二人の客人 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
セネルムントとは泉質の違う温泉で久しぶりにゆっくりしたランセルは、説明されたとおりに作務衣を着て、お風呂から出てきた。
そうするとソファースペースが賑やかになっていた。
ドア越しに娘から話は聞いている。どうもこの国で、6年前に大きな戦いを終結させた3人の英雄が揃ってしまったという事。
将軍とはいえ、自分は一人の武人。それはそれで面白い出会いなのだが、一名だけ背が高いのがいるから驚かないようにと言われている。
しかし増えている男性には驚くほどの身長は無い、のだが、確かに一人ソファーに座っているはずなのに、近くに立っている娘と比較してスケール感が違う女性がいる。
「…」
だが自分は将軍。しかもここは異世界。それが常識であれば相手に失礼かと思い、声を押しとどめた。
「アンナマリーのパパさんは中々の武人でござるな」
「ランセル将軍。久しぶりですね」
「カサラ殿とは火山の褒賞の時以来でしたな。娘が世話になっている」
「それでこの2人が私の仲間です。共にこの国で軍人をやっています」
「吉祥院千年世、と申す。魔術師で候」
「榊瑞帆、剣士です」
「ランセル=エバンス。フラム王国の三人の将軍の一人で、アンナマリーの父です」
手が大きい。
吉祥院の握手は、大人なはずのランセルの手がまるで子供のように包まれてしまうほどだ。
それとまた、追加で現れた榊が同じ作務衣を着ているのを見て、ランセルは安心した。
女子のような外見の伽里奈が着るよりも、よっぽど説得力がある。
それであればこの家にいる間はこれを着ていよう。肌触りから生地の良さも解るし、着心地は悪くない。デザイン的にもシンプルで、確かに気楽でありながら、妙な品の良さを感じる。
大きな吉祥院が着ている服ともデザインに共通性があるので、この国の民族衣装的なものなのだろう、と思った。
「じゃあヒルダに会ってくるか」
「もう会うでありんすか?」
「明日に備えて貰おうぜ。私と一緒な感覚で榊を待ち構えられても困る」
「いきなりやるつもりでやんすか?」
「榊はやる気なんだろ? ヒルダなら間違いなくやろうといってくるはずだぜ」
「そのヒルダは刀についての知識はあるのか?」
「一回刀で相手をしたし、私はいつも長刀だ」
「では大丈夫だろう」
そこで吉祥院が立ち上がった。
「うぉ」
ランセルはソファーに座ってしまったので、ぐんぐん伸びる吉祥院の身長に、声を出してしまった。
「まあ普通はそうなるでありんすね」
「し、失礼」
「アンナちゃんは腰を抜かしてたでありんすよ、ほっほっほ」
「あれは朝っぱらだったんです。事故です、事故」
朝っぱらからこんな大きな人に会えば、腰を抜かしてもおかしくはない。
「ヒーちゃんのとこ行くの?」
シチューとカレーの煮込みを一旦止めた伽里奈が話に入ってきた。
「お前も来るのか?」
「ボクかアンナマリーがいないと帰って来れないですよ」
「そうだったな。じゃあ来い」
「はーい」
アンナマリーはランセルと話もあるだろうし、伽里奈達は裏口からモートレルに行ってしまった。
「すごい環境だな」
悪い人ではなさそうだが、やっぱり吉祥院のインパクトは大きかった。
「三人も揃うのは今回が初めてです」
* * *
吉祥院がモートレルに来るのは今回で3回目。
日が傾き始めた町はまだ仕事中の人も多いけれど、やはりまだ町の人はこの大きさに慣れない。服が白と赤で綺麗なのも目立つ要因ではあるけれど、それでも危害を加えようという意志は無い事は解っているので、「おお、また来た」と見上げるだけで通り過ぎていく。
「日本でも地元以外に行くとこうなるしな」
騎士団の門番もまだ慣れていないけれど、アリシアが連れてくる人物なので害は無い、と過度に戸惑うことなく通してくれた。
彼によるとヒルダは丁度、厨房の人と夜食の話をしているというので、榊を連れてきた、と呼びに行くと喜んで出てきてくれた。
「この人が」
ただ立っているだけでも強者であるヒルダは、同じ強者である榊の強さが一目で解った。体が引き締まってるとかどうこういう話ではない。これはただ者ではないと感じてしまった。
それは榊の方も同じで、ヒルダの強さを読み取って、自然に右手が前に出て、2人ともがっちりと握手を交わした。
ここはアシルステラとかいう世界だそうだが、自分には関係が無いと渋っていたけれど、来てみて良かったと、今榊は感じた。
数ヶ月間、日本中の警察から集められた精鋭達を見てきたが、やはりまともに榊の相手が出来るような人間はいなかったから、やっと会えたというその思いも大きい。
本気でやりあえば、魔術も使ってくる霞沙羅とはいい勝負になるけれど、そうではない。
純粋に剣による戦いで、これほどまでに自分の力を披露出来そうな相手は本当に久しぶりだ。
まだ自己紹介もしていないけれど、もう気に入った。別世界の人間だとか、女性だとか、ちょっと年下とか関係ない。ただただ強い者と戦いたい。
「聞く所によるともう一人いるそうだが?」
「ハルキスは遠くに住んでるから。今度呼びますよ。あの、明日はランセル将軍を案内する予定なので、時間が無いかなって思うんですよね。絶対ハルキスとの戦いも見ちゃうと思うんで」
「一日中斬り合いたいわ」
「気が合うな。お前とならこっちから頼みたいくらいだ」
早くもイメージ内での斬り合いが始まっているみたいだ。そろそろ握手をやめて欲しい。
「やめようよー、そういうの」
実際、剣の腕では霞沙羅と同等くらいのアリシアであっても、最初から気に入られたものだ。
「おーい、明日やってくれ」
予想はされたけれど、霞沙羅も呆れるような反応だ。
「あのちょっと反った細めの剣を持ってくるのよね?」
「刀という武器だ。お前は?」
「私はバスタードソードという大きな剣よ。レイナード、私の鍛錬用を持ってきて」
ヒルダなりの礼儀で、霞沙羅から刀を見てしまっているので、榊が知らないのは良くないと、自分の武器を見せるつもりだ。
妻の様子を一歩引いた所から見ていたレイナードが練習用とはいえ、頑丈に作られている剣をもってこさされた。
「そろそろ手を離そうよ」
「そうね」
お互いにゆっくりと手を離していった。
ハルキスの時もやりそうだ。
やがてレイナードが持ってきた大きなバスタードソードを、片手で軽々と受け取ったけれど、刀の数倍の重さがある。それを見て榊は「解った。受けて立とう」と頷いている。
「榊、明日でやんすよ」
バスタードソードをヒルダに返した榊の右手が何かを探していた。今日は挨拶だけなので何も持ってきていない。
「これは私が結界を張った方が良さそうでありんすね。私も今の榊が同等の相手とやりあうのは初めてだっちゃ」
「今のハルキスとヒーちゃんの鍛錬で結界を張ったことはありますけど、結構キツかったです」
「じゃあワタシがやるだっちゃ」
結界とはいえ達人同士の戦いの補助となればそれなりの魔力を必要とする。そんな機会も吉祥院的にもなかなか無いので、鍛錬に利用しようという魂胆だ。
しかしルビィと単純な魔力合戦をやってみるのもいいかもしれない。
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