王宮での晩餐会 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
アリシアからの指示は的確で、無事に下ごしらえが終わった食材は、中身を全部抜いた冷蔵箱に再度整然と収納されていく。
箱の中に板を追加する事で棚状になっているから出来る収納方法だ。
現在はまだお昼前。晩餐は夕方からなのでどうするのかと思っていたら、しばらく生のまま置いておく食材の鮮度を落とさない保管のやり方を提示されて、料理人達が冷蔵箱に感心している。
「こんな使い方があるのか」
アリシアは港町からの運搬用と言っていたけれど、これの一時保管用の用途で使うだけでも厨房に欲しいと思い始めている。
料理長のロビンも、よくこんなものを作ったモノだと唸った。平民出とはいえ魔法学院で魔導士階位11位という点は、畑が違うのでさすがにバカには出来ない。
魔法って料理に使えるんだと、料理人達はアリシアの冒険譚は知っているけれど、目の前に専用の魔工具を置かれてしまって、そこは13歳で卒業後すぐに魔導士の称号を得た、優秀な魔術師としての腕前を褒めるしかない。
まだ料理が一つも出来ていないので正しい評価はまた後だけれど、こんないいモノをよくぞ作ってくれたと感心している。まだ実験中とかいっているけれど、もうこれでいいんじゃないかと発注したい。
「こっちは、どう仕上がるのだ」
冷凍用の小さな箱に入れる為の乳製品が現在調理されている。
冷凍の箱もこの前の打ち合わせで見せたけれど、説明しただけでどうなるのかは見せていない。
「これは冷凍、今作ってるあの液体を凍らせるんですよ。将来的にはモートレルとか、遠い町に魚介を凍らせて運びたいんですけどね。保冷のこともあってまずは小さく作ったんです」
アリシアが冒険中に肉を凍らせて、野宿の際に料理して食べていたという話は有名だ。でも一般人にそんなマネは出来ない。
そういえば例の、騎士団が使い始めた冷蔵の札もアリシアが開発した物だ。あれは料理室では使っていないが、騎士団では重宝していると聞いている。
「私達のように魔法を使えない一般人でも、食材を凍らせる事が出来るようになるんですか?」
アイス作りをしている料理人が少しずつ打ち解けてきたような目をして聞いてきた。
「まだ小さくて。実際に運搬する機会が無いので、今はデザート用になってますけど」
「いや、我々には今のこの形の方が興味深い」
料理長としてもエバンス家の晩餐でアイスクリームという食べ物を出された事は、親交のある貴族から自慢話として聞いている。
この牛乳を使ったものが一体どんなデザートになるのだろうか。
国王が気に入れば、今後もこの厨房で作る事になるので、どんな料理か知る為に、味見程度ではあっても、自分達も食べるのだが、アイスクリーム以外も一体どんな料理が出来上がるのだろうか。
平民出だからと思っていたら、指示してくる料理行程がとても丁寧だった。
カリーナの宿は最近謎に美味しい料理が出てくると聞いて、こっそり食べにいったが、味は問題無いが大衆向け料理なのでそんなに丁寧な料理では無かった。
美味しかったけれど。特にエールとあわせて注文した鶏の唐揚げは病みつきになるほどだった。ジューシーな肉汁とサクサクの衣と、カリッと揚がった鶏皮が特に良かった。
「お前は何を作っているのだ?」
「学院用の肉料理に使うソースですよ」
「ソースだけをもう作り始めているのか?」
デミグラスソースだ。
「向こうは一つしかないですけどメイン料理用ですからね」
「そ、それを試しに食べる事は出来ないか?」
まだまだ作り始めたばかりの茶色のソースが、ロビンの料理人の勘としてとても美味しくなりそうに感じた。
「材料があれば小さいですけど作りますよ。ソースの増量もまだ出来ますしね」
「何を用意すればいい?」
* * *
指示して作られたエビピラフは王族のランチの一品として出ていった。アリシアからのメッセージがこもっているので、気に入ってくれるといいのだけれど。
そしてアリシアのお昼ご飯は、ラシーン大陸の材料で作った麵を使用した塩焼きそば。ソース焼きそば用の中濃ソースは材料の研究中だ。
「うーん、問題なし」
この麵はこっちでは売ってないので、作らないとダメな欠点はある。けれど例えば町単位とか騎士団からの発注があれば、麵業者で仕事になるだろう。
でもこの麵が出来ればラーメンにも繋がるので、中濃ソースとは別にそっちも考えたい。
「これは国王にはお出し出来ないか?」
「材料も豚コマとかキャベツなので、そんなにいい料理ではないですよ。これは大衆向けだと思います」
味見として料理人達にも渡して、 これはこれで好評だった。
「出せて騎士団ですかねー」
「城の裏方の人間用には悪くないが」
麵さえ出来てしまえば、材料も調味料も多くはないし、大量に作るには向いている。
「そういう用途ならまた教えに来ますよ」
「考えてみよう」
これとは別にエビピラフも試食したけれど、美味しかったようだ。
* * *
アンナマリーをエバンス家に送る役は、今日はエリアスが担当した。
やどりぎ館での昼食が終わってから、晩餐には少し早めにエバンス家の屋敷にやって来た。
「お父様は館に来てくれるだろうか」
「お部屋が狭いと感じるなら、二人部屋でもいいわよ」
館内の案内用書類も持ってきたので、どの部屋を使うのかはそれで決めて貰おうと思う。
ラスタルを守る将軍として、以前にヒルダのところの騎士団を、特に食事を見てみたいと言っていたので、来てくれるとは思う。
父親をモートレルに連れてきたいという事はヒルダにも伝えているので、視察に来た際には受け入れの了承は得ている。
ただ今回の主目的は自分の生活を見て貰いたいのと、ある料理を食べて欲しいという事。
2人で屋敷に入っていき、ランセル将軍の部屋に向かった。
「お父様、アンナマリーです。お話しがあって来ました」
「おお、来たか。入るがいい」
部屋の中では、ランセルはデスクに座り、書類仕事をしていた。
「エリアス殿だったな。火山の件では色々と世話になった」
いつもはアリシアが送り迎えをすることから、今日は珍しい人物がいたので、少々驚きながら、ランセルはエリアスに座るようソファーを勧めた。
「アリシア君は城にいるのだったな。それでアンナマリー、私に話とは?」
「お父様がよかったらという話なのですが、休みも兼ねて、私の生活を見にやどりぎ館に来ませんか?」
「お前の住んでいる下宿か、異世界にあるという?」
「そうです」
「管理人であるアリシアもそうですが、入居者は部屋に空きがあれば友人や家族を招くことも出来ます。お部屋はその、あまり広いとは言えませんが」
以前に娘の生活を収めた写真は見せて貰ったけれど、改めてエリアスの持ってきた資料を見せて貰った。
「宿泊用の部屋もあるというのだな?」
「部屋はその、私から見てしまうとシンプルではあるのですが。居心地はとてもよいです」
宿泊部屋は当然、基本的な家財道具しか置いていない。殺風景ではあるけれど、その分感覚的に広い。
「同じこの屋敷に住んでいるお前が不満を感じていないのだろう? それであれば私にとっても気になる要素があるとは思えないがな」
確かに狭いけれど、娘が今どういう場所で生活しているのか、それは以前から気になっていた所だ。
この屋敷に比べればとてもシンプルだ。けれど館内は綺麗そうだし、温泉もあるというし、環境は良さそうだ。元々いた騎士団の寮とは比べものにならない空間だ。
それと、娘が日々何を食べているのかも知りたい。
あとはあの霞沙羅とは、同じ軍人関係者として、向こうの世界の軍隊について、主に隊員の育成方法について聞いてみたい。
「ヒルダ様も、是非騎士団を見て欲しいと言っておりました」
「なるほど、パスカール家の騎士団が今どういう状態にあるのかは久しぶりにこの目で見てみたいし、お前の直属の上官にも挨拶をしなくてはな」
「当日の送迎は私かアリシアで行いますので、一瞬です」
「そうか。いつでもいいのだな?」
「はい」
「では今日、晩餐会が終わる頃までには回答しよう。もうしばらく待って欲しい」
「お、お父様に食べて欲しい料理があるんです」
「確かにアリシア君の料理は美味しかったが、お前がそこまでいうモノがあるのか。ハンバーグとかいうモノか?」
「いえ、違うんです」
「そうなのか」
いつ宿泊するかの予定については、アンナマリーが帰る時にでも、アリシアかエリアスに伝えようと決めた。
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