二人の客人 -6-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
やどりぎ館での昼食を終えてひとごこち着いた所で、アリシア達は4人で騎士団に向かった。
榊が使う武器は、急に腕試しをしようと決まったので、霞沙羅の練習用の刀を持ってきた。
服装は作務衣と雪駄。でも現代の侍と呼ばれる榊はこの姿で全く問題無く実力を発揮出来る。
「吉祥院さんは本番用の杖ですね」
杖にはアシルステラ向けの変換装置を取り付けたので、こちらでも充分に稼働する。先端が雷を象ったギザギザの意匠になっているので、中国の戦国武将でお馴染みの矛のような姿になっている。
切断能力は無いけれど、吉祥院の身長よりも長く、大きな手に合うように太く、本人の腕力もあるので打撃武器としても使える程頑丈に出来ている。
「相手がヤマノワタイの魔術とはいえ、負けたのが悔しいらしいぜ」
「向上心を忘れてはいかんでごんす。榊がヒルダ殿に挑戦するように、ワタシはルビィ殿に対決を申し込みたい所でありんす」
相変わらず絶句している町の人達を無視して、4人は騎士団の敷地に入っていくと、こちらも相変わらずヒルダが仁王立ちして待っていた。ヒルダは軽めの鎧で簡易的に武装していて、やる気を感じる。
後ろにはルハードを初めとした騎士団の上役達と、視察中のランセルが椅子に座っている。
「お、ルビィ殿がいるでありんすよ」
「何しに来たんだろ?」
キリンを連想させるような意外に素早いステップで吉祥院がルビィのところに向かっていく。
「ルビィ殿、今度魔力での力比べをしようではござらぬか」
吉祥院にもいい相手が出来てよかったなと霞沙羅は思う。やっぱり自分達とまともにやり合える人間は少ないから、実力を測るのには一人でもいい勝負が出来る相手は欲しい。
そしてヒルダと榊はまた握手をして、静かに闘志を燃やし始めた。
ルビィは探知装置の観測に来ていたようで、ヒルダが腕試しをやるというから見学しているのだそうだ。
「それがキッショウインさんの杖なのカ?」
ルビィは轟雷の杖を持ってきている。場所を選ばずに普通に使えるようになったから持ち歩いているんだろう。
「色々ありましてな」
ヒルダと榊はお互いに距離をとった。
「終わる時はお互いのタイミングで止めてくれるといいんだが」
「ボクが偽名だった時、ヒーちゃん止めてくれなかったんですよねー」
「ダメな時は全力で行くしかねえな」
今日は手抜きをする気のない吉祥院は、全力で結界を張った。
「おお、すごイ」
サイズはフットサルのコート程度だけれど、結界の強度はこれまでのアリシアの結界を凌駕する。
そしてそれを確認した2人は突然斬りかかった。
「ヒーちゃん、ちゃんと練気になってるなー」
身体能力も上がっているし、剣の方にもうっすらと「気」が乗っている。
「しっかり強化してやがるな。あの後教えたのか?」
「全然、ずっと基本だけやって貰ってるんですけど。前回の霞沙羅さんがやったので学習したんじゃないですか?」
「さすがというか何というか」
何度かの斬り合いを通して、腕力ではヒルダ、速度では榊に分があることが見て取れた。双方それは理解したようで、攻め方受け方を変更した。
それにしても吉祥院の結界の中にいるにもかかわらず、大気を震わせるような壮絶な斬り合いになっている。
「うわ、ウチの娘強すぎ」と改めて思っているルハードと、「うわ、ウチの国の英雄強すぎ」と思っているランセルもいる。
二人が切り結ぶ度に、何の機能もついていないのに軽く衝撃波が飛び、剣と刀で受け止める度に地面から土埃が広がって、空に舞い上がっていく。
一般的な剣士では目が追いつかないほどの速さで走り回り、所々で金属音がして、激しく火花も散る。
「あのアリシア君の前衛だけある」
「3人だけでやってただけあるわね」
お互いに楽しそうだ。これ以上無いくらいに。
「吉祥院さんの結界もすごいナ」
ヒルダも榊もどこまでいけるのか模索しながらの打ち合いの中、まだいけるまだいけると、限度をどんどん引き上げていく。
そしてお互いに足を止めての、高速の斬り合いが始まった。
「うわー、絶対中に入りたくない」
「何とかなるとは思うが、いやー、あれは嫌だな」
結界の中に旋風が荒れ狂う。2人で竜巻を作っているような感じだ。
それでも2人の体にお互いの武器が当たることはない。完全に互角の勝負を展開している。
「あ、アリシア君、中は大丈夫なのかね?」
ルハードが心配して声をかけてきた。いざとなった時、中の2人を止められそうなのはアリシアと霞沙羅しかいない。
「楽しそうにやってますよ」
結界に、それた斬撃が飛んできて、バンバン音を立てて外の大気を揺らす。ところが
「あ、ダメそうだな」
霞沙羅の言葉通り、ヒルダの剣が根元の方で折れて、空中で粉々に砕けた。これまでの斬撃でのダメージが蓄積して耐えられなくなったようだ。
だが、ヒルダも榊もまだ足りなかったのか、榊は刀を投げ捨てて、最後にお互いに拳を繰り出して、拳どうしで一発打ち合った。
「榊とは長い付き合いでござるが、いやはや大変な相手を見つけちゃったでやんす」
大きな衝撃と共に2人の拳と拳がぶつかり合った所で、動きが止まった。
それを確認した吉祥院は結界を終了させると、その中は斬り合いの余波で地面が削られて、2人のいる周辺だけ丸く窪んでしまっている。
「私の負けね」
「いや、霞沙羅の勝ちであって、お前の負けではない。自慢では無いが武器に差があった。そうだろ?」
「まあなあ、これ、腕は悪くないがそこらの鍛冶屋で作ったヤツだろ。粉々になってるな」
霞沙羅もバスタードソードの残骸を手にした。
「ヒルダが無意識の練気を纏わせて私の刀と渡り合ってたが、素材が保たなかったな」
霞沙羅が右手を差し出すと、榊は刀を返してきた。こちらは無傷だ。
「とはいえ、ちょっと確認するか」
これで何度もアリシアともやりあっているから大丈夫だとは思うが、一応整備をしておいた方がいいだろう。
「榊は近いウチにやどりぎ館に住むことになるから、私がお前の練習用を打ってやろう。そうでないといつまでたっても勝負がつかない」
霞沙羅は剣の残骸を磁力を使って回収して、持ってきていた袋に放り込んだ。
「ハルキスも同じ事が起きるぞ。前回も私が斬ったしな。一旦直したがやっぱり打ち直すから、ちょっと待って貰っていいか?」
「え、ええ」
「これも研究だ。タダでやってやる」
達人向けは練習道具であってもいい研究材料になる。
「今日のところは煮え切らない結果になったが、また来る」
「ええ、待っているわよ」
榊とヒルダはまたがっちりと握手をして、腕試しは終わった。
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