王宮での晩餐会 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
時間は遡って少し前の日、大賢者タウからの呼び出しがあって、アリシアは魔法学院の理事長室にやって来た。
「急に呼び出して悪いが、お前の作っている冷蔵箱について、今一度その有用性を確かめたいと王から一つの依頼を受けた」
タウの横には学院では見慣れないおじさんが一人いた。
「お前はあの冷蔵箱を使って、我々だけでなく、ランセル将軍主催で貴族達を招いた食事会で料理を作っているな?」
「そうですね」
今の所、この王都では2回、それと長時間の実験検証として、ヒルダの家で主に魚介系の料理を作っている。
「偶然とはいえお前は一度、マーロン国王に料理を振る舞っているから、信頼は得ていると自信を持っていい。それにランセル将軍に招かれた貴族達からの評判もある。彼らは色々と会う者達にあの晩に食べた料理について自慢をしているようだ」
「は、はあ」
「元々はお前独自の研究だったが、今は魔法学院の重要事業の一つとなっている。お前の料理を振る舞い、王族を含めた多くの貴族達を味方につけて、研究を円滑に進めるのに良い方向に持っていくのだ」
「はあ」
確かに最近になって冷蔵箱の材料費は、立替とはいえ、使った分はしっかり本校に請求するのだと言われている。
少し前には部屋は本校で用意するぞと言われていたけれど、それももう「分校で自由にやるといい」と言われた。
そのくらい冷蔵箱を研究しているアリシアが重要視されている。
「それと儂もまたお前の料理が食べたい。出来れば肉料理が」
「タウ様…」
もう百歳を超えているのに、食欲があるという事は元気な印なんだろうけれど、こうまで堂々と言われてしまうと呆れてしまう。
「ただ王宮での料理となるので、実際に料理を作るのはこちらに来ておられる王宮料理室料理長のロビン=カピート殿を中心とした料理人達となる」
タウに紹介されて料理長は軽く、本当に軽く会釈をした。
見た事も会った事も無いけれど、王宮一番の料理人として、アリシアは料理長ロビンの名前は知っている。
「ロビン殿達へ調理の指示を出すのがお前の仕事だ。今回は場所が王宮故、自分で料理をしたいだろうが、その辺りの事情を理解して欲しい」
「ええ、まあそれは」
さすがにアリシアも王宮内で料理をさせて貰えるとか、そこまで自惚れているわけではない。
そんな事よりも、王宮の厨房に足を踏み入れられる方がうれしい。それにこの料理長は、平民宿屋出身のアリシアにとっては憧れの人でもある。
そんな人が率いている料理人達のいる現場をすぐ側で見れるのは単純に嬉しい。
今となっては英雄とか言われるようになっても、アリシアにだって変わらずに憧れている場所はある。
「アリシア君とは、事前にどういった料理を作るのか、どういった材料が必要なのか打ち合わせをさせて貰いたい」
「魚介類はどうします? ブルックスから買ってこないといけないですよ」
「お前のあの箱を食量調達担当者に使わせる事は出来るか?」
「ええ、いいですけど。いずれは販売するわけですし、料理人の人が使うとどうなるかとかも見たいです」
「その試験も含めてな。我々の料理はお前が好きにしていい。また寮の厨房を貸そう」
ちゃっかり対象者が「儂」から「我々」に変化している。何人分を作らされるのだろうか。
「解りました。じゃあ打ち合わせの時に箱を持ってきますね」
「貴族達の噂では箱がもう一つあると聞いたが?」
「ありますけど、あれは当日の仕込み用で、持ち運び用じゃないんです」
「魔工具については料理人からは何も言えないが、現物の説明はして貰おう」
「はい、解りました」
* * *
そんな経緯があって、国王主催の晩餐会の当日となり、アリシアは午前中から例の執事服を着て、城にやって来た。
参加者はマーロン王を初めとした王族、各大臣に将軍等といった、国の重鎮達。
出席者は奥さんも連れてくることもあって、今回は人数も多くて、冷蔵箱に収納出来る魚介類だけでは足りないので、肉料理も出してと、またもやコース料理風になっている。
あとで料理の解説役として出席するアンナマリーも合流する事にもなっている。
それと、どうせ指示役なのだからと、タウ達の料理も厨房の一角を借りて、学院と城の厨房とを行ったり来たりしながら作る事になっている。
今日の料理を作って貰う王宮の料理人達とは先日の打ち合わせで顔合わせをしている。
全員、国内ではエリート料理人達ばかりなので、「何でこいつが」的な眼差しを向けられたけれど、アリシア的にはこんな話に乗っかれただけでも嬉しい。
しかし彼らはプロ。少なくとも国王達にお出しする料理を、世界を救った英雄とは言え、元平民の一般宿屋出身者に指示されて作るとか「ふざけんじゃねえ」という態度で臨むような事は無いだろうし、そんな事が国王にバレたらメンツを潰されたと職場を追い出されかねないので、そんな事はしないだろう。
今日は我慢して欲しいな、と思いながら厨房に入って、挨拶をした。
冷蔵箱は貸し出していて、転移の出来る魔術師が今朝、調達担当者を連れて往復して、港町ブルックスから魚介類は運び込まれている。
「じゃあ写真を持ってきましたので」
各料理がどういう物でどういう盛り付けになるのか、打ち合わせの時にも画像は見せているけれど、改めて、厨房に貼り付ける為に印刷して持ってきた。
今日作る料理も冷蔵箱のデモンストレーションもあって、色々と食べて欲しいので、各料理は少なめでメニューは多め。
料理は「魚介のマリネサラダ」「エビのビスク」「魚介とキノコのアヒージョ」「二種のクリームコロッケ」「ローストビーフ」「フライドチキン」「パエリア」「牛肉のクリーミーボロネーゼ」と各種付け合わせやソース、そして国王からもリクエストがあった「アイスクリーム」。
それらの指示をする傍ら、学院の魔術師相手に「ハンバーグ盛り合わせ」を作っていく。
厨房の人達はこれとは別に王家向けの昼食も同時並行で作っていく事になるので、アリシア的には今度この国にはお米を増産して欲しいので、お試しでエビピラフを作って貰う事にしている。
「それではよろしくお願いします」
ホントにこんな平民出がこれだけの料理を指示出来るのか、懐疑的な見方もある中、まずは下ごしらえから始まった。
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