悪事の表面化 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
既に魔族が現れている状況なので、対レラ魔法に関するザクスンの反応は早くて、鎮魂の儀も控えているので、ギャバン教も迅速に研修会の準備を整えた。
形式上、フラム王国にも研修会実施の一報を入れてから、アリシアは聖都ギランドルにやってきた。
今日は自分一人。そういえばここはアシルステラなのに、結構な頻度で異世界の霞沙羅やフィーネがついてきてたなと改めて思う。
誰も彼もが飲み仲間であるギャバンが関わっているからというのが理由だった。
エリアスの時は転移が出来なかったからだけど、もうアリシアだけで移動が出来るので連れて来なくてもよくなった。
今日は事件が起きている事も無く、もうエリアスの手を借りなくてもいいので、アリシアは一人、テキストが入ったカートをゴロゴロと引いて、研修所に向かった。
「お姉様、本日もありがとうございます」
またプリシラ王女が参加していた。
王族なのに随分アクティブに動くんだなーと思うけれど、アリシアにはギャバン教で仲のいい神官はいないので、顔見知りがいるのは正直有り難い。
勿論王女様が一人でいるわけは無く、護衛の騎士と魔法使い、それと神官が一人ついている。
戦の国として、王族には若い頃から戦いの教育をさせるという方針でもあるのかもしれない。
「それでは、こちらが教室になります」
中に入るともう熱心な神官数名が着席していた。
「実際の所、どういう魔法なんですか?」
「攻撃と防御の二つだけなんですけどね。聖剣化と障壁の魔法です。魔族とレラの目のついた魔物とか魔獣とレラの神官に強力に作用するんですが、それ以外には殆ど使えません。対一般人、対死霊とかですね。特化しているので、その代償です」
「本当に魔族用なんですね」
「冒険者の時に魔族と何度かやってるんですけど、ボク達はいいんですけど、別の冒険者とか、協力者の神官さんは、色々不足することもありましたから」
アリシア達は個々の力が強いので、対レラの魔法を使ってもちょっと有利になるくらい。けれど手を貸してくれた周りはそうもいかないので、支援用に作った。その時は冒険者だからどこかに発表するような機会もなかったので、自分達の中だけで完結してしまっていた。
「特化しすぎてあまり使う機会がないですからね」
「でも今は助かります」
何というか、このやり取りをしていてアリシアは笑ってしまった。
「どうしました?」
「いえ、プリシラ様は自分がいない間に立派になられたなって。最初に出会ったあの護衛から時間が経ってるんですね」
「もう」
最後に会ったのが8才くらいの女の子だったので、ボディーガードでおそばにいた時は魔術とか宗教とか、そういう話しをする事はなくて、お付きの人の目を盗んで膝の上に乗ってきては冒険の話しを
ねだってくるような甘えん坊さんだった。
今となっては王族としての意識も持っているし、国のために動くような、立派な少女になったと思う。
「では準備をしましょう」
考えれば、立派な騎士になるとか言っていた貴族のお嬢ちゃんだったアンナマリーも、今では自分の近くで勉強してるし、時間が経ってるんだなと感じてしまう。
それはともかく机にテキストを置いていき、出席者達が集まって、研修が開始された。
* * *
ギャバン教向けなので魔法の名前は「戦神の剣」と「戦神の楯」と名付けた。
座学の後の実地訓練での魔法の発動も確認され、無事に研修は終わった。あとは自分達で訓練を続けるという。
実際に国内を魔族がうろついているのだから、覚えたてで経験が薄い中、少しでも使い方を考えた方がいいワケだから、それも当然だろう。
「お姉様、研修が終わったら教皇様が挨拶をしたいと言っていました」
「そうなんですか? 教皇様って、あの女の人で変わってないですよね?」
「はい」
「ではアリシア様、こちらにどうぞ」
神官に案内されて、アリシアは大神殿にある教皇様の執務室にやってきた。
最後にここに来たのは魔女戦争中盤頃。もう4年も経ってしまっている。
ここの教皇の若い頃はイリーナのように冒険者を経験していて、パーティーを解散して帰ってきた後もいくつかの大きな戦いにも、国境を接していた帝国との戦いにも参加して、多くの戦功を上げた人物だ。
そんな人間が教皇になるというのは、戦神を信仰するギャバン教ならではといえる。
「アリシア様とプリシラ王女を連れて参りました」
「お通ししなさい」
中にいる教皇様からの返事があって、扉が開けられた部屋にアリシア達は入っていった。
さすがに4年も経っているし、と思った教皇様は、それほど変わっておらず、まだ若々しい。
今の年齢はちょうど70才。背もピンとしているし、見た目で言えば五十代後半くらい。
「何度か足を運んでもらっているのになかなか会えませんでしたね。よくぞ戻りました」
席を勧められて座った。
アリシアは帰ってくるまでの約3年間と現状を簡単に、いつも通りの説明をした。
「オルガンをお願いしたい方とはそのような縁があったのですね」
「私も先日お会いしました」
「ただ上手く弾くだけの異世界人が、この世界での鎮魂のために弾いていいのかと悩んでいます」
「モートレルに行かせた者が現に聴いて報告を受けましたが、本人もいたく感激していましたし、同じ場所で鎮魂の曲を涙を流して聴いていた礼拝者がいたとも聞いています」
「セネルムントで教皇様の依頼を受けたのは、通常の礼拝であったからで、火山の件という実績があったからだと思います。礼拝の時にそう紹介されましたからね」
「そういう意味では、先日サイアンの火災を鎮火して下さいましたけど。レラの目も見つけて下さって、お爺様とも面会しました」
まあ実際、ギャバン神にも弾いてくれと言われている。
「ギャバン神からも彼女を薦める声が降りてきたのです。図らずもザクスンで実績を作っていますし、私も聴いてみたいものです」
「そ、そうですか」
やっぱり神託だった。そうでもないと教皇は動かないだろう。
「それとセネルムントの話しを聞いたのですが、巡礼者向けの名物料理が好評だとか。カレーとかいう辛い食べ物で、アリシアから伝えられたと」
「そ、そうですね。折角遠くから来た巡礼者を美味しい料理でお迎えするという試みですので」
「お姉様、辛い料理といえば我が国です!」
「そうでしたね、赤い、辛い料理が名物の国ですね」
アリシアもやどりぎ館でもそういう料理も作るし、時々辛いカレーも作る。
この国はフラム王国よりも米を食べるという特徴がある。香辛料やいわゆる唐辛子系も結構流通しているので、カレーを食べるには丁度いい下地がある。
「セネルムントには負けられません」
教義の関係で平民の巡礼者が少ないので、彼ら向けの料理はあまり出番は無いけれど、いないわけではないので、ギランドルももうちょっと頑張って欲しいと思う。
でもプリシラがくいくいとアリシアの袖を引っ張ってきた。
「ギャバン教にもカレーをお願いします」
「多分イリーナに怒られてしまいます」
「ええー、意地悪しないで下さい」
ポカポカと腕を叩かれてしまった。この王女様、プライベートな面ではやっぱり変わってないかもしれない。
しかし、よりによってギャバン教にカレーを教えたら間違いなく文句を言われるだろう。これでも特別名誉神官。正規の神官ではないけれど。
「ともかく、今は事件を解決させることが先決ですね。貴方が発案の魔法も伝えていただきましたから、有効に使わせて貰いましょう」
「冒険者時代なら何か手助けが出来たんですけど、自由がきかない身になってしまいましたので…」
「もう何度も来ていただいているんです。それで充分ですよ」
大人になったとかいうと現役の人に申し訳ないけど、自分も立場が変わっちゃったんだな、と最近自覚してしまう。まあ冒険者をやめたのは自分の選択だけど。どうせもう冒険者は無理な所まで来ていたし。
「では、また何か情報があったら持ってきますね。帰ってきたばかりですし、そういう意味で今回の鎮魂の儀は参加したいですから」
「ええ、ありがとうございます」
「それでは、って、言っていいんですかねえ」
アリシアは窓のところまで移動して、外を見た。
空を見上げると、町の外で一匹のドラゴンが、竜騎兵と戦っている。
「ドラゴンが来てますね」
「え、そうなんですか?」
プリシラと教皇も窓の外を見ると、王国の竜騎兵が複数、一匹の中型のドラゴンとが空中戦を行っている。
戦況としては数の多い竜騎兵が優勢で、チクチクとダメージを与えて、ドラゴンは弱っていきドンドン高度を下げている。
「さすが我が国の竜騎兵隊ですね」
「あんなものまで来るとは」
ただアリシアはその姿に違和感を覚えた。
「あれ、ドラゴンなんですか?」
退治されている方のドラゴンみたいなのは、直接出会ったことは無いけれど、アリシアには見覚えがある。
軍のデータか教科書か、シャーロットが持ってきた本だったか、違和感のあるドラゴン。なぜあのドラゴンは羽とは別に小さめの前足があるのか。あんなドラゴンはこの世界にはいない。
「お姉様、あれはドラゴンですよ。大きな羽で飛んでいるじゃないですか」
竜騎兵からは一斉にを吐きかけて、火だるまになったドラゴンが地面に落下していった。
「プリシラ王女、あれの死骸を見せて貰っていいですか?」
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