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いつか帰るその日まで -3-

 なぜか冒険者達が集まっている賑やかな正門を抜けて、伽里奈は冒険者ギルドの建物に入った。


「どうしたんです?」


 ギルドの職員が入り口から外を見ていたので伽里奈は尋ねる事にした。そういえば日中だというのに、ギルドの中はがらんとしている。


「いえ、騎士団の方から大きな音と竜巻みたいな土埃が上がっていたから、何が起きたのか皆気になっているのよ」

「騎士団の訓練で何かの魔法でも使ったんじゃないですか?」


あんななまくらの剣でも、英雄同士が斬り合えばちょっとした災害みたいになるのだ。この後はそこら中で割けたり割れたりしてしまった地面も、これから直さないと使い物にならないかもしれない。


「そう? まあルビィ様も来る場所だから、そうかもしれないわね」

「ボクは依頼を見せて貰いますよ」


 最初は誰もいなかったけれど、騎士団の方から「見せもんじゃねえぞ」とでも言われたのか、次第に冒険者達が帰ってきて、ギルド内は本来の賑わいに戻った。


「ゴースト騒ぎは落ち着いたのかな?」

 旧古戦場のゴースト関係での依頼はもう殆ど無くなっていた。まだ警戒しているのか、行商人からの護衛依頼はいくつか残っていたけれど、調査系はもう無い。


「ゴーストってどうなったんです?」


 伽里奈は側にいた職員に声を掛ける。


「あの件は王都からギャバン教の神官達が来て、鎮魂の儀式をやってから納まったみたいよ」

「それはよかった」

「ホントによかったわ」

「お姉さんはそういうの苦手だったりします?」

「え、まあ、そうね」


心底ホッとしながら、ゴースト系の依頼を1枚剥がした。もう用がなくなったのでキャンセルがかかったのだろう。冒険者の飯の種が1つ無くなってしまったけれど、どのみち誰かが解決したら無くなる部類の依頼だ。永久にあるわけじゃない。


「君は最近見かけるけど、冒険者になる気は無いの?」

「無いですよ。ただの情報収集でーす」


 ―ボクの冒険はもう終わりました。多分まだ登録は生きているだろうけれど、もうやる気はありません。


「それでは」


 職員と別れて、別の依頼を見て回る。大なり小なり、今日も魔物討伐なり色々あるなあと見ていると、1枚の依頼が目に止まった。


「説明は9番窓口まで」


 人捜しである事と、それにしては高額な金額が書かれた依頼書がかかっていた。


 9番窓口というのはとっても特殊な案件で、身分の高い人からの秘密の依頼であったり、内容的にかなり危険が伴うモノであったり、報酬は高いけれど難易度が高いモノを指す。


 どこの誰から、という表記は見えないが、依頼主はこの町在住の人であるとは書いてある。依頼を受ければギルドから教えてくれるだろうけれど、この時点では匿名。ギルドに貼られた正式の依頼書とはいえ、正直あまり受けない方がいいと思われる。


「悪いが早い者勝ちだぜ」


 伽里奈の横から手が伸びてきて、その依頼書を掲示板から剥がしていった。姿を見ると年齢はバラバラの6人の冒険者だ。10代半ばの若い神官から40代の魔法使いと年齢幅が広い。


 依頼書を取ったのは、雰囲気的にリーダーらしき剣士の男。20歳はまだいっていないくらいの年齢。鎧はやや年季が入った感じで、初心者というわけではない。


「いえ、冒険者ではありませんので」

「なんだ、やけに熱心に見てたからどこかのメンバーかと思ったぜ。じゃあ遠慮無く貰っていくぜ」


 伽里奈の見立てでは、そこそこの経験と腕前はあるのだろうが、9番依頼はどうだろうという感じだ。正直、ここで全員殴り倒して、また貼り直した方がいいんじゃないかと思ってしまったが、そんな目立つ事はしたくない。


 リーダーの魔剣が一本、神官のハンマーと魔法使いの杖もちょっとした魔装具のようだから、そこそこ戦闘力は高いようには見える。


 だがもう他の冒険者がどうなろうと伽里奈にとっては知った事ではないと、抑えた。


 高額な依頼を受けようと6人が意気揚々とカウンターに向かっていくのを見送っていると、40代半ばの女性職員がやって来た。


 この人の顔は覚えている。


「裏で注意はさせるが、どうだろうねえ。ここ2ヶ月程、この町を拠点に活動してる連中だよ。最近討伐した盗賊から魔剣を手に入れたとか言っていたが、やはり実力不足なんじゃないかねえ」


あのリーダの魔剣の事だろうか?。最初にここに来た時に魔剣持ちの盗賊の討伐という依頼があったけれど、それで手に入れたのなら、パーティー全体としてはそこそこの実力はあるのかもしれない。


「所長」


 いつの間にかこっちまでやって来ていたさっきの職員さんが「言い過ぎ」と横やりを入れてきた。


「9番て言ったらこの子とか、あの6人ならいいんだけどねえ」

「ヒルダ様達なら何でも出来そうですけど、って、この子ですか?」


 この子、こと伽里奈ならいけるんじゃないのかと言われて若い職員は驚く。


「ただの魔術士じゃないね、魔導士級だね?」

「やっぱり解ります?」


 以前は副所長さんだったけれど、自分がいない間に所長になったようだ。この所長さんは20年以上も毎日色々な冒険者を見ているから、勘が働くのだろう。ここは変に誤魔化す事はしないほうがいい。


「え、この女の子ですよ」

「しかも男だ。まるでアリシアみたいだねえ」

「憧れちゃいますよね」


 ギルドの壁に6人の肖像画が貼ってある、そういえば4年前に「アンタ達は有名になる」と、魔女戦争前にこの人に描いて貰ったんだと思い出した。懐かしい髪型をしている。


「アンタが見て、変なのがいたら注意して貰ってもいいんだよ」

「冒険者は自己責任ですからねー」

「割り切ってるねえ。私らも仕事は紹介するが命の保証はしない、確かにそうだろうよ」


 受付窓口で待っていた6人は、9番の案内担当が出てきて、説明の為にギルドのバックヤードに連れて行かれた。


「どうなる事やら。アタシとしては断って欲しいんだが、あいにくそういう場所じゃないしねえ」

「所長」


 そう言って所長さんと職員さんは事務所スペースの方に行ってしまった。


  * * *


「ここもあんまり来ない方がいいかなー」


 とりあえずもう少し依頼を眺めてから外に出ようとすると、町を視察中のヒルダがギルドに入ってきた。


「あら買い物じゃなかったの?」

「いえ、ちょっと情報収集に。町の外で何が起きてるのか気になるじゃないですか」

「随分と勉強家なのねえ。ところで今少しいいかしら?」


 ヒルダは伽里奈をUターンさせて、グイグイとギルドの一角にあった、いくつかのテーブルと椅子が設置されている打ち合わせ場所みたいな所に案内してきた。


「さっきの件ですか?」

「いえ違うわ。あれはお父様に怒られてしまったので、諦める事にしたの。今頭にあるのは別の件、料理の事よ」


 お付きの2人に監視されながら、どうやらカフェスペースだった所に、ヒルダと対面で座らされた。カフェなんてこの世界にあった記憶は無い。でも机の上にはメニューが置いてあって、お茶とお菓子が注文出来る。ひょっとしてヒルダの仕業だろうか。


 ヒルダは職員を捕まえてお茶を注文すると、改まった様子で伽里奈を見る。


「マカロン? 美味しかったわ。それでね、たまに5人で屋敷に集まって現状報告とか昔話とかやってるのよ」

「5人? そうなんですか」


 あれから3年経っても自分を除いた5人は定期的に集まっているようだ。それぞれの場所でそれぞれの道を歩んでしまったら、普通はなかなか会うことはない世界だけれど、珍しい事だと思う。


「その時につまむモノ、ちょと作ってくれないかしら」

「ええ、それくらいなら、むしろ光栄です」


てっきり「すごいのがいる」と顔合わせさせられるのかと思ったけれど、とりあえず伽里奈の事は諦めてくれたようで、次は料理の依頼をしてきた。今の境遇を考えるとなんか悪いので、断りづらい。


「食材の代金はこっちで出すわ。後で言ってくれれば支払うから」

「まあそれなら」

「2皿くらいでいいから」

「そうですか」


やがてお茶がやって来た。


 よく見ると他の席でも冒険者らしき人達がお茶を飲んでいるので、本当にカフェ的な事をやっているようだ。以前はこんなモノは無かったが、立ちっぱなしで依頼を受けるとか受けないとかの相談をするよりはいいかもしれない。命のやり取りでもあるから、お値段に左右されず、お茶でも飲んで一旦冷静になって考えて欲しいものである。


「ルビィいるじゃない。あなたが作った冷蔵の札の話をしたら興味を持っちゃってね」

「ルビィさんてラスタルにいる人じゃないんですか?」

「連絡用にね、彼女が作った鏡があるのよ」

「魔工具ですか。面白いものを作ったんですね」


 ネット会議ソフトみたいなイメージだろうか。無関係の人間が繋がっていないからセキュリティーは抜群なんだろう。集まるという話をどうやっているのかと思ったら、そんな道具があったのだ。学院に帰ったルビィが研究がてら作ったのだろう。


「それとキャンプで作った3食あるじゃない。あれ全部、作り方を教えて貰えない? この2人もチーズが乗ったパンが気に入っちゃったみたいなの」

「そうなんですか?」


 ピサパンのことだ。見ると護衛の2人はちょっとニコニコしている。


「いいですよ」

「レイナードもそうだけど、演習から帰ってきた隊員全員がまた食べたいって言ってたから、今後も新しい料理を増やしたいのよ」

「良い影響が出たなら、参加した甲斐がありますね」


 護衛の2人をずっと立たせておくのも悪いので、適当に話を切ってヒルダは視察の続きに出ていった。


「それにしても、9番の冒険者達は結局出てこなかったなー」


 依頼者が極秘裏に、という事もあって、その場合はバックヤードで話を聞いて、裏口から現場に向かうという事もあった。今回もそうだとするなら、受けたという事になるのだろう。


 見たところ一番高齢の、魔術士のおじさんはそれなりに経験がありそうだったから、無事に帰ってくるのを祈るしかなさそうだ。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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