにちゃんと研究しているのが解る。


「おお、この前のお嬢ちゃんか」


 先日の酔っぱらいの1人がやって来た。今日は酔っていない。


「様子を見に来たんですか?」

「いや、オレはボランティアでセットの組み立てをしに来たんだ。大工だからさ」

「楽しみにしてましたもんね」

「あんときのもう1人は予定が合わなくて悔しがってたぜ。じゃあ行くわ」


 あれからは2人でいい交流が出来ていればいいけれど。


 こんな感じに、モートレルみたいな賑やかな町に住んでいたって娯楽はあまり無い。路上や飲みの場で吟遊詩人が来ただけでも盛り上がるのだから、劇団が到着すればそれだけで一つのイベントになってしまう。


「今日はここまでにしておくか」

「そうだねー」

「そうだ、お前魔法使えるだろ」

「まあ、あの舘の管理人だし、そこそこね」

「ちょっと相談がある」


  * * *



読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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