それぞれの対応 -5-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
アリシアの計画で、オリエンス教の教会レベルでの施設間転移を実現するための試作品を設置する機会がようやくやって来た。
これが上手くいけば、転移手段を持たないライアやハルキスも、ヘイルン教に協力を申し出て、緊急時にモートレルに集める事が出来るようになるかもしれない。
勿論ある程度の力を持つ神官の助けは必要になるけれど。
今日の設置には高位の神官が必要となるので、イリーナを連れてきている。
「この箱にも細工があるけど、本体はこの中に入れてあるこの宝石」
地球で言うトパーズだ。
「オリエンスを象徴するこの宝石の中にオリエンスからの賜物が封入されているから、これを縁として門を作成するよ。箱にも術式が刻まれてるけれど、イリーナにはこの宝石にボクがこれから見せる術式を刻んで欲しいの」
「宝石の中に何が入ってるの?」
「温泉だよ。宝石を割って中をくり抜いて温泉で満たして、霞沙羅さんから習った技術でくっつけたんだー」
「ええー」
あいかわらずこの元リーダーはとんでもない事をやってくれている。さすが高位の魔術師だけあって、信仰が深すぎる神官では到達出来ない思考をしている。
「エリアスにも構造を確認して貰ってるから、間違いなくこれであってるよ」
女神にまで確認を取っているとか、アリシアは本気だ。
最終確認のためにエリアスも見に来ている。
でもこれでイリーナはいつでもモートレルに来る事が出来るようになる。
オリエンス教の拠点としては、パスカール家の領地で、信者もそう多くはないから重要では無いけれど、ヒルダとアリシアがいる所に転移出来るのが大きい。
それとは別に、霞沙羅もこの実験を見に来ているのだが、今は神官の一人が持っていたリュートに興味津々だ。
TRPGで自分のキャラのザブ技能として吟遊詩人をつけていて、小銭稼ぎをしていたとか言っていたけれど、イリーナには何を言っているのか解らない。
このリュートは教会にオルガンが無いので、その代わりとして使っている。それを今霞沙羅は教わっている。そういえば実家にはギターもあるとか言っていたが、ギターとは何なのか。
「電子音も悪くないが、アナログ音も悪くねえよな」
ギターの経験があるからか、習得が異様に早い。なぜこの人は楽器が上手いのだろうか。一応鍛冶として芸術家的な面もあるけれど、作るのと弾くのとでは大夫違うのだが。
エリアスもリュートを演奏している霞沙羅がとても綺麗に見えるので、チラチラと見ている。
「あの、イリーナはこっちねー」
「ええそうだったわね」
アリシアからは一枚の紙が渡されて、それを読む。初めて見る術式だけれど、大陸でも有数の上級神官だけあって解る。アリシアの書き方がいいのもあるけれど、これなら他の神官が見てもすぐにでも解りそうだ。
アリシアから渡されたトパーズを、イリーナは両手で包むように持って、神聖魔法を発動する。
「神聖魔法の分野はボクだと一定以上はダメだからねー」
女神がいるので頼めば良いのだけれど、人が作らないと意味が無い。
「これでいいかしら」
術式を刻んだトパーズをエリアスにも確認して貰い、それを箱に入れて、予定通りに、オリエンスの小さな像が置かれている台の引き出しに収納する。
「んー、これで完了ね」
エリアスにもセネルムントの大聖堂に繋がったことが確認出来た。
「一応、私がサポートをするから、イリーナさんは一旦セネルムントに帰って貰える?」
「問題が無かったら帰ってきてね。転移する時の魔法はいつものと同じだから」
「ええ、解ったわ」
女神が見ていてくれるのなら安心だ。
イリーナはいつもの転移魔法を発動して、モートレルから消えた。
「エリアス、どう?」
「問題無いわ」
伽里奈には解らないが、イリーナは無事にセネルムントの大神殿に転移が完了した。
エリアスが言うならそうなのだろう。
「じゃあ帰ってくるの待ちかなー」
セネルムントでは教皇様もこの実験の結果を見ているそうだから、質問攻めにあっているかもしれない。
「アリシア様、この方はとてもお上手ですね。もう弾き方を覚えてしまいました」
霞沙羅のあまりの習得の早さに教えた神官も驚いている。
「セネルムントで教皇様にオルガンを頼まれる人だからねー」
「いひひ、こんな場所にいると私の使ってたキャラになったみたいだぜ。一曲弾くから写真撮ってくれよ」
「じゃあ私がやるわ」
撮影のカメラマンを買って出たのはエリアス。持ってきていたデジカメで霞沙羅を撮り始めた。
エリアスもモデルの勉強のためだ。良い被写体相手に撮影出来る時にやらせるのがいい。
霞沙羅は一曲だけ覚えているオリエンス教の曲を覚えたてのリュートで弾き始めた。また目をつぶって演奏しているけれど、今触ったばかりなのにもう弦の感覚を覚えてしまっている。
オルガンに比べると寂しい音色だけれど、これはこれで雰囲気がある。
「すごい上手ですよ」
そんなところにイリーナも帰ってきた。
「カサラさん、リュートも覚えちゃったの?」
「元々似たような楽器を弾ける人だったから」
これは金が取れるぞ、という程の演奏は狭い教会の外まで聞こえているので、通行人がドアを開けて入ってきたり、窓から覗き込んでいる。
音色に惹かれて裏にいた神官達も出てきた。
そして曲が終わると、教会に集まってきた30人くらいから拍手が沸き起こった。
既に楽譜は覚えているとはいえオルガン用、それでも楽器が違っても引っかかるところも無い完璧な演奏だった。
「私が教えて欲しいくらいです」
「堂々と練習して良いんですよ。大神殿では練習を恥ずかしがっていた演奏者達は、軽く像に頭を下げてからやるようになりました。神の前でやりにくかったようですが、それで気持ちが落ち着いているようです。この人のアドバイスで」
「え、この方ですか?」
「本番で上手くやればいいんだよ」
「練習での間違いもオリエンスは許してくれますよ」
「こいつのコツについては私はよく解ったぜ。教えてくれてありがとな。自信持って練習しろよ」
「は、はい」
神官は霞沙羅からリュートを返されてまじまじと見ていた。
信者として、良い曲を聴かせて貰ったと、幾ばくかの寄付金を置いて人は去り、イリーナに本神殿の状況を聞くことにした。
「教皇様もやっぱり驚いていたわよ」
「一度に2人が限界なんだけどね」
「そうね。通り抜けれたら解るけど、門が小さいのよ。神殿の転移装置とは別物なのよね」
「それでもすごい事よ、これは!」
これでイリーナは自由にモートレルに来れるようになった。これまではルビィかアリシアに頼まないとダメだったけれど、体を動かしたい時はヒルダかアリシアに頼める。
いずれはこれを広く設置すれば、神殿の無いそれなりに大きな町にも高名な神官を運んで、有り難い礼拝をする事も出来るようになる。
「温泉を勝手に使っちゃってるけど、怒らないでよ」
しかしアリシアは特別名誉神官。オリエンス教の為にやってくれたことなら、黙って温泉を拝借してもお咎めはないだろう。
そう、温泉と言えば
「あの霞沙羅さん、ユノハナの採取の仕方を教えて欲しいと、教団としての依頼です」
「こいつからも聞いてるが、やるんならいいぜ。こういう道具とか施設が欲しいってのは纏めてあって、後でアリシアに渡しておくから…、おい印刷するから、渡しておいてやれ。あとはどっかで
予定をとって実地で教えてやるぜ」
「王様も期待してますからねー」
「ご隠居さんの為だったな」
変なことが起きなきゃいいんだけどな、と霞沙羅は思う。まあ軍の仕事じゃないから、巻き込まれたくないことには関わる気はないのだが。
「あら、成功したの?」
そこにヒルダがやって来た。
「うん、これでイリーナはいつでもここに来れるようになったよ」
「あら良かったわ。サカキさんももう少しで来られるようになるし、腕が鳴るわね」
ヒルダにしても、これでいい鍛錬の機会が増えるというもの。
「サカキさん?」
「カサラさんのところの剣士の人で。この前やりあったのよ。あれはすごかったわね。ハルキスも楽しみにしているのよ」
「国内にあいつとまともにやれるのが殆どいないから、それもあってアリシアの家に住むことになったんだよ」
「そんな人がいるのね」
「だからイリーナも練気の練習をおねがいねー」
「あれは何をやっているんだって、他の神官からも言われるんだけど、なかなか説明しにくいのよね。とにかく毎日やってるわよ」
ライアはどうなんだろうか。また今度聞いておこう。
「よしよし、でもまあ上手くいったから、今日は成功だねー」
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