二人の客人 -5-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「ゆっくり眠れました?」
予定ではアンナマリーの仕事始まりと同時刻に出掛けるわけでは無いけれど、ランセルは同じ時間に朝食をとることとした。
「窓から見える雪景色にしばし見とれてしまったが、快適に眠ることが出来たよ」
モートレルに行く際はスーツに着替えるのだが、作務衣姿で食堂に現れた。
「この服はなかなかいいね」
眠る時は持って来たパジャマであったけれど、室内着としてはラフに使う事が出来る作務衣を気に入ったようだ。
雰囲気にも慣れたようで、態度も少しラフになっている。
「お父様、おはようございます」
アンナマリーも朝食のために2階から降りてきた。
今日は休日のシャーロットはもう少し後で起きるといっているので、まずは食卓に座った2人から食事を出した。
朝食はそう凝った料理は出ないけれど、丸いオムレツやコンソメスープなど、ちゃんと作っている事も解る。
そしてもうカレーの鍋が弱火で煮込まれいている。
「お昼ご飯は、騎士団のものを食べるんですよね?」
「ああ、まずは食べてみなければ我らの騎士団に提案が出来んからな」
ヒルダにはカレーは出さないで、と言ってある。
でもランセルのその一言に、ちゃんとした人なんだなと思った。いくら騎士団用の料理の提案といっても、将軍が現場のものを食べることはしないだろう。
ヒルダは2年間の冒険者生活で庶民料理にも慣れているので、実際に食べて意志決定をしているけれど、この人は基本的に王都を中心に仕事をしていた貴族の騎士。
でもよく考えれば、対帝国に魔女戦争、盗賊や魔物対策などで現場を経験してはいるだろうから、少年の頃から高い地位にあった人、という意識があって、アリシアも勘違いしていた。
それでも将軍として今になって、「食べてみないと」と経験して現場を変えようとしているのにはちょっと驚いてしまった。
霞沙羅と吉祥院は深夜まで話をしていたのか、まだ来る気配は無いので、システィーがアマツだけ連れてきた。
榊も2階から降りてきた。
「榊さんはどういう部屋にするんです? 一応畳部屋にも出来ますよ」
なんだったら部分的に畳を敷いてもいい。
榊の家も和の家なので、畳部屋に布団を敷いて寝る生活をしているから、前面洋風のこの建物はどうだろうか。
「研修所がベッドだったんだ。半年もいて考えが変わってしまいそうだ」
「途中でも変えられますからね」
「そうか。考えておこう」
榊からは指定されていたので、茶碗一杯のお茶漬けを出した。
その後、今日も占いの営業があるフィーネも降りてきたので、朝食を出した。
ヒルダとの腕試しは午後からなので、霞沙羅と吉祥院は遅く起きても大丈夫だ。
ひとまず先に食事を終えたアンナマリーは、いつもどおりモートレルへ出勤していった。
* * *
今日のランセル将軍はパスカール家が相手をするので、アリシアは屋敷まで送り届けてからやどりぎ館の仕事に戻る予定だ。
中の町の屋敷には既にルハードもやって来ていて、早速ヒルダの執務室に案内された。
「じゃあ昼食のあとに榊さんを連れてくるからね」
「いつも私からでハルキスに悪いわね」
「館がこの町に繋がってるからねー。それに榊さんは霞沙羅さんが声をかけた時に、ちょっと渋ってたから。最近になってやどりぎ館に住むって言いだして、急に部屋を見に来てる最中なんだ」
「そうなのね。それからギャバン教から手紙を渡したいって言ってたわよ。何の話?」
「対レラ用の魔法をギャバン教にも伝えましょうかって、王様から連絡が行ってて、それの返事だと思うけど」
「あれは、確かに今必要ね」
ランセル将軍はヒルダ達に任せて、やどりぎ館に帰る前に、神殿に向かった。
「アリシア殿、教皇様より手紙を預かっております」
この神殿の司祭から手紙を受け取り、目の前で中を確認する。
「どのような内容ですか?」
「今ザクスンで魔族の出現が確認されたんですけど、ボクが対レラ用の魔法を持ってて、それを教えますけどっていいう話を、マーロン国王経由で伝えていたんです。それの回答ですね」
「アリシア殿の噂は聞いておりますが、そもそも魔術師なのでは? なぜそのような事を?」
「専門の神官としてイリーナがいたので、それで神聖魔法を教えて貰って、旅の途中で魔族に何回か会ったので、作ったんですよ」
「先日の講義といい、器用なのですね」
「ボクはそこまで信仰にこだわりがないので、どこまで行っても魔術師なんですよ。何でもかんでも研究しちゃうんですよね」
手紙の内容は、対レラの魔法についてはセネルムントにも確認をとったので「是非お願いしたい」だった。
それであればこの結果を一旦タウに伝えて、ギャバン教に教える準備をする事にしよう。
「ボクは専門では無いので、司祭様のような本職の神官さん達に比べると、使用が許される魔法には限界がありますけどね。ただ魔術師的な発想で、神聖魔法を捉えているだけで、多分神官によっては嫌がられる考えかなって思ってます。神聖魔法の殆どは神様からの天啓によるものですから、それを勝手に改造するな、って」
「以前にこちらの神官フロイトに伝えた、専用の治癒魔法は面白い考えかと思います。戦士を守るのも我々の役目ですから。それにアリシア殿のやり方がダメであれば、オリエンス神も奇跡の力を貸す事は無いでしょう。ですので可能であれば、ギャバン教にもその他も教えて欲しい所です」
「そういえば忘れてましたね」
あの後誰も言ってくれなかったから、炎症を抑える治癒魔法だけで終わってしまっていた。
また纏めておかないといけない。アンナマリーの勉強のネタにもなるだろうし。
忘れていたことを思い出して、ギャバン教での用事を終えたアリシアは、次にオリエンス教の教会に向かった。
「協会の中を見せて貰っていいですか?」
「アリシア様、これはこれは」
こっちの教団では特別名誉神官であることは知られているから、すんなり教会内を見せてくれた。
神殿ではなく教会という格の落ちる施設なので、建物自体が小さく、礼拝のスペースも、その辺の食堂くらいの広さしか無い。座席にしてもつめれば30人くらいが座れる程度。
オリエンス神の銅像も大きめの置物くらいのサイズで、オルガンなんてものは無い。
それでも地方都市として栄えているモートレルの商売人や旅の商人などからの信仰は受けているから、運営に困っているわけでは無い。
「神官さんは何人いるんです?」
「4人で運営しているところです」
4人であっても、有事の際、例えば魔女戦争の時など大きな戦いがあれば、騎士団にバックアップとして参加するなどしているから、パスカール家から少額とはいえ補助金は出ていたりする。
「あのー、時々イリーナが来るじゃないですか、ヒルダと鍛錬をしに」
「そうですね、ルビィ様が運んで下さって。我々は教会ですから、転移装置が無いもので」
「それをですね、解決出来そうなので、どこに置こうか考えているんです」
「え、そんなモノがあるんですか?」
「1人か2人くらいしか運べないんですけど。このくらいの箱でやるんですけど。できたら銅像の近くに埋めるか収納するかしたいです」
「そ、そうですか、あの銅像が乗っている台などはどうでしょうか」
オリエンスの銅像は小さいので、礼拝に来た信者にも見えるように木製の台の上に、倒れないようにしっかりと留められて乗せられている。その台には幾つか引き出しがついている。
開けて貰ったけれど、中には何も入っていない。
「これに入れてもいいですか?」
「ええ、そういう用途であれば、最適かと思います」
オリエンスの像はセネルムントの大神殿にある大きな像との縁を繋ぐものなので、門となる道具がそのすぐ足下に置けるのであれば具合もいい。
「じゃあ今度イリーナを連れてきますので、その時にお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
あの有名な英雄アリシアがある程度確信を持ってやろうというのだから、間違いはないだろう。
神官は頭を下げてアリシアを見送った。
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