幻想獣対策準備
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
伽里奈が作り出した対レラ魔法が地球側でも使えないかと、霞沙羅はセネルムントでの研修を終えてから、貰った資料を見ながら研究を始めた。
いわゆる魔族も幻想獣もお互いに神に端を発する存在なので、その考え方は使えるのではないかと思う。
極端なデメリットも存在するけれど、攻守で特化しているメリットの方が重要だし、幻想獣を相手にしている分にはデメリットは無い。
魔法の難易度は高めで、誰でも使用出来る訳ではないけれど、資料でいう「商神の剣」「商神の楯」は手持ち武器に付与するタイプなので、1つの隊に1人使い手がいればいいし、霞沙羅の発想を入れるとすれば、武器も防具もこの魔法がより効果的に発揮するような加工を施してもいい。
魔術師業界では一流として名を馳せている霞沙羅は、伽里奈と同じく神聖魔法の知識だけは並の神官では刃が立たないほど持っているし、聖法器の作成も請け負っている。
個人なのか組織なのか、それはまだ判明していないけれど、また妙な連中の動きも確認出来たのでやっておいて損は無い。
「というワケなんだよ」
霞沙羅は自分の家のソファーに寝っ転がって、電話越しに吉祥院に相談していた。
「付き合いが出来てもうすぐ4年が近いけれど、アリシア君は面白いね。我々と違って少数で活動していたからかな?」
「あいつら6人が揃いも揃って大陸トップクラスの実力者のくせに、伽里奈の頭の中は必ず全員で帰ることばっかり考えてたらしいからな」
「リーダーとしては優秀だねえ」
「逆の発想で傭兵団を逃がさなかったからなあ。私もあの時ヘマしたから、魔法での威力と魔力消費の関係を学んでいるよ。今更だがあいつ出力調整が滅茶苦茶上手いぜ」
「本職のルビィ君がいるからねえ、アリシア君は自由に動けたんだろうね」
「それでだ、資料を送った対幻想獣専用魔法の開発を検討しようぜ」
「あれは面白いねえ。厄災戦はワタシも苦労したから、軍として備えておくのは当然だろうね。ワタシの本分は魔術師だけど。鍛冶としての霞沙羅の計画なんかもあるといいねえ」
「魔法を乗せるのに最適化した、対幻想獣魔法向けの装備品は作るつもりだぜ」
「アリシア君の協力は得られそうかい?」
「それは大丈夫だろ。向こうの世界にもフィードバックはしてやれるしな」
「今は色々資料作成があってね、またそっちにも行くよ。それと榊がやどりぎ館に住みたいらしいねえ」
「あいつから聞いたのか?」
「やどりぎ館の部屋に住むんだよねえ?」
「お前な」
「邪魔者が混ざって悪いけど、3人で酒が飲みやすくなるねえ」
「おいっ!」
吉祥院がからかい始めた所でインターホンが鳴った。伽里奈が家の掃除に来ると言っていたから、丁度予定の時間になった。
「あいつが掃除に来たから切るぞ」
「また連絡するだっちゃ」
電話を切ると、合鍵で伽里奈が入ってきた。
「霞沙羅さん、掃除に来ましたよー」
「ああ、始めてくれ」
伽里奈が寝室から清掃を始めたので、霞沙羅は何となく、リビングに転がっていた、おつまみが入っていたお菓子の袋をゴミ袋に入れて、空き缶を机の上に纏めた。
「何やってんだか」
「散らかってた服とかは纏めて持っていきますからね」
「ああ」
「それとアンナのお父さんが2泊3日で来る話したじゃないですか。それに被るように、どっちかの日に榊さんも来たいみたいですよ」
「な、何であいつが来るんだよ!」
今さっき吉祥院にからかわれたばかりなので、慌てて大声を出してしまった。
「研修は終わったみたいなので、やどりぎ館の説明を受けに、あとどっちの部屋にするかって見に来るみたいです」
「も、もう来るのか?」
「実際の引越はもうちょっと先みたいですよ。榊さんも色々準備とかありますしねー」
「そうかよ」
「そろそろユウトさんも帰ってくると思うんですけど、この後どうするんでしょうね?」
「あー、そうだよな」
準備期間から大会期間までが終了するので、どういう結果であっても年始にはやどりぎ館に帰ってくるはずだ。
「こっちのジムはいいとか言ってたからな。まあ出て行くにしても、たまにジムに来るかもな」
実は館の裏門はユウトの家のすぐ側に繋がっている。日本側に来てたのはジムが良かったし、一人で集中したいから。それと榊に霞沙羅に伽里奈と、猛者が多かったので。だから退居をしてもいつでも来る事が出来る。
「そうですね」
「それから、吉祥院と組んで対幻想獣魔法の研究をするから、ちょっと手伝ってくれ」
「いいですよ。どころで、結局あの幻想獣のパーツの件とかはどうなったんでしょうね」
「また空地家がだんまりしてるからな。あいつらだけで管理するんなら、こっちにはもう迷惑かけんなって話だ」
その為の備えでもある。信用が出来ないとかそういうのではなく、そういう存在があるのなら警戒をしなければならない。空振りで済めばそれが一番なわけだけど、例の半人半幻想獣を止められるかどうかは解らない。動きを見たが、本当に伽里奈が相手をしてくれて良かった。恐らく神が伽里奈の方に誘導したのだと思われる。
本当に、元はといえば桜音が口を滑らせたのが発端だけど、伽里奈が事情を察したのは運が良かった。
「じゃあゴミと服は持って行きますからね」
よく出来た弟分は、部屋を綺麗にしてやどりぎ館に帰っていった。
* * *
「あらら、上手くいきませんでしたの?」
こちらは横浜市中区にある小さなアクセサリーショップの事務所スペース。
表向きは精巧な指輪やネックレスなどを、観光客や地元高校生に売っている小さなお店。
今の接客はアオイがやっている。
カナタの目の前には、訪ねて来た女性がいる。
「ええと、今はどちらですの?」
「稲葉清美の方よ」
「人間の方ですのね。折角成長態と融合したというのに、ダメだったんですの?」
この稲葉という人間は、個人エージェントとして千葉県警への魔術師育成のコンサルタントをやっている、国立神戸魔術大学出身の29才。
または「金星の虜」と呼ばれる、金星神マリネイラの信徒。二面性を持つ神の、闇の側を信じる者。
アシルステラで言えばレラの神官に類似する信者という事になる。
「封印の一つを持って逃げた寺院庁の人間を追い詰めたというのに、居合わせた地元の人間に追い払われたわ」
「今の北海道って妙なのが揃っているって言いましたけど、バラバラにされた幻想獣は一部の人間しか知らないハズですのに」
実験の結果は回収しているし、失敗したわけでも負けたわけでも無いけれど、尻尾を掴まれるのも面倒なので、カナタもしばらくは北海道に手を出そうとは思っていない。
それで札幌の店は引き払って、今は横浜のこのお店に注力している。
東京崩壊で人口が地方分散したので、札幌も以前より栄えているとはいえ、やはり元々人口が多い横浜というごちゃごちゃした町にいる方が目立ちにくい。
「直接軍や警察に出くわしたわけでは無いわ。ただ、地元にある寺院に逃げ込まれて、そこにいた子供が殊の外強かったのよ。融合体になっても手も足も出なかったわ」
「私も少し前の情報ですが、札幌の寺院に強いのがいるって聞いていませんけどね」
「あの新城霞沙羅には触れないようにしていたのに、思わぬ伏兵がいたわ」
そもそも寺院庁、ではなく、空地家の秘匿事項なので、予定通り軍も警察も出てこなかった。情報によると、札幌にある2つの駐屯地内に動きがあったとは聞いているけれど、最後まで外に出てくる事は無かった。
幻想獣のパーツが封印されている事を知らないし、教えてないのだろうが、内部の人間に何らかの連絡は行ったのだろうか。
だが最後の最後まで増援は無かった。
「寺院にいたという事は、寺院庁の差し金ですかねえ、あの組織も中身が解りませんし」
この稲葉が成功しようがしまいが、カナタにとっては関係ないので、誰が相手をしたのか興味は無いけれど、もし気にしていたら伽里奈だと解っただろう。
「何かしらを知っているような素振りがあったから、あの箱を迷いも無く守ったものね」
「力を得たとはいえ、あまりあの組織を侮らない方がいいのでは?」
大きな被害は出たとはいえ、厄災戦を乗り越えた国だ。要注意である英雄の3人の他にも、終戦から6年も経てばカナタが思っているよりも優秀な人間が隠れているのかもしれない。
カナタにとっては知った事では無いけれど、一応は注意しておこう。
「5個でしたか? 1つはまたどこかに移動させられてしまいましたが、計画的には大丈夫ですの?」
「よくは無いわ。それでも1つでも多く集めていくしか無いわね」
5個揃わないと力を発揮出来ないので意味が無い。それでもいくつかでも手元に置いておけば違う。
「その意気、いいじゃないですの。では折角作ったので槍を1本差し上げましょう」
「あらいいの?」
「貴方には幻想獣を手配して頂いていますからね。それで一つの結果が得られましたので、その御礼ですわ」
カナタは壁に立て掛けられていた柄が青い槍を持ってきた。
「幻想獣に持たせる武器を作るとか考えた事は無いですが、上手くフィットしますかねえ」
稲葉清美は槍を手にした。
金星神マリネイラの力を宿している訳では無いけれど、手にやたらとしっくりくる。まるで自分の手の延長でもあるかのようだ。
「次はヘマをしないわ」
「やる気満々ですわね。では二つ目のある場所をお教えしましょう。今回はあの三英雄がいない土地とはいえ、伏兵には気をつけなさいな」
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