セネルムントへの新しい風 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「温泉って、また入っていくの?」
「違うぜ。温泉大国出身の人間としてはここの温泉は見逃せなくてな。お前の権限で源泉を見る事は出来ないか?」
霞沙羅は料理を作るようなことはしないだろう。アリシアと違って発想も違うだろうし、オルガンの件もあるから、話だけは聞いてみようと思った。
「私は温泉担当じゃないから、管理人に聞いてみるわ」
源泉は大神殿の一角からあふれ出していて、かなり高温な事もあって、外気に触れさせてその温度を下げる為に、外のあるプールに流すようになっている。
源泉の吹き出し口はオリエンスからの賜り物とされているので、一般の神官では見せてくれない。
ただ、その管理人の一人が霞沙羅のオルガンにいたく感動していたので、ひょっとすると見せてくれるかもしれないと、あたってみた。
「どのような目的があるのです?」
源泉の管理人として初老の神官が出てきた。
霞沙羅への印象はいいけれど、そこは長い事やってきた神官。神からの贈り物を管理している職員としては許可出来ない所はある。
「異世界の話だが、私の国は古来から温泉に並々ならぬ情熱を注いできた。他国にも温泉文化はあるが、ウチの国はそれなりに狭い国土ながら、各地に多くの温泉がある。このアリシアの下宿にもあるし、下宿のある小樽という町にも温泉をウリにした宿も風呂屋も幾つもあって住民も利用している」
「それで?」
「外のプールも見せて貰ったし、イリーナの神殿でも入浴させて貰った。そこで気が付いたのだが、この温泉には私らが湯ノ花と呼ぶ成分の塊がある。ここではあれを無駄に捨ててないか?」
「あのプールに沈んでいたり、お湯に浮いてるゴミみたいなものですか?」
「あれはゴミじゃないんですか?」
「違うぞ、あれは温泉に含まれている成分だ。高温で湧き出る温泉を冷ました際に分離するもので、ウチの国では湯ノ花と呼んで、採取している場所もある」
「あれは入浴剤って言って、普通のお風呂に入れると温泉的な効果を追加することが出来るんだー。温泉の成分の塊だからね」
「神聖な温泉なんだろ、その成分を何にも使わずに捨てるのは勿体なくないか?」
その言葉に神官である2人はハッとなった。
「温泉は、ウチの国でも英雄や聖人が発見、もしくは病気などに苦しむ民衆の為に神の啓示を受けて掘り当てたりと、宗教的な民話が残された温泉がある。だからただ入浴するだけでなく、そのお湯や熱を利用して料理を作ったり、沈殿した成分も地熱も使えるのなら、有り難がるだけじゃなくて、有り難く使うというのがウチの国の温泉との接し方だ。とりあえず、この国じゃ温泉はここしかないようだし、温泉そのものは無理でも、その成分をここに来る事が難しい遠くの人間に届けてもいいんじゃないだろうか? 神殿で信者に入浴させるとかでもどうだ? という提案だ」
霞沙羅の説明を受けて、2人は固まってしまった。霞沙羅が言う事が本当なら、神からの賜り物と言いながら、勿体ない事をしているのでは、と。
「まあ実際は源泉じゃなくて、外のプールの方が採取しやすいんだがな」
「霞沙羅さん的には、その、ユノハナ、という物はこの温泉から採れるんですね?」
「充分採れるぜ」
実は前回アリシアがお湯を持って帰って、その一部を、霞沙羅の知り合いに成分を調査して貰っている。その結果、草津の泉質に似ていることが解っている。
「今は正しい採り方じゃないが、湯ノ花を見せてやろうか?」
* * *
霞沙羅の提案に、温泉の冷却用プールのメンテナンス場所から入っていき、清掃用のシャベルを借りてプールの底に貯まっていた湯ノ花を一部採取した。
「この採り方は魔術師的だから今回だけだぜ」
脱水を行う為に魔法を使用すると、霞沙羅の手にはプールの底から引っ張り上げた白い泥のような物を急速に乾燥させた粉があった。
「ホントは時間をかけて乾燥をさせるんだがな」
「これが、ユノハナ?」
白い粉末になっているのを見ると、霞沙羅が言った意味が解る。こんなものを捨てていたのはオリエンス神に申し訳ない。
「これを、多分金持ちの家にしか風呂はないだろうが、湯船にはったお湯に混ぜるんだぜ」
粉末になった湯ノ花は管理人の神官が持ってきたスープ用のお椀に入れた。粉末をじっと見て、急に大切そうに扱い始めた。この姿になると霞沙羅の言っていた「温泉の成分」という事も納得出来る。
「この粉はどこの温泉でも採れるモノなの?」
「源泉の温度や泉質によるんだぜ。だからアリシアの館の温泉からは採れない。どっちが良いとかではないが、折角オリエンス神がこの泉質を選んだのなら、使い尽くさないとな」
これについてはエリアスが噴火騒動の時に「オリエンスが火山から温泉を引っ張ってきた」と口に出したので、本当の事だ。
オリエンスがどういう経緯で選んだのかは知らないけれど、まさに賜り物だった。
なぜ今まで神官連中に言わなかった、と言いたいがその辺の事情にはツッコまない方がいい。神は無口なものなのだ。
そんな話をしているとイリーナ達は湯ノ花の白い粉が神聖なものに見えてきた。
「これを本気で採取する気があれば、加工の仕方を教えるぜ」
「か、これは、会議にかけます!」
神官は湯ノ花が入ったお椀を大事そうに持って去って行った。
「実際のところ、ウチの国じゃ風呂が一般家庭にも家庭に普及しているから、観光土産として売ってるんだがな。まあ扱い方は教団に任せるぜ」
「はあ…、やっぱりカサラは神の扱いが上手いわよ」
「信仰心が無いから扱いが雑なだけだぜ。それで、こいつも温泉に別の用があるんだぜ」
「卵の話?」
「そうじゃなくて、この温泉を使って簡易転移装置を作ろうって話なの。設計上、力が弱くて、一人か二人しか出来ないんだけど。イリーナってモートレルに来るの大変でしょ?」
ハルキスとライアは移動手段が無いので仕方ないとして、イリーナは職業柄、神殿の転移装置を動かす事が出来る。でもモートレルの教会は転移先ではないので、ルビィかアリシアが行かないとダメだ。
「転移装置って、モートレルの教会じゃ設置は無理でしょ?」
「もう作っちゃったよ、このくらいの加工した宝石を使ったアクセサリーなんだけどね。エリアスにも確認して貰ったけど、設計は大丈夫だって。でも正規の神官じゃないボクだと最後の登録が出来ないから、今度モートレルに来たらお願いするねー」
二人揃ってとんでもない提案をしてきた。
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