悪事の表面化 -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
霞沙羅と吉祥院が本を見ている間、取っ替え引っ替え、天望の座メンバーやら学院の上層部がやって来て、吉祥院を一目見ていった。
目的は大きい体では無くて、異世界の英雄がどのような人物かの確認だ。
でもやっぱり予想以上に大きな体を見て驚いていた。
「連中のやる事に何の意味があるのか知らんが、魔力の供給はレラの目で補っているんだろうぜ」
「仮定でしか無いけどね」
「その魔族とかいうのと手を組んで、実験でもしてるんだろ。魔族にとってはレラの目を作る事での負担が軽減されるしな」
「地球ではレラの目そのものは使えないだろうけど、何らかの手を加えれば幻想獣を操る技術にも転用出来るし、ワタシらも無関係ではないかもだね。大賢者様、書籍を見せていただけて感謝です」
「キッショウイン殿には我々にとって新たな課題を伝えて貰っておるからのう」
「何の話なんです?」
「探知装置に対しての地質や地理的な影響についてじゃ。実際このラスタルの探知装置も多少なりとも影響は出ておった」
「あの話ですか。ワタシらの世界の町には色々余計なモノが埋まっていて、それが邪魔をするんですよ。元々あったはずの宝物庫も後から出来た建造物の影響を受けて、更新が必要になる事もあるので」
上下水道に電線などの社会インフラ、トンネルに地下鉄に大学構内のビルなどでも建材によってはちょっかいを出してくる。
「キッショウイン殿は宝物庫の管理にも関わっておられるのか?」
「ワタシの爺様が今の責任者ではありますが、更新には関わっているのであります」
その話になって、宝物庫の管理担当者が耳打ちでタウに相談をしてきた。
「そうであれば、お互いに宝物庫の技術交換など出来ぬものか? アリシアから聞いているかもしれないが、先日不可解な窃盗事件が起きましてな」
「霞沙羅からも聞いているですよ。ただ、ウチは機械文明で、こちらに比べて魔術の利用が劣っている部分があると認識しております」
「でも機械はこっちの世界にないですからねー、ヒントはあると思いますよ」
「セキュリティー装置の概念だけでも知ればいいんじゃねえか? それを魔術で再現すれば」
機械がどういう事をやっているのかをアシルステラの人は知らないので、仕掛けとしてこういう発想があります、という事があれば何かに使えるかもしれない。
「ワタシは魔術の知らない利用方法を知りたい。そちらはこちらが機械でどういう事をやっているかを知る、という交換であれば、お互いに話し合いの機会を設けても良いとは思っていますよ」
「そうか。では一度天望の座で話しを纏め、それをアリシアを通して伝えさせよう」
「ではワタシも同じように纏めておくでありますよ」
お互いの得になるような場にならなければならないから。今日は提案だけで、それぞれ持ち帰る事になった。
* * *
霞沙羅と吉祥院から、レラの目についてもう少し聞きたい事があったので、ルビィがやどりぎ館にやって来た。
その代わり、ザクスン王国に幻想獣が現れたので、念のためにフラム王国に住んでいるルビィに生態などの詳細の説明を行いつつ、またこちらの世界の魔術を教える事にした。
2階の二人部屋にテーブルと椅子を出して、双方資料を持ってきた。
「今一度確認するが、ゴブリンだのの魔物を操るのは、そんなに難しい技術では無いんだな?」
「人を操る魔法もあるから、それを応用すれば出来ますよ」
完全に操るものから、一つか二つの命令を植え付けるモノまである。当然、深く操ろうとすればするほど難度は高くなり、設備や時間も必要になる。
「この前の札は行動の方向性を与えるだけのものだったガ」
「レラの目はそれを植え付けた魔族が対象の魔物を完全に下僕にするものでいいのでありんすな?」
「そうですね」
「わかったであります」
その答えを吉祥院はメモとして書き込んだ。
「幻想獣の幼態なら、操る方法がありましたよね?」
以前にも窃盗団がある程度操っていた。
「その件だよ。大学襲撃の時、あまりにも多すぎただろ? 窃盗団の連中の一人が動物を操るのに長けていたんだが、あの程度のレベルの人間ではあれだけの数はさすがにどうにもならない」
「アリシア君は空から何かが落ちてきたって言ってたべ? あの連中は幻想獣を封じたというモノを支給されただけで、その技術は教えられていないでござるが、ある程度指示を聞くように細工されていると説明はされていたそうでありんす」
「全て灰になったからどうなっていたか解らんが、ひょっとしてこのレラの目に関係した技術を使ってたのかと思ったわけか?」
金属のレラの目を誰が作ったかは解らないけれど、今の霞沙羅は「異世界の話だから」とは思っていない。
可能性があるので、調査をしている。
「じゃあこのセンでいく」
「なにがしかの方向性が決まったのなら来た甲斐はあったナ」
「おう、じゃあお前の分を始めるか」
ルビィへの勉強会は霞沙羅と吉祥院が担当するというから、ここから伽里奈は館の仕事をする事にしている。
吉祥院は初級魔法を教える事が出来ないので、実際に話をするのは霞沙羅ではあるけれど、伽里奈は必要なテキストを出力して部屋を出た。
「あーあ、なんかもう忙しくなっちゃったなー」
入居者が増えて、それにまつわる事で忙しくなるのは管理人として仕方の無い事だけれど、それ以外のところが多くなってきてしまった。
フラム王国の件については、復帰してしまったし、貴族になったり魔法学院に関わるようになったりで、一応国民として意識するようにはなった。
料理の事は、魔法学院の事業にも関わる事なので色々と楽しいし、農産物については時間がかかる事だけれど、将来の為なので、これも楽しい。
小樽での高校については、正直シャーロットを無事に返してしまえばもう行く必要はないかと思い始めているけれど、折角知り合いになってくれた人達に少しでもいい環境を残してあげたい気持ちはある。それに関連して霞沙羅の悪巧みに付き合うのも悪くはない。
この辺まではいいのだけれど
「妙なのがうろつき始めてるからなー」
巻き込まれているだけだけれど。
世界を越えてうろついている、すすきので出会ったあの2人がどこまで関わっているかは解らないけれどいい迷惑だ。
「あ、伽里奈、あのルビィとかいう人はもういいの?」
お茶類の在庫確認をしていたら、シャーロットが2階から降りてきた。
「うん、今は霞沙羅さん達が相手をしているよ」
「だったらちょっと私のレポートを見てくれない?」
こういう忙しいはいいよなー、と思いながらシャーロットの部屋で、PCのドキュメントを見せて貰った。
教育論のレポートはいくつかの施策について、それぞれを作成しているようで、データは小樽校において、日本の教育現場についてと、実際にシャーロットが関わっている案件に別れている。
「簡易結界の件、ゴーレムの件、料理の件、敷地環境の件」
「練習場の件はパパとママにも聞いたんだけど、やっぱり普通の学生達は予約を取るのに苦心してるって」
「シャーロットの学校って、日本でいう所の横浜校に相当するんだよね?」
ロンドンにあるのだから、当然国内トップで、シャーロットのような飛び級をするような生徒が通う学校でもある。
「小樽の高校ほどは不足してないけれど、やっぱり足りてはいないって話なの。今までは私に優先的に与えられた環境しか見てなかったけれど、1年E組で普通の授業環境が体験出来てよかったわ」
小樽校にはシャーロットのような天才級を受け入れる環境が無かったのが良い影響を与えているようだ。
大学卒業後にどの組織に所属するのかは解らないけれど、いずれ協会の上に昇っていくような人間だ。クラスの女子とも上手くやっていけてるし、優秀な人間だけではないという、広い視野を持って真に良い魔術師になってほしい。
「提出はいつなの?」
「完成次第提出していくけど、締め切りは一月末までよ。だから12月中から提出し始めるつもり」
「霞沙羅さんとの杖は進んでる?」
「それは急ぎのレポートじゃなくて、大学進学後のテーマなのよ」
「魔工具なの? 魔装具なの?」
「魔装具よ。霞沙羅みたいには器用じゃないからとりあえずジャンルは絞るの」
「まあ概念的には移行出来るしねー」
まだ13歳なのに、ちゃんとテーマを持って歩んでいるのが解る。
「でも料理の授業は採用したいなーって思ってるのよ」
「こっちにいる間に経験していってねー」
読ませて貰った各レポートには、伽里奈的なアドバイスや修正点を記入していった。でも全体的にはよく出来ている。
「他の高校って施設だけでいいんだけど見学する事って出来るのかしら? 日本には他に2校あるんでしょ、それぞれ一日くらいでいいんだけど」
「吉祥院さんに聞いてみる?」
「そうね。あと伽里奈はそれに付き合ってくれる?」
「うん、いいけど。ボクも神戸校だけ見た事ないしねー」
留学生であるシャーロットに、横浜と神戸に一人で行ってこい、はさすがに可哀想だ。泊まり込みで回るわけじゃないから、館の管理に支障は出ない。
ルビィの件が終わったら聞いてみよう。伽里奈とシャーロットの2人は期末テストを受ける訳ではないから、施設見学ならその時に行ければいいと思う。
やっぱり入居者の手助けっていうのはこういうのでないといけない。
ついでに神戸で美味しいモノを食べて帰りたいので、ちょっと調べておこう。
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