それぞれの対応 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
ハルキスの練気習得度合いの確認を終えて、システィーは畑の開墾とスープカレー作りのために、そのままエルドリート町に残り、アリシアはラスタルに転移した。
冒険譚の新刊は魔法学院が出版しているので、出版部門の事務所にやってきた。
「おう、アーちゃんが来たカ」
室内には出来上がった本が沢山…、数十冊置かれていた。
沢山と言っても、地球の書籍生産レベルと比べてしまうと各段に落ちるけれど、アシルステラ人からすると、これでも結構な冊数だ。
ここから学院用を数冊抜いて、王族を初めとして、注文のあった貴族に納品されて、この版は終了する。
第二版はまた印刷中だ。
「アンナマリー嬢の本はアーちゃんが直接渡してくれヨ」
「はーい」
ルビィから一冊手渡されたので、それは鞄に入れた。アンナマリーが読み終わったら借りて読むことにしよう。
「これから国王様の所に献上に行くのだが、アーちゃんはどうすル?」
「どうしようかなー。今日はシスティーがいないから、あんまり家を空ける時間は無いんだよねー」
「そんなに時間もかからないし、この前の晩餐会の感想でも聞いてみるのも良いんじゃないカ?」
「そ、そうしようかな?」
冷蔵箱と冷凍箱が絡んでいるので、これからの魔術学院の事業にも関わるし、ひょっとしたらまた他の貴族相手に食事会をやって欲しいとか言うかもしれないので、聞いておく必要はある。
ということで、ルビィと一緒に本を持って王城にやって来た。
新刊を持って参上するいう連絡は行っていたようで、2人は中にすんなり通してもらい、王の執務室まで案内された。
「マーロン様、魔法学院より魔導士ルビィとアリシアが冒険譚の献上に参りました」
「おおそうか、2人を通してくれ」
使用人がドアを開けてくれて、アリシアとルビィは室内に入った。マーロン国王は書類仕事の最中だったようで、一旦書類を脇に避けてから、2人を出迎えた。
「とうとう完成したのだな」
「はい、お待たせしましタ」
「アリシアが帰ってきてから色々とあったのだろう。まあ今回ばかりはペースが落ちるのも仕方が無いな」
ルビィは持ってきた5冊の本を机の上に置いた。献上というわりには少ないけれど、印刷数からすれば結構な冊数だ。
マーロンはその1冊を手に取り、パラパラとめくりつつ簡単に確認をするととニッコリして、机の上に戻した。
「ふむ、この書類仕事の後の楽しみに取っておこう。ところでルビィ、この次の刊はどうだ? まだこの本も手に取っていないにもかかわらず、我が子供達はもう次を期待していてな」
「はい、今回はなかなか筆の進みもはかどっていまス」
実際に、もう先日に何人かで集まった時にプロットは出来ているので、現在は本文の執筆を進めている。
「そうか、楽しみにしているぞ。ところでアリシアよ、セネルムントの者から聞いたのだが、あの温泉からなにやら粉のような物を取り出す計画があるそうだな」
「霞沙羅さんからの知恵なんですけど、源泉を冷やしているプールの底に沈んでいる白い塊が実は温泉の成分が固まった物で、それを採取して粉にしようって話です。湯ノ花って呼んでいるんですけど、今いる日本という国だとお土産として売って販売されていまして、普通のお湯を張ったお風呂に混ぜると温泉代わりになるんです」
「おおそうだ、そのように言っていた。父が療養の為に定期的に温泉を運んで貰っているのは知っているな?」
「ええ、先日イリーナと2人で運びましたから」
「そうか、父の城に行ったか。それであれば、定期的に温泉を運ばせる必要が無くなるという事か?」
「そうなりますね」
「シンジョウカサラ殿にも世話になっているな。見ての通り、父の体調は良くはなったが、まだ完全とは言えない。その為にも温泉の粉の件はよろしく頼むと伝えておいてくれ」
「はい、畏まりました」
「それとアリシア、3人の将軍から提案があったのだが」
まだ何かあるのかなと思ったけれど、提案の出所が将軍という事で何となく予想はついた。
「このラスタルの騎士団にも良い食事の提案をせよ。お前の友人に対しては悪いのだが、ラスタルの騎士団が食べている料理が地方都市のモートレルに劣っているというのはいささか良くない」
「そ、そうですね。ランセル将軍からも言われました」
冒険者時代に何回かの経験しか無いけれど、食事はラスタルの騎士団の方が良かったような気がする。
けれど、それはアリシアがヒルダに手を貸す前の話で、地球の料理を多数持ってこられてはさすがに王都であっても分が悪い。
同盟国同士でしばらくは共同戦線などは無いけれど、他国から大使などが来れば、変な噂が耳に入ることもある。
さすがに国の王族が治める土地の騎士が、地方領主の騎士よりも見劣りする食事をしているとか良くない。とても恥ずかしい。
「お前ももうランセルに顔が利くようになっただろう。彼を窓口にしてもよい。早急に手を打って欲しい」
「そ、そうですか、解りました」
出来上がった本を持ってきただけなのに、またもや妙な依頼を受けることになってしまった。
ただこの先、高校の冬季休暇が控えているので、多少は対応が出来るかもしれない。
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