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王宮での晩餐会 -3-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 エバンス家でどんなやり取りがあったかを知らないアリシアは、一旦やどりぎ館に帰って、夕食の下ごしらえをしてから、学院の厨房でもハンバーグ盛り合わせの準備を始めた。


 王宮の方は準備は終わっているので、晩餐開始の時間に向けて、あとはもう少ししてから調理を始める状況だ。


「それは新しい冷蔵箱か?」


 いい年をして夕食を待ちきれなくて、ソワソワしている大賢者様と数名の賢者様が厨房にやって来た。


 こちらに持ってきた冷蔵箱は少し大きめではあるけれど、外装部が薄くて軽量化されているので、内容量が4割増しになっている。


「そうですよー。運搬するには軽くして大きくしないとダメですからね」


 これも同じく中を棚状にできるので、今はハンバーグのタネと下ごしらえした鶏肉、豚コマなどを収納しつつ、プリンも冷やしている。


「色々と考えているのだな」


 この辺りはいかに天望の座のメンバーであっても、料理が得意なアリシアに任せるしか無い。


 勿論解説を求めた際に出た疑問はきちんと回答して貰う。一つ目の箱については、実用試験の結果を報告して貰わなければならない。


「城の厨房での反応はどうであった?」

「運搬目的じゃない、この使い方を見せたら興味を持ってくれましたよ。でも本当は運搬がテーマなんですけどね」


 棚も元々は運搬用で、食材別に分ける用途だった。


「使い方については色々とあるだろう。この保管の用途も考えて研究してはどうだ?」


 今の所はなるべく軽量で箱を大きくする事が目標なので、冷蔵庫的な使い方はまた別に考えておこう。


「王は食の改善に確実に関心を持っておる。今日の晩餐は必ず成功させるのだ」


 とても魔法学院での会話ではないけれど、とにかく晩餐は成功させたい。王宮の料理人達も態度が変わってきているから、この後の調理でも十二分に力を貸してくれると思いたい。


  * * *


 学院での準備を終えて、城の厨房に戻ると料理人達が食器を出している最中だった。


 アリシアではどこにどんな食器があるか解らないから、最初に渡した写真を元にして、最適なお皿を出してきてくれている。


「ありがとうございます」

「ここまで来たらどういう料理が出来上がるのか知りたい。我々にしか出来ない事はやっておくから、アリシア君はしっかりと調理の指示をして欲しい」


 さっきお試しのハンバーグを食べて更にやる気を出してくれたロビン料理長が代表者として出てきてそう言ってきた。


 その後ろにいる料理人達も、厨房のトップの言葉を受けて、やる気のある顔で並んでいる。


「じゃあここからもよろしくお願いします」


 料理人達からの壁が無くなった所で、晩餐会の料理作りが始まった。


 各種ソースにドレッシング、ビスクにボロネーゼソースを作っていると、時間も夕刻になり、晩餐会会場には王族を始めとした国の重鎮達が集まり始めた。


「じゃあ料理作りを始めましょう」


 遂に本格的な調理が始まった。


 そして出席者全員が晩餐会会場に集まったところで、今後これは誰がやるのかという課題のある、食前酒としての冷やしたワインと、突き出しとしてスティック状にしたガーリックラスクが出ていった。


「あれはいい。今後もお出ししよう」


 パンにちょっと一手間加えたサクサクの食べ物は料理長の目にも止まった。


 元々予定が無かったけれど、そういえば足りないとアリシアが急に言い出したので、王達に対して何でこんなものを作らせるんだという声もあったけれど、出来上がってみればそのサクサク食感とガーリックバターがワインのお供に良さそうだという声に変わった。


 ワイン用とは別のグラスに入れて出すという見た目も面白かった。


 料理人はみんな厨房に籠もっているので会場の状況は解らないけれど、料理を持っていく給仕担当達から現場の評判を聞くことにすればいい。


「ちょっといなくなりますので」


 サラダとビスクはほぼ出来上がっているようなものなので、指示をして、早めにアヒージョも作り始めて貰って、アリシアは学院の寮に移動した。


  * * *


 寮の方では学院の生徒と一般職員の食事が始まっている中、厨房の人達の手を借りて、ハンバーグと鶏肉と豚コマを焼いて、付け合わせのポテトをローストして、具無しのコンソメスープとパンを用意してと、慌ただしく準備をして、タウ達が待つ、来客との会食に使う別の食堂に持っていった。


 こんなものを食べているとか、生徒や一般職員には見せられない。


「おおっ! 美味しそうだなっ!」


 残念ながら食器としての鉄板が無いので、肉汁ジュージューなワイルド感の無い、お皿の上に大人しく収まっている、お上品な盛り合わせになってしまったけれど、タウ達はその出来映えに興奮していた。


 デミグラスソースがかかっているハンバーグの見た目が、食べなくてもとても美味しそうだと解る。


「食べ終わったらこれで呼んで下さいね。デザートのプリンを出しますので」


 モートレル事件の時に活躍した、短距離用の通信用クリスタルを渡した。


「後日これのレポートもあげるのじゃ」

「それよりも食べて下さい」


 どこまでいってもこの人達は研究者なのだ。


  * * *


 魔法学院の料理を出し終えて、再びお城に戻ってきた。


 丁度アヒージョが出ていく所だったので、見た目のチェックをして、パンと一緒に給仕達が運んでいった。


「高位の魔導士とはいえ、行ったり来たりで大変だな。しかしまだ序盤だが、反応は上々のようだぞ。あの濃厚なエビのスープは特に贅沢な一品だった。この町で新鮮な魚介を使った料理というのは、作る方も食べる方も悲願でもあるからな」


 ランチ用のピラフもエビを使ったライス料理という、あまり例の無い料理だったので、作っても食べても満足度は高かった。


 今回の魚介料理は今出ていったアヒージョの次はカニとエビ二種のクリームコロッケ、そして今火にかけられたばかりのパエリア、と種類も色々。


 ロビン達もお城勤めは長いけれど、今日の料理はとてもいい経験になっている。


 しかしこのパエリア、一体どんな仕上がりになるのだろうか。


 出来るだけ大きな物を用意してくれと言われて出したフライパンからは、魚介のいい香りが厨房に漂ってくる。


 その横では自分達用の、普通サイズのフライパンでパエリアが火にかけられた。


「じゃあアイスを作ります」

「アイスクリームはその箱の物ではないのか?」

「作れる容量が少ないので、サンプル用にボクが凍らせます」

「そ、そうか」


 今日はエバンス家に集まった人よりも出席者が多いので、冷凍箱に入れた容器の容量ギリギリまで作ったけれど、厨房用のサンプルが無くなってしまった。


 折角なので、ロビン達にもこういうモノを作ろうとしているのだと、知って欲しい。


 材料自体は最初からこの為に避けてあるので、冷蔵箱から取り出して、容器に冷凍魔法を掛けた。


「あとで食べましょうねー」


  * * *


 晩餐会会場では今回も品書きが置かれていて、それに沿った順番で料理が出てきている。


 記載の無かったラスクは、細く切ったパンかよ、と思われたが、食前酒の適度に冷えたワインと共に驚かれた。


 地味なはずのサラダは魚介が贅沢に使用されていて、この後の期待を抱かせるには充分だった。


 濃厚なエビの風味を楽しませてくれたビスクは、今後このラスタルの料理が変わっていくことを予感させた。


 主催しているマーロン王は、事前にどういう料理かは画像付きで知らされているけれど、実際に出てきた料理は、サラダはともかく、やはり知らない料理。


 だからこの中で一番解っているアンナマリーに解説をして貰いながら、晩餐会は進んでいく。


 アヒージョも屋敷で出た具材とは少し違っているし、アリシアはこちらの事情に合わせて色々と考えてくれている。


「アンナマリーは色々と良い料理を食べているのだな」


 今回はマーロン国王の3人の子供、アンナマリーとも面識のある王子と王女の姿もあるので、なんだか羨ましそうな目線を向けている。


 《まだこの後、子供の好きそうなコロッケとフライドチキンとボロネーゼと最後にアイスがあるんだぞ》


「え、ええ、アリシアは向こうで色々と料理を学んでいまして。魚介はともかく、ヒルダ様のところでは、こちらの世界でも出来るのかどうか、色々と試しております」

「確かにヒルダ殿は食べるのが好きであったな。それもあって、表現の仕方は悪いが、貴族的な厨房の使い方も解っているのだな」


 話をしていると、まずフライ物とローストビーフが乗せられたプレートが出てきて、またしばらくしてパスタとパエリアが出てきた。


 パエリアは複数枚のフライパンで出てきて、それから一人分ずつ分けていく為、まずは完成品を見た出席者達は、そのカラフルで魚介満載の豪華な見た目に驚きの声をあげた。


 お肉たっぷりなパスタはやはり王子と王女はすぐに気に入った。


 そしてやっぱりこれはどこに行っても、クリームコロッケは人気だ。


 ホクホクしたポテトのコロッケも美味しいけれど、アンナマリー的にもこっちのクリームコロッケの方が口当たりもリッチで、上品な舌触りとまろやかな味が好きだ。


 一連のちゃんとした料理に、誰もが「平民出なのにちゃんと勉強してるんだな」と感心している。


 今日はアリシアが直接手を動かしているわけではないそうだけれど、ちゃんとアリシアの味になっている。


「これがローストビーフか。お前がエリックを置いて帰ったのも解るな」


 先日「食べたい」と言って帰ってしまったことを、同席している祖父のモーゼスに笑われた。


 半生というわけではないけれど、ちゃんと火が通った外側とレア気味の内側とのハーモニーが素晴らしい。火のいれかたが見事だ。


 同じ肉であってもステーキとは違う。肉もソースもあっさりとしているし、柔らかい食感も面白い。


「父上、このコロッケが美味しいです」

「私はこの鶏肉が好きです」


 でも王家の子供は揚げ物の方が良かったようだ。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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