年末に向けての準備 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
国立小樽魔術大学付属高校では期末テストが迫っていて、元々の練習施設であるレーンや、今回から追加された体育館での簡易結界設備による生徒個人の魔法練習が絶賛行われている。
結局のところ、教師達が頑張ってくれて、簡易結界は最初の6個から12個になって、一日の利用可能者数が大きく増えた。
1人1回10分のルールは変わらずだけれど、事前の2週間で1人の生徒が2回利用出来るようにという目標は達成出来た。
これを少ないとみるか、増えたとみるかはまだ結論は出ないけれど、生徒からの評判は上々だ。
個人で1回10分は短いようでいて、多くの生徒は放課後にもなってそんなに長時間も練習出来るような魔力は残されていないので、実際の所は丁度いいくらいだったりする。
後はこれを来年度からどう授業に活かしていくかという課題がある。それに予約システムに追加するかとか、一回の利用時間の見直しと、色々ある。
とりあえず今回の期末テストが終わるまでは現在のこの体制で行う事になっているので、現場の管理は教師達に任せて、今日の伽里奈は大学にやって来た。
勿論卒業用のレポートの作成があるので、参考にするべくシャーロットも同席している。
大学ではまだ簡易結界の本格的な運用が始まっていない。
まずは伽里奈のいる付属高校での運用を見て、1月から始めようという予定となっている。
なので、今日はその高校での実績データを持って、大学側の施設運営者と打ち合わせに挑んでいる。
「今日もやっているようだが、なかなか盛況みたいじゃないか」
集計した生徒達からの評判を書類として見て、会議出席者からは、大学でも予定通りやろう、と声があがった。
出席者達も全体的に乗り気だ。会議を前にして、こっそりと見に行ったり、事前に噂を聞いたりリサーチをしているからだ。
「全てを魔術でまかなおうとするお前の考えは、魔術師養成学校の教育的には正しい。教師達も魔術に対して何かを思い出したようだ。だが今は地面に瓶を置いているだけというビジュアルは、ちょっと原始的すぎるし、今の所事故は無いにせよ機材の転倒もあり得るから、もう少し安定性を確保したい」
これは霞沙羅の言うとおりで、現在は期末テスト対策で暫定利用状態。教師の方で触媒用に倒れにくい入れ物を用意してくれたけれど、まだ監視が必要な状況だ。
それにまだ魔術師とも呼べない現代の少年少女達相手に、足下に瓶が4つだけ置かれていて「結界です」はやや説得力に欠けるというアンケートも貰っている。
この地球の文明で、今後使って行くには見た目だけは他施設と同等のレベルにしなければならない。
「で、設備の教授達に相談して、設計して貰った」
と霞沙羅がその設計図を表示した。
以前に伽里奈が構想していたX字にレールを組んで、4つの容器入れの位置を動かす事で結界の強度を調整出来て、折りたたんで、車輪をつけて移動出来る器具になっている。
「とりあえず廃材屋で資材を仕入れてきて、今作成中だ」
自分で企てている予算強奪計画もあるから霞沙羅もノリノリだ。
とりあえず来期の予算組みに間に合わせるために試作品を作って、試用の後に改良して、まずは量産品を設計して、製造費を出さないといけない。
「出来たらまずは大学生に試用して貰おうぜ」
「そうなれば、なるべく早く改善点を見つけて貰いたいですな」
こういうギミック的な部分は霞沙羅に任せるのが一番だ。そして伽里奈はアシルステラで可能な限りの模倣をするのだ。
そんな話しを聞きながら、シャーロットは卒業レポートに活かそうと真面目にメモをとっている。どこまで間に合うかは解らないけれど、触媒を使っての防護結界の作成は、その触媒も含めてある程度レポートは出来ている。
「平和が一番だなー」
伽里奈にとっては、軍での話とはいえ、元々こういう人材育成事業を2年以上もやって来たわけで、このところの状況が色々とおかしかっただけ。
まだ解決していない事があるけれど、今の所は正式な軍人ではない自分に直接関係していないから、ちょっと休みたい。
でも自分を「お姉様」と慕ってくれる隣国の頑張り屋の王女様については、手を貸してあげたいと思う。
* * *
「なんか急に学校の環境が良くなったな」
次の日の放課後は、中瀬と早藤は個人練習設備の予約は取れていないので、放課後の教室で一時間程度、座学部分のテスト対策を手伝う事になった。
この期間は学食のテーブルも校内での勉強場所として開放されるけれど、既に他の生徒で埋まっていたので、結局教室でやることになった。
周辺に何軒かある喫茶店も同じように生徒で席が埋まっている可能性もあるので、動き回って時間を無駄にするのも勿体ないと、早々にお店探しは諦めた結果だ。
「実技練習は1回10分、1週間に1回くらいしか場所取れないけど大丈夫?」
「無いよりは断然いいぜ」
「レーンは相変わらずの状態だし、グループで予約を取っても練習時間はそれほど回ってこないから。皆でワイワイやりながらも楽しいけど、見てるだけが多いものね」
「10分間でも自分がやりたい事で集中出来るなら悪くないよな」
「そうよね」
「それなら良かった」
中瀬と早藤にとっては、伽里奈が急に大学卒業済みだとか、新城大佐に軍の人材育成に協力しているだとか、戦闘経験有りとか知った時はどうなるかと思った。
それでも自分達の授業や小樽校が良くなる為に動いてくれているし、穏やかな性格は全く変わらない。
それどころか大きく変わったところがあり、授業中だけじゃなくて、授業の合間の短い時間でも気軽に不明点を質問出来るし、こうやって放課後の勉強もお願い出来るようになった。
おかげで伽里奈が編入される前よりも勉強へのモチベーションが高くなっている実感もある。
だったら伽里奈がやろうとしている事を、生徒として正直な意見を言って、支えてやろうと思う。
「じゃあ座学の方を始めようねー。訊きたいことある?」
読んで頂きありがとうございます。
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