悪事の表面化 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
プリシラ王女達は馬で来るというので、ひとまず先に、アリシアは【飛行】で空中を移動して町の外に移動した。目的地には退治したドラゴンを囲むように、竜騎兵達が降りてきている。
「すみませーん」
そこにアリシアが着地した。
「何者だ!」
「アリシアです。フラム王国の、元冒険者の、アリシア=カリーナです」
「あ、おお、そういえば、見覚えがあるぞ」
「どうもお久しぶりです、隊長さん」
運のいいことに、顔見知りの竜騎兵隊の隊長が出動していた。
「先日もサイアンに来ていたんだったな。そうか、久しぶりだな」
隊長とアリシアが握手をしたので、他の竜騎士はとりあえず対応を隊長に任せることにした。
「あのー、このドラゴンみたいなものの死骸を…、あー、解りました」
ここに着地するまではちゃんとした死骸だったものが、もう灰のように変異を始めている。これは火で焼かれたからとかそういうのではなく、予想通りの症状。このままだとやがて原形も留めずに崩れていってしまうだろう。
「あーやっぱり。ヤな予感がしたんだよなー」
とりあえず今の状態をデバイスに撮影しておく。
「何か珍しいモノなのか?」
「これ、魔獣とかドラゴンじゃないんですよねー。普段騎竜と生活をしている竜騎士の目から見て、見た目に違和感がありません?」
「そんなことは…確かに」
「余計な前足がついてますよねー。人間は変なこと考えるから、想像しちゃうんですよね」
これはドラゴンじゃなくて幻想獣。地球にはドラゴンは存在しないけれど、どういうわけか似たような姿を持った創作物としては存在する。
そんな中で、人が考えるものだから、ゲームとか漫画とか、絵画とかで色々とデザインにブレがあって、四本足に羽が生えているものが存在する。
そんな想像が幻想獣を生む。
「誰だー、こんなもの持ってきたの。何となく想像出来るけどねー」
そういえば、すすきのに現れた、北海道では確認されていないワニの幻想獣、大学に突然現れた沢山の幻想獣。あれはどこから来たのか。関わっていた、いると思われる人間、それを考慮に入れると、想像もつく。
そして灰の近くから、先日も見た、金属のレラの目が発見された。
「今度はザクスンかー」
《ねーエリアス、霞沙羅さんいる?》
エリアスに聞いてみると残念ながら不在だったので、出来るだけ情報を集めて持って帰ることに決めた。
しばらくしていると馬に乗ったプリシラ王女が騎士達を率いてやって来た。
「お姉様、気になることは何か解りましたか?」
「ええ色々と」
「姫様、また魔獣がこのような姿に」
魔術師の一人がプリシラに灰の山を見せた。
このような姿にとはどういう事だろうか。
「先日もご報告させていただきましたが、ブリッツの町での妙な巨大トカゲ騒動の時も、突如動きを止めた魔獣がこれと同じく灰になっております」
「やはりこれは魔族の仕業…」
「いえいえそんな事無いです。金属のレラの目がついてましたけど、これ、灰になってますけど、この世界の生物じゃないですよ。ドラゴンに前足があったので気になってましたけど、今ボクがいる、霞沙羅さんの世界の幻想獣という存在です」
「ホントの事なんですか?」
「人の心が妙な神様の力に反応して出来上がる生き物でも無い存在なんですけどね。だから活動を停止すると、こういう灰というか塵になるんです。この灰、ちょっと貰っていってもいいですか?」
「え、ええ」
王女の許可を取って、アリシアは灰の一部を採取した。
「ところで、もう一体いたんですか?」
「先日、お姉様が札を持ってこられた日の少し後なんですが、ここから馬で一日ほどにあるブリッツという町に」
「実際に見たのは町の人間なのですが。口の長い、脚も長い、トカゲのような火を吐く生物だったのです。突如5匹ほどが町で暴れ回ったあと、急に灰になってしまったとか」
「ん、んんー」
こっちにもそんな不格好なワニはいない。でもすすきので見た幻想獣に特徴が似ている気がする。
「ありがとうございます。あの、隣の国の話ですみませんけど、モートレル占領事件で、裏に別の世界の人が紛れ込んでた形跡があるんですよね」
「ヒルダさんの町の話ですね。教団経由で聞いています」
「そうですか、あの王者の錫杖ってあるじゃないですか、あれもそもそも異世界から来た道具なんですよね」
ザクスンも国境を接していた帝国の誕生に関わる道具なのだから、あの杖は大陸中で有名だ。
同じく帝国を取り囲んでいた同盟国なので、アリシア達が奪取した後の解析にはここの魔法学院も参加している。結果は「解らない」だった事も有名だ。
「とりあえず色々と持ち帰って、霞沙羅さんにも相談してみます。またこの国に来ても大丈夫ですよね?」
「はい、多分この状況を解決するのにはお姉様の境遇が鍵になりそうですので」
「ありがとうございます」
「私達はブリッツの町を周辺も含めてもう一度調べましょう」
「畏まりました、王女様」
* * *
持ち帰った灰は、瓶に入れて霞沙羅に預けた。
「灰については軍で見て貰おう」
「ドラゴンについては、アリシア君がそう言うなら、間違いはなさそうだっちゃ。まあ確認は必要でやんすから」
「しかし大丈夫なのか、そのザクスンとかいう国は?」
「同盟国とはいえ他国ですからねえ、ボクも王家に顔が利きますけど…、もう冒険者ではないですからね。ただ情報は渡しますよ」
「まあそうだな。しかしだ、幻想獣が向こうの世界に持ち出されるとは」
「そもそもこっちの側でも人間の手では持ち運べる相手ではないと思うじゃん。すすきのと大学の事もあるからあの2人にはその技術があるんかいな?」
「それで1回目は関東じゃ有名なワニ型か」
「でもなんか勝手に活動停止になったそうですよ。でも今回のは倒されるまで動いてました」
「んー、あれを別世界に持っていった事がないから、何ともな」
捕獲して檻に入れて研究所に持って行くような移動は出来る。ただ、アシルステラに持って行かれた幻想獣はその辺を走っている路線バスと比較しても大きい。それにしては大がかりな運搬の形跡は無い。そもそも大学もすすきのもどうやったのか結論は出ていない。
無論の事、異世界に持って行くような、そんな通常は出来ない記録はどこにも無い。
「何かヒントがあればいいんだが」
「アリシア君、モートレルの事件が起きる前にゴースト事件があったじゃん? あの時の石について、何か纏めているでありんすか? そもそも石はキミの世界の常識的な術式ってことだっぺ?」
「そんなのありましたね。死霊使いが使ったアシルステラの魔術だったから気にしてませんでした」
ヒルダに見せるために作っただけだったけれど、残してはいるのでプリントアウトして持ってきた。
「面白みはあるが面白さはない魔術だな」
「とはいえこの発想は厄介じゃんねえ」
「そうですねえ、町中にばら撒かれて大変でした」
「多すぎてアンナマリーが寝込んでたな」
「幻想獣を持ち歩くとか考えた事もなかったでござるが、他の世界に持って行ったらどうなるでやんすかね?」
「そりゃあお前…、やった事ねえからなあ」
「でもあれって、一応神様の力で動いているんですよね。神様の力って世界が変わると使えないから」
エリアスとかフィーネは神様そのものなので、そういうのは関係ないけれど、力を借りている人間は神聖魔法はいっさい使えない。
「そりゃあ、お前…」
「燃料切れになるでげしょうな」
ワニは勝手に活動停止になったと聞いているから、可能性はある。
「でも何でレラの目なんかつけてたんだろ?」
「お前のところの話だから無視してたんだが、レラの目の資料を見せて貰えるか? こっちも大学襲撃みたいな場合の防衛も必要だからな」
「そうなると学院に行かないと」
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