王宮での晩餐会 -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「はい、じゃあデザートのとろけるプリンです。もうちょっと堅めのでもいいと思ったんですけどねー」
ハンバーグを食べ終わったと連絡があったので、また時間をとって学院に戻り、プリンを出した。
「アイスクリームという食べ物では無いのだな?」
「あれは道具が一つしか無いので、お城の方で使ってます。前回欠陥もありましたしねー」
「後日食べさせるのだぞ。解らなければ推薦も出来ん」
「はいはい」
とはいえプリンも満足そうに食べている。
クリーミーでリッチな食感がお年寄りに好評だ。
「折角だしここの寮の食事に、何か提案してはくれないか。ヒルダ殿の騎士団でも色々とやっているそうじゃないか。集団向けの料理も出来るのだろう?」
天望の座所属の、理事の一人からも声がかかった。
「一食の一人分の予算があるなら教えて欲しいですね。すぐ近くの実家から通っていたので、寮で何食べてるのか知らないんですよね」
「では最近の料理と金額を、担当に用意させよう」
* * *
「凍ったデザートというのは初めてだな」
寒冷地なら家の外に出しておけば望まなくても凍ってしまうけれど、確かにこれは魔術師がいないと不可能な料理だ。
カチカチに凍っているわけでは無いけれど、液体だったものがしっかり固形になっている。
確かにこれは食べたい。
料理人達も口に入れたらどういう事になるのか興味津々だ。
そんなにいっぱいは無理だけど、アリシアがわざわざ材料を残してくれていて良かった。
「しかしアリシア、今日はお前に窮屈な思いをさせてしまって申し訳なかった。この厨房を預かる者の長として、オレが一番お前を信じていなかった」
貴族からも色々と噂は聞いていたけれど、平民出の冒険者あがり、と内心疑問符を浮かべて今日を迎えた。
それが一日付き合って、アリシアが真摯に料理を習得している事も解ったし、魔術を使って異世界にある道具を何とか再現しようと努力している。
「お前はずっと勉強をしていたんだな。指示も上手かったし、出来上がった料理はどれも素晴らしい出来で、皆自分の仕事に満足している。今日は久しぶりに良い勉強になった。これに懲りずにまた新しい料理を持ってきて、我々に教えて欲しい」
憧れの料理長さんに頭を下げられてしまった。
「いえ、ボクもお城で作っている料理がどんな物なのか解らないので、機会があったら教えて欲しいです」
「そうか。今ある料理もお前のアイデアでもっと良くなるかもしれんな。こちらからも是非見て貰いたい」
料理長が自分達の気持ちも代弁してくれたので、他の料理人達も拍手をしてくれた。
* * *
とうとう噂のデザート、「アイスクリーム」がマーロン王達の前にやって来た。
果汁を使ったシャーベットは以前に食べたけれど、明らかにそれとは違うモノだ。
「あ、あいつ」
出てきたのはバニラアイスに苺ソースが滑らかな縞模様のように混ぜ込まれたアイスクリーム。赤と白で色も鮮やか。
アリシア様はここまで出来るのかー、と何も知らない国王達よりもアンナマリーの方がその出来に興奮している。
純粋な味のアイスもいいけれど、こういうバリエーションも好きだ。しかも女子が大好きな苺。
「この前のとは少し違うな」
同じく2回目となるランセルとモーゼスも、これがちょっと違うアイスだという事に気が付いた。
「苺のソースが混ぜてあります」
「アリシア君はすごいな」
イチゴ味に作っているのではなく、わざわざバニラと苺をハッキリと分けるように混ぜている。
「どうしたアンナマリー?」
料理を知っているはずの解説役が一番驚いている事にマーロンは気になって声をかけてきた。
「いえ、その…」
アイスクリームの解説と、なぜ驚いていたのかを説明すると、マーロンも唸った。ただ、とにかく早く食べないと、溶けていってしまう。全員が興奮しながらスプーンで食べ始めた。
「!」
まろやかな味の冷たいバニラアイスに、苺の酸味が顔を覗かせてくる。
「これは、あのアリシアが作った魔工具で作られているのか?」
「私どもの屋敷でも、そう説明されました。その時は箱に少々問題があったようですが、今日は改良してきたと聞いています」
「ほ、ほお、そうなのか」
「父上、これはまた食べる事が出来るんですか?」
やっぱり子供にも大人気だ。大人からももうちょっと欲しかったという声が挙がっている。
まさか今日だけしか食べられないとか、勘弁して欲しい。
「それはアリシアにかかっているな。ではそろそろ呼んでもらえるか?」
マーロン王に呼ばれてアリシアと料理長のロビンがやってきた。
「まず今日は大儀であった。アリシアだけでなくロビン料理長、それにここにいない厨房の皆も慣れない料理を相手によくやってくれた」
「ありがとうございます」
「料理長から見て、今日の料理は今後も出来そうか?」
「魚介については運搬の問題がありますが、それが解決すれば、このアリシアからしっかりと指導を受けましたので。ただ個人的には、もう一度作る際には確認のアドバイスが欲しい所です」
「そうか。皆気に入ったようだから、完全に習得したとなれば、希望のあった屋敷へも伝えて欲しい。それとアリシア、このアイスクリームなのだが、道具は使えそうか?」
「冷気の漏れは解消したんですが、もうちょっと使って、耐久力を見てみたいですね。今はこのくらいのサイズなんですけど、最終的には冷蔵の箱と同じくらいの大きさにしないと意味がないので、もう少し先ですけど」
港町ブルックスから遠くの町に魚介を運ぶので、量が入らないと意味が無い。
「ふむ、研究者としてのお前の理想は解っているが、我々はまずこのアイスクリームという物をまた食べたいのだ」
「それであれば今の作りで耐久力テストですね」
「調理用としては使えそうか?」
「大丈夫だと思います。材料についてもお砂糖の生産も始まってますし、来年は流通も増えるでしょうしね」
「そうだな。お前はお前の仕事があるだろうが、よろしく頼むぞ」
「はい」
冷凍箱の大型化はまだ時間がかかりそうなので、まずは基礎固めをするべきだろうから、アイスクリームが食べたい人が多いなら、まずそこの需要向けのモノを生産していいかもしれない。
* * *
後片付けは任せろと厨房の人に言われてしまったので、今日のアリシアの仕事はこれで終わった。
確かにどこに何の食器が収められているのかも解らないので、残念ながらアリシアは足手まといにしかならない。お城の備品だしこれからも毎日使う現場の人に任せた方がいいから、挨拶のために会場に残った。
集まった王族や貴族の人はこれからの期待をこめた声をかけて去って行く中、アンナマリーを回収してやどりぎ館に帰らないといけないので、一旦屋敷に帰る馬車の中、ランセルに宿泊のことを相談された。
「エリアスに話をしたんですね」
「折角娘が誘うのだから、親としてその娘の生活を見に行きたいと思う」
あの館に将軍が来るの大丈夫かな、と思うけれど、同じ屋敷出身のアンナマリーが大丈夫なんだからいいかとも思う。
それにエリアスが館の説明をしてくれたようだし、それが解っていて来るなら支障は無いだろう。
「最近のモートレル騎士団もこの目で見たいという事もある。それとシンジョウカサラ殿だったか、国を守る一人として彼女ともゆっくり話がしてみたい」
「そうですか」
目的が色々とあるなら、止める理由は無い。
それに入居者の家族なんだし。
いつ宿泊しに来るのかという予定も聞いて、着替えを終えたアンナマリーを連れて、依頼の仕事をやりきったアリシアはやどりぎ館に帰っていった。
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