いざ神戸校と横浜校へ -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
小樽校では期末テストが始まる日。伽里奈とシャーロットと霞沙羅は朝から国立神戸魔術大学付属高校、通称神戸校に向かった。
神戸校でも今日から期末テストなので、授業風景を見ることは出来無いけれど、その分、誰も使っていない設備を思う存分見ることが出来る。
生徒が何人いるのか、機材はどれだけあるのか、校内にはどういう設備があるのか、どのようなカリキュラムなのかとか。ある程度事前に聞いているけれど、目で見ることが大事だ。
「ここは島にあるのね」
島というか瀬戸内海に作られた埋め立て地。だから大学も含めて敷地に坂は無いし、小樽校のような自然は感じられない。
「昔はあっちの陸地の方にあったんだがなあ、手狭なことを理由に、ここを埋め立てた時に移転したんだよ」
それはもう何十年も前の話。
神戸は背後に迫る山地が邪魔をして、人も多く住んでいる事もあって大学の拡張が出来なくなった。それで埋め立て地を作る時に、広く土地を貰うことになった。
実際の敷地は小樽校の方が広いけれど、キャンパス部分しかないしハッキリと敷地がどこまでか解るので広く感じる。
あのホールストン家のご息女が来るというので、高校からは校長が案内を買って出てきた。
「ようこそお越し下さいました」
「このような機会を頂きありがとうございます」
「すまねえな、試験期間中に時間を貰って」
「施設をご覧になるならこの期間中が一番ですからね」
施設を使う実技試験はあるけれど、それは三日目の最終日だけだ
「それではご案内します」
「よろしくお願いします」
校長が渡してくれた入学希望者向けのパンフレットを参考にしながら、まずは試験中の校舎を見学してもらうところから始まった。
「生徒数は小樽校よりも多いんですよね」
入学する主な生徒は沖縄も含めた西日本在住者。関西エリアも厄災戦による閉鎖地区は残されているにせよ、大阪を中心とした大都市圏はやはり強い。
東京崩壊後に地方への人口分散があったけれど、やはり東北北海道地区は元々人口が少ないので、小樽校は入学する生徒数も少ない。
神戸校は小樽校よりも各学年で3クラス多い。付属中学からの進学生も多めなので、1クラスの人数を減らしてA組が2クラス用意され、B組からが高校からの学生だ。
生徒も多いので校舎も広いし、ぱっと見のレーンなどの設備も多めだ。
「レーン一つあたりの対象生徒数は…、小樽と殆ど変わらないのね」
若干いい程度。
「やはり予算がな。私も飛び級だから専用の設備を使ってたが、横浜校は予算が違うのがわかるな」
「どのくらい?」
「明日の楽しみに取っておけ。といっても生徒数がさらに多いから、二校よりマシな状況って程度かもしれないがな」
「神戸校も少ない機械を精一杯使ってるって感じね」
「戦後復興がありましたからね。ここ2年くらいはようやくあの戦いで減った魔術師の補充に力が入ってますが」
「だよなー」
霞沙羅が伽里奈の肩をポンポン叩いてくる。
「そこでお前の感覚が必要なんだよ」
「小樽校は何かをしているので?」
「金が無いなら無いなりにな」
今は内緒だ。悪いが、神戸校からも予算を奪うからだ。
* * *
学校見学は午前中で終わり、3人は元町にある、神戸牛が食べられるステーキ専門店に来ていた。
「伽里奈がやってる事ってやっぱりおかしいのね」
ランチとはいえお高い神戸牛のステーキを頼んで、3人は料理が到着するのを待っている最中。
見学を通して神戸校も予算で悩んでいることが解った。それもあって伽里奈があまりお金をかけないで実習を充実させようとしているのが面白い。
実際、教師側も魔術を活用すればいいだけなのだが、伽里奈にはなんか手抜きしているように見えているのだろう。
「いいネタになるだろ。魔術ってのは覚えているハズなんだが、私やお前みたいなのでも使わねえと使う場面を忘れるもんなんだぜ」
「パパにもゴーレムの件を話したら、面白いからマスターしてこい、って言われたわ」
「あれは大学でも試験運用してるところだぜ」
大学の方はクラスという単位で纏まることは少ないので、今は有志を募って、魔術師への志が特に強い学生に付き合って貰う準備をしている。
「伽里奈はこっちの人と同じように掃除機とか冷蔵庫とかパソコンは普通に使ってるのに」
「いや、こいつの作った家電の代替品は、幾つか軍でも採用されてるぜ。今はむこうで冷蔵庫を作ってるしな」
「冷蔵庫って普通に売ってるのにいるのに?」
「現場に電気があるとは限らねえだろ。バッテリーも重いしな。軍の部署によっては被災地の人名救助にもいくから、必要なわけだ」
「か、考えておくわ」
シャーロットはアシルステラに行かないから、伽里奈が育った文明は気にしてない。
アンナマリーは魔工具には明るくないし、魔術的な話をする事はしない。雑談をしていて「あー日常生活を送るのも大変だなー」と思うことはあるけれど。
便利な文明に住んではいるけれど、何かの事故や天災で便利な物が使えなくなったらとか考えた方がいいのかもしれない。
「いいですよねー、あの鉄板」
3人のステーキはライブキッチンのような、横長に設置された鉄板でお客からも見えるようにして焼かれている。
3人がいるのはテーブル席だけれど、カウンター席もあって、あそこに座れば目の前でシェフが料理をするのを見ることが出来る。
「バーベキューの時は鉄板出しますけど、厨房には設置出来ませんし」
シェフが数名、ターナーやナイフを駆使してステーキや鉄板焼き、ガーリックライスをカチャカチャといった軽快な音を立てながら調理をしている。
今ワインを投入してフランベが行われて、ボワット上がった火にカウンター席のお客が「おお~」と声をあげた。
美味しい事が一番だけど、食事にはああいうパフォーマンス的な楽しみ方もある。
「やってみたいなー」
「吉祥院家の実家にあるぜ。お前は行ったこと無かったか?」
「吉祥院さんのマンションと鎌倉でおばあちゃんがやってる創作料理のお店にしか行ってないですね」
管理人になるよりずっと前にエリアスと一週間くらい泊まらせてもらった事がある。あとは蔵書を見せて貰いに行ったりとか。
創作料理のお店はそのついでだ。
「あいつのマンションは普通のアイランドキッチンだったな」
「あれもいいですねー。部屋に油が飛びそうですけど」
「リビングには蔵書の持ち込みは禁止だったな」
吉祥院も家事が出来ないので、泊まり込みでは無い、使用人を雇っている。
「でもあれいいわよね」
「シャーロットの家にはある?」
「ウチにもあんなのは無いわよ。そもそも料理にこだわってる人なんかいないもの」
話をしていると、やがてステーキとライスが運ばれてきた。
「こ、これが噂の神戸牛」
わざわざ温めた黒い鉄板に乗せて運ばれてきたステーキはとても美味しそうだ。断面には丁度いい具合に残った赤い部分が覗いていて、霜降りな感じが目を楽しませてくれる。
「こういう感じに焼きたいなー」
「日本人の執念もすごいわね」
「まあ早く食べようぜ」
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